たとえば、殺人事件が領内で起ったとすれば、次のような手続きになる。
これらは単独犯の場合で、共犯者に他領者が含まれていた場合に、津軽弘前藩では自分仕置ができず、幕府の吟味・仕置となる。ただし、幕府は例外として、寛政六年(一七九四)以後、博奕(ばくち)犯の処罰の迅速・徹底を期すために、博奕罪にかぎり犯罪地領主にも刑罰権を認めたので、津軽弘前藩でも自分仕置をなしえた。
このように他領に関連する事件は幕府の吟味・仕置となるので、諸藩に共通してみられた態度は、なるべく関連諸家の間で内部的に処理しようとしたことである。その主な理由は一つに、幕府の吟味・仕置となるための手続が複雑で、藩の大きな負担となったこと。次に、藩は事件が幕府にもたらされることによって、領内の施政・治安の乱れが知られ、その責任を問われるのを警戒したことである(平松義郎『近世刑事訴訟法の研究』一九六〇年 創文社刊)。