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第四四回帝国議会

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 大正九年十二月二十五日から翌十年三月二十七日にかけて開かれた第四四回帝国議会には、四つの市制改正案が提出された。一つは浜田国松ら国民党から、二つ目は箕浦勝人ら憲政会から、三つ目は大道寺慶男ら政友会から、そして四つ目が政府からである。札幌市制に関わる改正条文を含むのは政府提出のものだけで、他の三案にないから、以下政府案について、札幌市制へ向けての取り組みをみていきたい。
 新しい内務省案は、四二議会に準備したものと変わっていた。一七七条に勅令案をまとめて収め、北海道の市については附則の二項に移したのである。煩雑だが後日これが大きな問題となるので左に記しておく。
 第百七十七条 本法中府県、府県制、府県知事、府県参事会、府県名誉職参事会員、府県高等官、所属府県ノ官吏若ハ有給吏員、府県税又ハ直接府県税ニ関スル規定ハ 北海道ニ付テハ各地方費、道会法、道庁長官、道参事会、道名誉職参事会員、道庁高等官、道庁ノ官吏若ハ地方費ノ有給吏員、北海道地方税又ハ直接北海道地方税ニ、町村又ハ町村会ニ関スル規定ハ 北海道ニ付テハ各町村又ハ町村会ニ該当スルモノニ関シ之ヲ適用ス
 附則
本法中公民権及選挙ニ関スル規定ハ次ノ総選挙ヨリ之ヲ施行シ 其ノ他ノ規定ノ施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
北海道又ハ沖縄県ノ区ヲ廃シテ市ヲ置カムトスルトキハ第三条ノ例ニ依ル
(公文類聚 大10 巻一)

 この内務省案をもって大正九年十二月十七日閣議を請い、翌十年三月一日に閣議決定し、三月五日衆議院に提出した。これが本会議第一読会に上程されたのは三月九日のことで、そこで床次内務大臣は法案提出理由を四つ挙げ、その四点目で北海道市制問題に言及した。
第四ノ点ハ、町村制施行区域ノ拡張デアリマス。大正七年三月本院ニ於テ、沖縄県下ノ町村ニ町村制ヲ施行セラレタイト云フ建議ガ可決ニナッテ居リマス。政府ニ於テモ十分調査致シマシタ結果、其然ルベキヲ考ヘマシテ、茲ニ沖縄県下ニ市町村制ヲ施行スルコトニ致シマシタ。又北海道ニ於ケル所ノ町村ハ、未タ町村制ヲ施行スル時期到達致シマセヌガ、其区ニ於テハ市制ヲ施行致シマシテモ、何等内地ノ市ト異ナル所ヲ認メマセヌ。仍テ此度北海道市制ヲ施行スルコトニ致シマシタ。
(帝国議会衆議院議事速記録 第四四回)

 法案は府県制中改正法律案外八件を審議する委員会に付託されたが、塚本内務省地方局長はその席で、内相発言を次のように補足している。
市制第百七十七条。現行ノ市制ハ町村制ト其施行区域ヲ同一ニ致シテ居リマシテ、北海道ニ於キマシテハ町村制モ施行シテ居リマセヌ。同時ニ市制モ施行シテ居リマセヌ。朝鮮ニ於テハ今尚市町村制ヲ内地同様ニ施行スルノ時期トハ思ヒマセヌケレドモ、北海道ニ付テ見マスト、区ニ於キマシテハ共同生活ノ状況、区ノ事業、区ノ経済、財政等カラ観察致シマシテ、内地ノ市ト異ル所ガナイト認メテ、言葉ヲ換ヘテ言ヘバ市制ヲ施行スルノ機運ガ熟シテ居ルト考ヘルノデアリマス。要スルニ市制ト町村制ヲ引離シマシテ、町村ニ於キマシテハ町村制ヲ施行致シマセヌデモ、区ヲ市ニ致シタ為メニ、市制ヲ施ク方法ヲ執ル為メニ、此条ノ改正ヲ致シマシタ。即チ市制ト町村制ト其施行区域ヲ別ニ致シマシテ、北海道ノ区ニ付テ市制ヲ施行スル為メニ、此条ノ改正ヲ致シタノデアリマス。
(同前)

 委員会では政府案の一部(第一一条、一二五条)を修正可決し、三月十五日の衆院本会議でこれを決定したが、委員会、本会議を通して北海道市制を施行する問題点がいくつか論議された。黒金泰義議員は区会議員の半数改選と次期選挙の関わり及び町村制未実施の理由を、小池仁郎議員は北海道の地方制度を統一し、市制町村制を全面施行すれば、市制一七七条をあえて改正する必要がなくなると強く主張、府県制との関連を問題視した。松実喜代太議員は道制を制定して市町村制と一体化するよう求め参事会について問い、浅川浩議員は公民権資格について、大口喜六議員は市制と一、二級町村の関係を、大道寺慶男議員は道会法との関係を取り上げた。
 衆議院で可決した市制中改正法律案(政府提出、一部修正)は三月十六日貴族院本会議に出され、特別委員会に付託されることになった。この時点までの市制一七七条と附則の条文案は、当初の政府案となんら変わるところがない。