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構成と内容

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 『蝦夷志料』は、これまでの蝦夷地関係文献をひろく収集し、地域・事項の部門別に分類したもので、総計二一〇冊、二〇九巻よりなる大部なものであった。地域部門は(一)松前、(二)箱館、(三)本蝦夷、(四)北蝦夷、(五)東蝦夷からなる。(三)は東西蝦夷地、(四)はカラフト、(五)は千島列島及びカムチャツカ半島のことである。事項部門は、たとえば(三)本蝦夷の場合、以下の三二項目(八五冊)におよんでいる。
  ①総説、②吏職、③山海(附、海路巌石)、④川沢(附、江沼湖泉滝温泉)、⑤林野(附、牧)、⑥田圃・村落、⑦道路、⑧湊泊、⑨島嶼(松前箱館本蝦夷部)、⑩津済、⑪彊界・天度・気候、⑫人物、⑬言語、⑭神社(附、祭祀・祈祷)、⑮仏宇(附、喪葬・墳墓)、⑯居宅(附、城址)、⑰風俗・衣服、⑱飲食、⑲調度(附、彫工)、⑳舟車・産業、21交易、22土産、23穀類・菜疏(附、海藻)、24草木(附、竹)、25鳥獣、26鱗介・虫豸、27技芸、28医卜・疾病、29警衛、30漂着、31変災・怪異・異舶、32寇変(松前箱館本蝦夷部)
 以上の項目を一覧してわかるように、ここには自然・地理地形・動植物・産物・交通・アイヌ関係など、あらゆる分野が項目化されており、あたかも蝦夷地の百科事典のような体裁となっている。
 イシカリ場所は、右記の本蝦夷部に収録されている。そして各事項毎に、「蝦夷志拾遺」(佐藤玄六郎)、「蝦夷風土記」(関龔子敬)、「東海参譚」(東寗元稹)、「蝦夷巡礼筆記」(高橋寛光)、「蝦夷地見聞録」、「安政元年巡見記」などの諸書より、イシカリ場所の関係記事が引載されている。
 前田夏蔭は、『蝦夷東西考証』(二巻)、『蝦夷地名考』(一巻)などの著書もあり、後者は蝦夷地の地名を漢字にあてたものである。夏蔭は蝦夷地に足をふみ入れることはなかったが、蝦夷地に関する知識は相当に深かった。しかし、夏蔭は『蝦夷志料』の編纂なかば、元治元年(一八六四)八月二十六日に死去した。そのあとは男夏繁が引継ぎ、慶応元年(一八六五)四月に『蝦夷志料』が完成し、幕府に上呈された。また附録に、林子平『三国通覧』・村上島之丞蝦夷島奇観』・間宮林蔵『東韃地方紀行』など、一〇種の文献が転載された。さらに図譜も作成されたようだが、これらは現存していない。