地券の発行準備

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明治政府は、明治五年(一八七二)に田畑の永代売買を解禁するなど、従来の土地制度を改革する意図を示したが、同年に地券の発行を決定した。この地券は、当初は土地売買の際の権利の所在を明確化する証書としての意味を持つものとして発行が意図されたが、次第にすべての土地に発行するものに変えられた。その意図は大蔵省によって各府県へ伝えられ、県は町村へ伝達した。地券を渡す指針として、「地券渡方心得書」が作成されたが、それは次のとおりである。
 地券渡方心得書
  第壱条

一、従来之検地帳今日ニ至リ錯乱之廉(かど)不少ニ付、惣而(そうじて)一村限絵図面差出候積ニ候得共、積雪之時節絵図面ヲ製候義難相成ニ付、村方ニ而当時相用候持高帳之類ヲ以、持主限為(かぎり)書出、一村限取纏メ台帳江記入之事

  第弐条

一、地所番号管内ニ無之、然ニ検地帳突合者従来誰抱ト云ヲ以突合セ来候ニ付、即今村方之絵図面等無之、番号難走分者、右誰抱之処ヲ以券状渡置、明年雪消次第絵図面書来候ニ而番号書加相渡候事

  第三条

一、地券番号之義ハ一村限相設候事

  第四条

一、田畑番号者屋敷番号之外ニ相定候事

  第五条

一、切添切開或ハ除地、見捨地等江家屋取建候哉、其他隠田タリトモ一切差許シ候ニ付而者、右之分惣而地代金改而取立ニ不及事

  第六条

一、仮令者百姓之内ニ而、壱反歩之名目ヲ以所持致、自分モ同様相心得、書上候処、后而竿入致壱反弐畝歩或ハ壱反五畝歩等有之候而モ、有心取造ニアラサレハ、隠田等之御所置ニ者不及候事

  第七条

一、本庁并各支庁、湊役所等モ惣而台帳江記載之事

  第八条

一、陸運会社郵便所等モ地価ヲ定、券状可相渡事

  第九条

一、山村并原野之義、別ニ官ヨリ授与之証無之、無税之地者別段御評議迄、地所片付方之義、先見合候事

  但、抱山并秣場ト而授与之分ハ別段之事

  第十条

一、貫属屋敷地并町方等無税ノ地之分ハ、総而東京府下地券規則之通候事

  第十一条

一、拝借又者貸渡地等低価払之義、地方相当代価之半高積ヲ以取調、更ニ可伺事

  (中略)

  第二十二条

一、公租之甘苦ニ不抱、方今売買上適当之代価取調之事

  第二十三条

一、地券代価不相当書出候者、重畳説諭ヲ加、至当ニ帰着候様取計之事

  第二十四条

一、地券相渡候後、損地出来候ハゝ、地所見分之上損地之分外書ニ記載、更ニ地券書替相渡候事

  (中略)

  担当別

   (中略)

第拾八  元堀越組  第拾九  元和徳組

第弐拾  元弘前   第弐拾壱 元駒越組

第弐拾弐 元駒越組  第弐拾三 元藤代組

第弐拾四 元高杉組  第弐拾五 元高杉組

            伊藤正良

            平出清

            神市太郎(後略)

(弘前市立図書館所蔵)

 このようにして発行された地券は、発行年の干支を取って壬申(じんしん)地券と呼ばれるが、弘前地域においてどの程度発行されたのかは不明である。この文書は、県から各地の担当者にあてて出されたものであるが、県民に直接出された文書もあった。それは「地券申請取調規則」である。これは以下の文章で始まっている。
今般、従来持来之分、地券御渡ニ相成候ニ付、村々田畑屋敷地、山林等、都而(すべて)持主之候地所者、反別高、現今売買相当之地価、并地引絵図共持主切取調、一村毎ニ取纏メ可申出事
(弘前市立図書館所蔵)


写真14 地券(明治10年のもの)

 このような地券発行の準備行動は、直後の地租改正につながっていくのである。