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戊申文庫

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 北海道教育会附属図書館北九条尋常高等小学校附属通俗図書館と並んで、「札幌の三図書館」(北タイ 明44・2・28)のひとつであった札幌女子尋常高等小学校内の戊申文庫の実態は、史料的制約から不明な点が多いが、当時の新聞記事をもとにそのアウトラインを紹介しておこう。
 設立は同校の創立二〇周年記念事業として計画されたものである。その主体は同校の同窓会で、明治四十一年九月七日に建設に着手し(札幌市立大通小学校 学校沿革史)、翌年(明42)二月十一日に開館した。同文庫は木造閲覧室と石造書庫の二棟から成り立っていた(北タイ 明41・9・2)。閲覧室は男女に分けられていたように、通俗教育の場にも男女別学原則が貫かれていた。同文庫の設立は「広く公衆に一般的通俗的の知識を供給する」(北タイ 明42・2・14)ことを目的としていた。開館時間は午前九時から午後四時までで、特別の場合を除き休館日は設けていなかった(同前)。閲覧料は教員と学生、生徒は無料であったが、その他の区民は一人に付き一回二銭を支払う必要があった(同前)。
 開館直後は閲覧者が多く、四十二年三月では三三三三人に上っていた。そのうち小学生が三〇一四人、中学生が一七五人、高等女学校生徒が一〇二人を占めていた(北タイ 明42・4・6)。これを裏付けるように、『小樽新聞』(明42・3・12)は「毎日退出後集まる小学生は閲覧室に溢るゝばかり」と報じていた。蔵書のなかでは文学書の人気が高く、『不如帰』『紅葉全集』『巌窟王』『樗牛全集』『沙翁全集』などがよく読まれていた(同前)。四十四年三月現在の蔵書冊数は一四二九冊で、文学書の割合が格段に高かった(北タイ 明44・3・2)。これは利用者層とそのニーズに即したものといえよう。将来的に同文庫を「図書館規則に依る組織的のものと」(北タイ 明42・2・14)したり、「札幌女子小学校の附属図書館とすべき条件の下に札幌区に全部寄付」(北タイ 明44・3・2)したりする計画が存在していたが、その事実は確認できない。
表-9 戊申文庫統計
年度蔵書冊数開館日数閲覧者数1日平均
明42537冊289日22,178人76.7人
 431,42932211,21334.8
 441,42932724,59175.2
大11,44532319,49560.4
 21,44531718,60958.7
 31,44531513,85344.0
 41,44532615,82948.6
 51,9233036,18320.4
 61,1681305204.0
 71,1882076,21030.0
 81,2751928,64045.0
 91,2832046,00029.4
 101,3851734502.6
『札幌区統計』『札幌区統計書』『札幌区統計一班』より作成。

 四十三年に北海道庁内務部が地方改良運動の「成果」を集約した『戊申詔書ト本道ノ施設』中の「札幌区」の項に、「札幌女子高等小学ハ紀念トシテ戊申文庫ヲ設立シ之ヲ開放シ以テ矯風向上ノ一助タランコトヲ期セリ」と記されている。同文庫は「札幌区」の項で唯一固有名詞で記され、「戊申詔書煥発」の記念施設と位置づけられていたように、札幌区内の地方改良運動の先導的役割を果たしていたといえよう。このほか、小学校付設の図書館としては後年、豊水尋常高等小学校に「大典記念豊水文庫」(大5)、東尋常高等小学校に「東児童文庫」(大9)、山鼻尋常高等小学校に「みゆき文庫」(大9)がそれぞれ設置された(年表・北海道の図書館)。