『善光寺独案内』には、末尾に長野市の商店の広告が大量に掲載されています。その数を町別に整理すると、次のようになります。
大門町29 新町7 後町4 立町4 石堂町4 横町3 元善町3 田町2 栄町2 新田町1 伊勢町1 横沢町1 東町1 淀ヶ橋1
大門町が圧倒的に多いことが分かります。大門町は江戸時代以来、最も商店の多い町であったのは事実ですが、本書の出版元が大門町にあり、広告が取り易かったこともあるのでしょう。明治21年の長野駅の開業をきっかけに、しだいに石堂町・千歳町といった長野駅周辺の町が繁栄するようになりますが、ここではまだそうした傾向は見られません。
広告の内容は、末尾近くにある薬の広告が目を引きます。これらの薬は、「善光寺の霊薬」「善光丸」「善光堂」などの文字からも、善光寺の知名度を生かして、参拝者向けに販売されていたことが分かります。実際に、病気平癒を祈願するために善光寺に参詣する人は少なくなかったのです。中でも、「岩間水」「雲切光明香」「明治水」といった目薬類の広告が目に付きます。現在も善光寺境内の「親鸞聖人爪彫の阿弥陀如来」のほこらは、眼病の平癒を祈願する人が絶えません。門前では今も「雲切目薬」が販売されています。こうした中に、善光寺信仰の一面を見ることができます。