この時期の札幌地域は、どのような産業構造であったのだろうか。各種商品生産価額の産業部門別内訳を表1にまとめた。ここでは、当時の札幌市の数値と現市域を構成する札幌村、篠路村、琴似村、手稲村、藻岩村、白石村、豊平町の七町村の数値を掲げた。生産物のなかで最も多いのは工産品であり、全体の七〇パーセントから八〇パーセントを占めていた。次いで農産品が一〇パーセント台を占め、第三位の畜産と合わせると二〇パーセント程度の比重になる。このほか鉱産品、林産品、水産品が小さい比率ながら存在していた。
表-1 生産物総価額 |
年 | 農産 | 畜産 | 林産 | 水産 | 鉱産 | 工産 | 合計 |
構成比 | 構成比 | 構成比 | 構成比 | 構成比 | 構成比 | 構成比 | |
大12 | 4,508,991円 13.7% | 1,404,852円 4.3% | 355,743円 1.1% | 115,973円 0.4% | 132,604円 0.4% | 26,512,859円 80.3% | 33,031,120円 100.0% |
13 | 5,033,527 13.0 | 1,517,641 3.9 | 446,001 1.2 | 70,450 0.2 | 262,326 0.7 | 31,246,149 81.0 | 38,576,094 100.0 |
14 | 5,313,698 14.3 | 1,572,477 4.2 | 234,926 0.6 | 70,805 0.2 | 844,687 2.3 | 29,139,575 78.4 | 37,176,071 100.0 |
15 | 4,640,108 15.9 | 1,862,520 6.4 | 230,546 0.8 | 79,074 0.3 | 390,976 1.3 | 21,896,206 75.2 | 29,118,345 100.0 |
昭 2 | 5,238,009 17.0 | 1,636,868 5.3 | 245,818 0.8 | 106,131 0.3 | 593,153 1.9 | 22,919,844 74.6 | 30,740,323 100.0 |
4 | 5,020,795 15.9 | 1,546,648 4.9 | 191,211 0.6 | 130,518 0.4 | 59,070 0.2 | 24,546,282 77.8 | 31,544,023 100.0 |
5 | 2,524,392 9.3 | 1,153,431 4.3 | 145,915 0.5 | 104,718 0.4 | 40,072 0.1 | 23,019,131 85.1 | 27,044,405 100.0 |
6 | 2,456,096 11.6 | 1,142,211 5.4 | 243,626 1.1 | 106,982 0.5 | 73,280 0.3 | 17,269,331 81.2 | 21,262,137 100.0 |
7 | 2,902,704 12.9 | 1,100,031 4.9 | 182,995 0.8 | 111,881 0.5 | 781,368 3.5 | 17,206,055 76.2 | 22,568,182 100.0 |
8 | 4,247,644 15.8 | 1,333,648 5.0 | 528,088 2.0 | 110,046 0.4 | 1,322,185 4.9 | 19,281,981 71.9 | 26,830,237 100.0 |
9 | 3,797,627 12.0 | 1,397,435 4.4 | 673,860 2.1 | 99,517 0.3 | 743,515 2.4 | 24,799,979 78.7 | 31,516,807 100.0 |
10 | 4,293,322 13.9 | 1,352,318 4.4 | 572,832 1.9 | 94,783 0.3 | 831,543 2.7 | 24,143,469 78.2 | 30,891,941 100.0 |
11 | 5,132,873 12.0 | 1,452,211 3.4 | 487,576 1.1 | 89,590 0.2 | 285,740 0.7 | 33,459,895 78.1 | 42,840,273 100.0 |
13 | 7,896,931 11.0 | 2,605,048 3.6 | 977,257 1.4 | 97,827 0.1 | 2,094,631 2.9 | 58,127,559 81.0 | 71,799,253 100.0 |
14 | 10,721,331 11.4 | 3,014,665 3.2 | 1,039,696 1.1 | 376,882 0.4 | 78,935,111 83.9 | 94,087,687 100.0 |
1.数値は札幌市,札幌村,篠路村,琴似村,手稲村,藻岩村,白石村,豊平町の合計。 2.昭和3年及び12年は不明。 3.原資料の数値を集計したために合計欄の数値が各産業の合計と一致しない年もある。 4.札幌市は『北海道庁統計書』各年,町村は第2章5節-表-17より作成。 |
