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第五期市会議員

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 昭和十二年(一九三七)七月の蘆溝橋事件が発端となり、政府の不拡大方針にかかわらず、事変は日中全面戦争へと展開していった。政府は国民の積極的な戦争協力と国家への忠誠を求め、国民精神総動員運動を推進し、節約と愛国精神の昂揚をはかり、日の丸弁当、国民服、モンペの普及に努め、市長は「希くは市民各位が深き理解を以て、終始歩調を一つにして同行協力せられんことを」呼びかけた(札幌市告諭第二号 昭12・10・13)。事件後間もない八月十五日、札幌市では時計台時局並国体精神大講演会を開き、十月以降は毎月国民精神総動員講演映画会を市公会堂で行った。そして十三年四月、近衛文麿内閣のもとで国家総動員法が公布され、戦争に必要なすべての物資の生産、流通から金融、教育、警備等の業務、徴用という人的動員に至るまで、一切を国家が統制運用することになった。
 これの具体的な措置はすべて勅令に委任されたから、議会の立法権は制約を受け、地方自治の立場もまたきわめて狭められる結果となった。こうした政治的、経済的、社会的変革期に第四期市会の任期は満了し、第五期議員選挙を迎えた。
 十三年十月三日の選挙に、定員四〇人のところ「候補者総数六十四名、昭和九年の改選より四名の増加となり、極めて気乗り薄とみられた選挙界は俄然定員を超過すること二十四名、予想以上の激戦を展開するに至ったが、戦時体制下の稀有の選挙であり、市民一般の観察は概ね冷静沈着、公正人格の士を求める動向にある」(北タイ 昭13・9・27)と見られた。政党政派による本時代最後の選挙戦となった今回は、結果として憲政会系の伝統をひきつぐ実業青年会が一四人、政友会系の公友会が八人とほぼ前期に変わらず、いずれも市会で過半数を占めるに至らなかったから、中立と小会派(同好会、中正クラブ、革新、更新、社会大衆党)議員の動向が政策決定の鍵となった。その中で、当時唯一の合法無産政党である社会大衆党候補者が最高得票で当選したのが注目される。
 初市会選以来、新人議員が半数に達していたが、前回選から減少傾向をみせ、今回は三二人の候補中当選は一三人で、ほぼ三分の一まで減った。それだけ前・元議員の再選が目立ち、上位二〇位のうち新人は二人にすぎないから、非常時下の激戦と評判になったほどの変化をもたらしたわけではない。むしろ、有権者の棄権が大幅に増加したのが今回の特徴といえる。道内市会選における札幌市の投票率は、函館市とともに毎回低かったが、今回はついに七〇パーセントを割り、棄権率は三〇・一パーセントに達した。
 その原因を北海タイムスは次のように分析している。まず第一に「由来、札幌はサラリーマン階級、殊に官吏の多い都市であるためか、選挙に対しては比較的冷静な態度を示して来たといはれているが、この冷静が浮草気質から出た無関心に変」ったのだろうと推測する。札幌の人口増加の一因を転勤族のサラリーマン層が担い、地元意識が希薄で街づくりへの参加意欲を欠いているというのだ。次に、日中戦争の深刻化、国家総動員法下の統制、そして民主主義自由主義の排除等々「時局に気をとられて、選挙への関心がお留守になった」ことをあげている。第三の指摘は、選挙粛正運動の影響である。「粛正が行はれ、その結果買収等の悪質違反が大分少くなった事は事実であるが、その反面選挙に対する畏怖心を植付ける逆作用を伴った事も見逃し得ない事実である。即ち棄権防止運動は選挙粛正運動に追付けなかった」と見る(北タイ 昭13・10・5)。選挙粛正運動の末端組織に位置付けられた衛生・火防両組合は、警察による違反検挙を恐れ、例年の秋期検査を選挙後に延期したりした。
 選挙粛正運動をさらに一歩進めて、立候補者を半官製団体が銓衡推薦し、愛市精神に溢れた市会議員を選ぼうという愛市運動が、青森、宇和島、呉、静岡など本州市会選で展開されつつあった。札幌市の現状は「我々市民が満足し敢て天下に誇るやうな賞讃に価する市政や市会あるを未だ関知していないとすれば、市政の改善市会の刷新こそ市民の重大なる責務」であるにもかかわらず、「市民の熱意が特に活潑に表れぬのはどうしたことか。勿論戦時下のためとは言へ、斯かる生緩さと市政に対する無関心さでは到底非常時市政の確立とか市政の改革などは望み得まい」(北タイ 昭13・9・29)として、愛市運動への取り組みを訴える人もいた。市役所には「公正の一票 愛市の選挙」という標語が掲げられたものの、今回選で本州各市のような愛市愛郷運動の展開とはならなかった。
 なお、今期内に特異な出来事があった。一つは候補者岩井定次郎が投票日の朝死去し、四七一票を得て上位当選圈にありながら無効票となったこと、後日三人の辞職者が出て繰上当選者を生じたこと、円山町合併により十六年五月三十一日、三人の増員選挙を実施したことなどである。