合併仮契約書
株式会社第五十九銀行(以下甲と称す)と、株式会社黒石銀行(以下乙と称す)と合併する目的を以て、両者代表者間に合併仮契約を締結すること左の如し
株式会社第五十九銀行(以下甲と称す)と、株式会社黒石銀行(以下乙と称す)と合併する目的を以て、両者代表者間に合併仮契約を締結すること左の如し
第一条 甲は乙の債権債務を継承して合併し、乙は解散し、甲は存続するものとす、但し、合併実行の日は大正八年七月二十五日とし、若し認可書同日迄に到着せさる時は更に協議して日を定む
第二条 甲は資本金六十五万円を増加し、其総額二百十五万円とすること
第三条 甲は前条増資額に対し、五十円払込済の株式五千四百株、三十七円五十銭払込の株式七千六百株を発行し、乙株主に対し、乙銀行と同一の株数を交付すること、即ち、乙五十円払込株式一株に対し、甲五十円払込済新株式一株乙三十七円五十銭、払込株式一株に対し、甲三十七円五十銭払込の新株式一株を交付す
第四条 乙は甲と資産状態の均衡を計る目的を以て、乙株主に対し五十円払込株式一株に付金五円を、三十七円五十銭払込株式一株に付金三円七十五銭、合計金五万五千五百円の寄附金を為さしめたる上合併するものとす
第五条 甲は解散始末金として合併実行の日に於て金二万円を乙の指定せる処分委員に交付するものとす
第六条 甲は黒石支店を乙本店所在地へ移し、又浪岡支店を乙浪岡支店の所在地に移し営業を継続するものとす
第七条 甲は乙の株主に交付したる株式に対しては、其期の初に遡り甲株主と同一配当金を支払ふものとす
第八条 合併実行の日の属する期の乙の損益勘定は甲に帰属するものとす
第九条 乙の株主は本契約に因る合併前に於て甲か他の銀行と合併契約を締結することあるも、本契約の効力に関しては妨けなきことを予め承認するものとす
第十条 此の契約は甲乙両者の株主総会に於て承認決議ありたる時を以て効力を生するものとす
第十一条 合併に関する一切の手続は甲乙両者の取締役に一任し、尚、此契約書に規定を欠くか又は法律上支障を生したる事項は、甲乙両者の取締役間に於て協定すへきものとす
右契約を締結したる証として本書二通を作り各自一通を分有するものなり
この合併の実現には、黒石銀行の頭取であるとともに第五十九銀行の株主である加藤宇兵衛(黒石地方の大地主)が関わったと考えられる。加藤を通じて両行は緊密な関係にあり、相互に内情を知り尽くしているといって過言ではなかった。加藤は、銀行条例改正により小規模銀行の整理が進められると、黒石銀行の存続は次第に困難になると判断し、また、株主としての立場から第五十九銀行の大増資計画を知り、他の黒石銀行の株主らに諮り、黒石銀行への投資を第五十九銀行に切り換えたと考えられる。これは、第五十九銀行の増資が完了した大正九年上期末、加藤が筆頭株主である佐々木嘉太郎の七二二四株に次ぐ六〇〇〇株の大株主となり、合併時黒石銀行の取締役で、第五十九銀行の株主としては微々たる存在であった鳴海文四郎が三〇四五株(第四位)、同じく取締役の宇野清左衛門が一三五〇株(第一八位)と大株主の一員となったことで推測できる。
さらに第五十九銀行は、黒石銀行を合併した直後の大正八年十月二十六日に弘前銀行を合併する(合併契約書は資料近・現代1No.六一九参照)。弘前銀行は弘前地方の商人らが中心となって設立された銀行であるが(第二章第三節第八項参照)、同行の株主や役員には第五十九銀行の株主を兼ねる者が多く、つながりが深かった。また、黒石銀行と同じく、第五十九銀行の大増資の見込みや大蔵省の合併奨励により合併に踏み切ったと考えられる(青森銀行行史編纂室『青森銀行史』青森銀行、一九六八年)。