今官一の文学の魅力

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弘前市出身の直木賞作家今官一(明治四二-昭和六一 一九〇九-一九八六)の、知的で情あふれる文学は、はるかな海や辺境へのロマンを感じさせる。今官一の作品数は、必ずしも多くはない。全集ももたなかった。
 しかし、全集に勝るとも劣らない作品集がある。『今官一作品』上・下(昭和五十五年 津軽書房刊)である。これは日本最高の印刷技術の粋を結集した、類まれな豪華本であるとの高い評価を得ている。編集した小山内時雄がその「後記」で今官一文学を、次のように分析している。
時流に超然として、飽くまで独自の作風を守り続け、寡作に甘んずる氏の小説は、恐らく八十篇を超えないであろうから、ここに収めた作品でもって、曙光に輝く新雪の岩木山を仰ぐような、峻厳孤高の今官一を見ることができるであろう。

 いま、今官一文学を概観したいのだが、むろん、この作品集を避けて通ることはできない。この作品集が発行されたとき、官一は「作品集が出来上がりました。フランス風のショウシャな作りです。満足しています。もう何も言うことありません」と、その喜びを友人に認(したた)めた。
 「岩木山を仰ぐような、峻厳孤高の」官一の文学はまた、ハイカラともダンディズムともロマンチックとも称される。そして、ある評者は「もっとも津軽的な作家である」とも述べている。したがって、官一の人と作品について語ることは〈津軽の文学者の関係性〉に言及することにもなる。
 それでは、その魅力的な文学の源流はどこにあるのか。すなわち、官一はいつごろから文学を志したのだろうか。