昭和十六年十一月、大蔵省は青森県下普通銀行八行の代表者を同省に招致し、八行合併し、新銀行設立に向けた根本方針を示したところ、各行は異論を唱えなかったため合併は順調に進むと思われた。しかし、八行のうち三行(第五十九・青森・佐々木銀行)を除く五行(八戸・津軽・青森商業・弘前商業・板柳銀行)は第五十九銀行専務に対する極度の反感と第五十九銀行に対する対抗意識を超えた敵対意識を抱いており、合併の条件として第五十九銀行専務の引退と新銀行が第五十九銀行主導で運営されないことを提示し、交渉は難航した(資料近・現代2No.二〇一)。
写真39 戦時下の第五十九銀行
十八年になると大蔵省は再び合併を勧めるため、県下各行に対して出省を命じた。出省した各行は普通銀行八行の大合併を行うため、次のような上申書を提出するよう求められた。
上申書
当行は時局に鑑み、県下金融機関の整備強化と其の円滑なる発展に資する為、御省斡旋に従ひ和協の精神を以て、此の際青森県内八普通銀行の合併に依り、新銀行を新立すること(但し、不参加のものある場合は、之を除きたるものを以て合併を実現すること)に異議なく、尚、新銀行の資本金、合併比率、持寄積立金、本店所在地、商号、役員の選任等は総て、御省に一任仕り度此段及上申候也
当行は時局に鑑み、県下金融機関の整備強化と其の円滑なる発展に資する為、御省斡旋に従ひ和協の精神を以て、此の際青森県内八普通銀行の合併に依り、新銀行を新立すること(但し、不参加のものある場合は、之を除きたるものを以て合併を実現すること)に異議なく、尚、新銀行の資本金、合併比率、持寄積立金、本店所在地、商号、役員の選任等は総て、御省に一任仕り度此段及上申候也
(同前No.二〇二)
この上申書の文案はすでに大蔵省で準備され、合併に関してはすべて大蔵省に委任する内容となっており、同省の態度はきわめて強引といえるものであった。
結局、合併の勧奨に応じたのは板柳・八戸・第五十九・津軽・青森銀行の五行(佐々木銀行は佐々木家の帳場銀行であり、合併五銀行とは異質な要素が多いため同時合併は見送られ、新銀行設立後に吸収合併されることになった)で、弘前商業・青森商業銀行は不参加となった。
五行合併の要項は次のとおりである。
青森県下五行合併要項
一、板柳、八戸、第五十九、津軽及青森の五行は合併して新銀行を設立すること
一、新銀行の商号 株式会社青森銀行
一、同本店 青森市(第五十九銀行青森支店跡)
一、合併比率 板柳、第五十九、津軽及青森の四銀行株に付ては、各其の十株に対し、新銀行株七株
八戸銀行株に付ては、其の五株に対し新銀行株三株
一、新銀行の資本金 公称 一一、八六〇、〇〇〇円
払込済 六、六三二、九五〇円
一、新銀行への持寄積立金(不表現分を含む)新銀行払込済資本金の三割
一、新銀行の役員 十二人以内
一、新銀行の開業予定日 昭和十八年十月一日
一、板柳、八戸、第五十九、津軽及青森の五行は合併して新銀行を設立すること
一、新銀行の商号 株式会社青森銀行
一、同本店 青森市(第五十九銀行青森支店跡)
一、合併比率 板柳、第五十九、津軽及青森の四銀行株に付ては、各其の十株に対し、新銀行株七株
八戸銀行株に付ては、其の五株に対し新銀行株三株
一、新銀行の資本金 公称 一一、八六〇、〇〇〇円
払込済 六、六三二、九五〇円
一、新銀行への持寄積立金(不表現分を含む)新銀行払込済資本金の三割
一、新銀行の役員 十二人以内
一、新銀行の開業予定日 昭和十八年十月一日
(同前No.二〇三)
当初難航した合併は、第五十九銀行が自らの商号に固執せず、「青森銀行」で了解したこと、また、県下の親銀行として群を抜く資金量であったにもかかわらず、合併比率を同じにするなど(八戸銀行はやや低いが)、譲歩したことで達成できたと考えられる。
十八年六月十二日に仮調印が行われ、七月十日に各行一斉に合併承認の臨時株主総会が開催、そして、九月二十七日に新銀行の創立総会が開催され、十月一日に新銀行「青森銀行」が開業した。発足した青森銀行の役員は、取締役九名、監査役三名であり、その氏名は次のとおりである。
取締役頭取 佐々木嘉太郎(前第五十九銀行頭取)
専務取締役 林崎浩太郎(前日本銀行本店証券課長)
常務取締役 久保喜一郎(前日本銀行本店営業局地方課主事)
総務取締役 高谷英城(前津軽銀行頭取)
取締役 苫米地義三(前八戸銀行頭取・板柳銀行相談役)
同 渡辺佐助(前青森銀行頭取・第五十九銀行取締役)
同 菊池仁康(前板柳銀行頭取)
同 宇野清一郎(前第五十九銀行取締役)
同 安田才助(前第五十九銀行監査役・板柳銀行取締役)
監査役 藤林源右衛門(前青森銀行取締役)
同 津島文治(前第五十九銀行監査役)
同 楢館良寛(前八戸銀行監査役)
専務取締役 林崎浩太郎(前日本銀行本店証券課長)
常務取締役 久保喜一郎(前日本銀行本店営業局地方課主事)
総務取締役 高谷英城(前津軽銀行頭取)
取締役 苫米地義三(前八戸銀行頭取・板柳銀行相談役)
同 渡辺佐助(前青森銀行頭取・第五十九銀行取締役)
同 菊池仁康(前板柳銀行頭取)
同 宇野清一郎(前第五十九銀行取締役)
同 安田才助(前第五十九銀行監査役・板柳銀行取締役)
監査役 藤林源右衛門(前青森銀行取締役)
同 津島文治(前第五十九銀行監査役)
同 楢館良寛(前八戸銀行監査役)
(資料近・現代2No.二〇六および前掲『青森銀行史』)
青森銀行の誕生により、県下の普通銀行は青森銀行のほか、佐々木・青森商業・弘前商業銀行の四行に半減した。ここに県下銀行における青森銀行の地位を示すと表13のようになる。
表13 県下銀行界における青森銀行の地位(昭和18年9月30日現在) | |||||
(単位:千円) | |||||
行名 | 資本金 | 払込資本金 | 預金残高 | 貸出残高(割引手形を含む) | 有価証券残高 |
青森 | 11,860 | 6,633 | 141,752 | 47,872 | 89,772 |
佐々木 | 500 | 125 | 2,470 | 428 | 1,378 |
青森商業 | 1,500 | 915 | 2,841 | 1,514 | 2,327 |
弘前商業 | 1,500 | 675 | 10,352 | 2,811 | 6,933 |
計 | 15,360 | 8,348 | 157,415 | 52,625 | 100,410 |
前掲『青森銀行史』より作成 |
青森銀行は、払込資本金の八〇%、預金の九〇%、貸出の九一%、有価証券の八九%を占める県下の巨大銀行となった。
十九年六月、青森銀行は佐々木、弘前商業銀行を相次いで吸収合併し、県下の普通銀行は青森銀行と青森商業銀行の二行となり、第五十九銀行を中心とした県下における一県一行主義はほぼ達成された。
図1 青森県内銀行系統図
図1 青森県内銀行系統図