ところで表1と同様の数値を明治後期から大正前期にかけて検討した結果、札幌区(戦前期の札幌市に該当)と周辺町村部では産業構造が大きく異なっており、現札幌市域の数値は、これら性格の違う産業構造が相殺されたものであったことがわかった(市史 通史三)。すなわち、札幌区は著しく工業に偏り、町村部は著しく農業に偏っていたのである。そこで、表1の元データを市部、町村部に分けて、それぞれの産業部門でいかほどを札幌市が占めるか、すなわち「市部比率」を調べてみた。表1の各産業部門の市部比率を、大正十四年について計算すると、農産四・二パーセント、畜産四一・一パーセント、林産〇・四パーセント、水産九三・五パーセント、鉱産〇パーセント、工産九四・七パーセント、合計七六・八となる。現札幌市域の生産品のおよそ四分の三は札幌市で生産されていたのである。また、札幌市部は工業に特化し、町村部は農業に特化するという明治後期・大正前期にみられた特徴は継続していたといえるだろう。
表1では、物をつくる産業のみを対象としていたが、たとえば、商業、サービス業などをも含めた産業構造はどうなっていたのだろうか。職業別人口の面からまとめた表2をみることにしよう。昭和五年国勢調査によるものだが、現札幌市域の有業者のうち最も多いのは工業に従事する者で、次いで商業、農業、公務自由業となっていた。ところが、札幌市部と町村部に分けてみるとまったく異なった結果が得られる。すなわち、札幌市では、商業が第一位で工業は第二位、公務自由業が第三位となる。これに対して町村部では、農業が過半を占め、次いで工業、商業の順となっている。有業者の職業別内訳では、札幌市部が商業、工業に、町村部は農業に特化していたことがわかる。
表-2 職業別人口 |
農業 | 水産業 | 鉱業 | 工業 | 商業 | 交通業 | 公務自由業 | 家事使用人 | その他の有業者 | 有業者計 | |
札幌市 | 1,706人 2.9% | 90人 0.2% | 117人 0.2% | 16,849人 29.0% | 17,278人 29.7% | 3,779人 6.5% | 11,563人 19.9% | 2,940人 5.1% | 3,782人 6.5% | 58,104人 100.0% |
札幌村 | 2,231 | 6 | 3 | 1,335 | 281 | 241 | 418 | 79 | 219 | 4,813 |
篠路村 | 1,436 | 25 | 0 | 48 | 56 | 27 | 34 | 27 | 8 | 1,661 |
琴似村 | 2,580 | 1 | 3 | 318 | 155 | 60 | 289 | 67 | 98 | 3,571 |
手稲村 | 1,603 | 3 | 6 | 176 | 106 | 71 | 92 | 28 | 27 | 2,112 |
藻岩村 | 1,346 | 4 | 14 | 394 | 638 | 196 | 748 | 180 | 138 | 3,658 |
豊平町 | 3,837 | 4 | 78 | 503 | 623 | 143 | 38 | 61 | 167 | 6,951 |
白石村 | 2,511 | 1 | 3 | 396 | 171 | 144 | 30 | 68 | 112 | 3,554 |
町村部小計 | 15,544 | 44 | 107 | 3,170 | 2,030 | 882 | 1,649 | 510 | 769 | 26,320 |
59.1% | 0.2% | 0.4% | 12.0% | 7.7% | 3.4% | 6.3% | 1.9% | 2.9% | 100.0% | |
現札幌市域 | 17,250 | 134 | 224 | 20,019 | 19,308 | 4,661 | 13,212 | 3,450 | 4,551 | 84,424 |
20.4% | 0.2% | 0.3% | 23.7% | 22.9% | 5.5% | 15.6% | 4.1% | 5.4% | 100.0% |
内閣統計局『昭和五年国勢調査報告』(第4巻府県編1北海道)より作成。 |
また、市部比率を算出すると、有業者計のうち六八・八パーセントを市部が占め、三一・二パーセントを町村部が占めていた。これは、先にみた生産価額における市部比率よりも低い。言い換えれば、札幌市部は、有業者における比重を上回って生産価額における比重が高かった、すなわち労働生産性が高かったということを示唆している。また、表示はしていないが、男女別の人数もわかるのでふれておくと、有業者合計のうち七三・四パーセントが男子であり二六・六パーセントが女子であった。特に市部では男子が七六・八パーセントと高く、逆に町村部では、六六・〇パーセントであった。札幌市は道内他都市と比べても男工比率が高かったのである(北海道庁内務部統計課 労働統計実地調査結果総括表 第一報 年次不詳)。