【所在】禪樂寺は南旅籠町東三丁字内農人町にあつたが、明治四十一年南宗寺境内德泉庵へ合併した。【禪樂寺と不盡菴】同寺の境域は、前名不盡菴（天倫和尚語錄、谷氏系譜傳）となつて元祿二年の堺大繪圖に見えて居る。【不盡菴の境域】卽ち南旅籠町農人町にあつて北面し、東は一間の水道を隔てゝ鹽穴池と境した幅員一間半の道路に、西は一間の犬走、同三間の水道を隔てゝ南宗寺塔頭の本源院に、南は幅員二間の水道を隔てゝ鹽穴橋に通じた道路に、北は道路を中にして妙光寺及び人家に接した東西三十二間（新間三十四間四尺）南北三十五間（新間三十七間五尺五寸）の境域であつた。現在では右三方の水道は失はれ、北方の妙光寺のみが元祿當時の場所に存してゐる。故に妙光寺南方の一劃は不盡菴址であると同時に又禪樂寺址ともなるのである。其舊址は現在工場、人家、墓地址等に分れ、東北の一隅に往時の土塀の一部を殘してゐる。【舊址】舊址建物中南旅籠町東三丁十六番地松浦特許品製作所及び澱粉製造所の工場が主要部を占めてゐる。又墓地址は西方南宗寺塔頭本源院境にあつて、墓石疊々として倒れ、【中村宗貞父子の墓碑】僅に中村宗貞父子の墓碑が殘されてゐる。墓碑は墓地址西寄に東面し、父を南、子を北とし、宗雪墓碑は臺石共に高さ五尺餘、碑面に「梅僊宗雪居士」背面に元文二年三月九日歿する由を記し、南方宗貞の墓碑は高さ臺石共に六尺、碑の正面に「天德宗貞居士」と刻してゐる。【大心和尚墓碑】猶墓地址東方澱粉製造所境に倒壞した竪四尺餘、橫二尺餘、厚さ五六寸の碑石は、當寺第三世大心和尚の墓碑である。墓碑は地中に埋沒して背面のみを露出し表裏兩面に銘文が見えてゐる。

第百二十一圖版　禪樂寺址