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働く女性の地位

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 第一次世界大戦中の大戦景気の中で、職業婦人が増加していったことは第三巻で述べた。それとともに大戦前と後とでは、女子の中等教育を受ける者が約三倍に増加し、卒業後結婚までの短い期間にせよ、家庭の外で何らかの職業に従事する女性が増えていたことも確かである。札幌市立職業紹介所には、これら中等教育以上卒業者の就職斡旋のために「知識階級」職業紹介部を、また「女子部」を設けたのは、そういった時代の要求にこたえたものといえよう。職場に出た女性の職種、待遇はどうだったのだろうか。
 表14は、『北海タイムス』が昭和二年三月「学校を巣立ちて職を選ぶ娘逹へ」をシリーズで掲載した当時の職業婦人の実態を示したものである。これによると、職業の種類としては、交換手、百貨店女店員、札鉄雇員、女教員、タイピスト、看護婦、道庁給仕があげられている。以上の職種についてみると、交換手は一三~一五歳のものが多く、尋常卒程度で三カ月の見習を経て四年以上勤務で主事補となり、日給一円が支給された。百貨店女店員は、高等女学校卒がほとんどで、今井呉服店では、労務管理から市内居住者に限定していた。女教員は看護婦、産婆とならんで明治期からある女性の三大天職であるが、男教員と較べ五円くらいの賃金格差があった。また看護婦は、看護講習科を二年間受けてはじめて資格が得られる職種であるにもかかわらず、必ずしも高い評価は得られていない。この時期おめみえしたのがタイピストと給仕である。タイピストは大正十五年十月、札幌市南四条西三丁目に日本タイプライター株式会社が講習を開始し、高等小学校卒程度のものが講習三カ月(月五円)で修了できるようになった。昭和二年三月当時、タイプライターは札鉄二五台、札逓二五台、道庁二七台、拓銀二七台と備えられ、女性の新しい職場でもあった。それに較べ給仕は、尋常小学校卒で道庁に入り雑用を一手に引き受ける仕事で、約一〇〇人のうち女子が三〇人くらいいた。男子は、一日の仕事を終えてから道庁内に設立された青年学校に通い、その後師範や中学校への進学者が多いのに較べ、女子は二〇歳前後まで働いて事務員に、あるいは専門学校検定試験を受けるものもいた。のちに市役所にも「ハイカラな洋装の女給仕さん」が出現した(北タイ 昭6・5・15)ように、昭和初めの不況時には給仕志願者が殺到した(北タイ 昭7・2・26)。
表-14 職業婦人の初任給(昭和2年3月)
職種給与備考
札幌交換局交換手日給  73銭見習中日給44銭
百貨店店員(高女卒)日給  50銭ただし見習中
札鉄雇員(高小卒)日給80~90銭
   〃  (高女卒)日給  95銭月給最高60円,平均29円50銭
女教員月給  30円
 〃 (専科)月給  35円音楽・裁縫女学校卒50円以上
 〃 (高女補習科)月給  40円
タイピスト(邦文)月給  30円高小卒程度,講習3カ月必要
看護婦月給15~22円北大病院看護法講習科卒
道庁給仕(尋小卒)日給  40銭高等1年以上は45銭
『北タイ』(昭2.3.1~13)より作成。

 これ以外では、学校衛生婦(大15月給四〇円)、市バス車掌(昭6月給二二~二三円)、電車車掌(昭9日給五〇銭)、女性速記者(大15道庁速記術講習所終了)、美容術(昭4)、マネキンガール(昭4)、映画館切符売り(テケツ、昭4)タクシー運転手(昭10)など、時代の先端をいく職業に女性がどんどん入っていった。しかし、昭和初めの不況時には男性同様就職難に直面したことも事実である。七年の場合女学校卒で月一五円(北タイ 昭7・8・16)というのはないよりはまだ増しであった。不況時でも「女中」や「子守」だけは引っ張りだこで、不況時の場合女子の方が高い就職率を示した(第七章二節参照)。女学校卒業者は、映画等を通して知った「モダンガール」への憧れから、百貨店の女店員や車掌、流行のカフェーのウェートレスへの希望も多かった。
 このような新しい時代の職業とは無縁な工場労働者や、「出面取り」と呼ばれた日雇の女子労働者が多かったことを忘れてはならない。工場で働く女工の多くは、帝国製麻、北海道製綱、古谷製菓等で一日一五時間もの長時間で働き、昭和三年の場合、一日わずか六〇~八〇銭(札幌市統計一班)の収入を得ていた。このため、後述するように労働時間の短縮など待遇改善要求を出している。一方の「出面取り」は、水道工事の鉄管埋めのあとの地ならし(タコ搗き)、豊平川の砂利採取、道路工事、農家の手伝いなどの肉体労働で、その日の糧を得るため一日一〇時間労働で六〇銭といくらかの歩合といったのが相場であった(北タイ 昭10・10・3)。これらの職種の中には、不況時の失業救済事業も多く含まれ、働く女性は独身も多いが子供を抱えた寡婦もいた。不況は、女性たちにもさまざまな翳をおとしていた。