官営牧場が優秀な種畜を導入し、牛馬の品種改良と繁殖を行った一方で、二十年代には民間でも大牧場が札幌市中や近在に出現した。なかでも前田牧場は、堀基が二十一年石狩郡花畔、札幌郡篠路村にまたがる二〇〇町歩余の土地に農場を創業、エアーシャー種、ハイグレード種の牛の繁殖に着手したのに始まる。二十七年侯爵前田利嗣が牧場を譲り受けたことから、前田農場の名で後世に伝えられるが、本牧場は小樽と苗穂に搾乳場をもち、市乳と畜牛生産をもってきこえた。
このほか二十四年には、宇都宮仙太郎による宇都宮牧場が北一条西一五丁目の桑園内に創業し、牛乳販売を手がけている。これ以前にも小規模ではあるが、二十年に上白石村の山崎清躬が島松村で牧場建設に着手したり、島松村の中山久蔵も牧牛畜馬をはじめたという(豊平町史資料)。このように二十年代には、札幌近郊に多くの秀れた民営牧場が出現した。月寒村の吉田善太郎による吉田牧場もその一つである。