福島通信

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          嶽 林 堂 主 人
覚束(おぼつか)なき筆を頼りに福島の近況御通信申上候(もうしあげそうろう)。何処(どこ)を見ても花なりし福島も僅(わずか)の間に葉の世と相成(あいなり)候。従而(したがって)やれ観会の、やれ同年講の、やれすべいつたころんだと底抜け喧ぎをした金比羅山の平地も、今は酒の香を失ひ、何処を風が吹くやらすまし込み居(お)り申候。斯(か)くの如(ごと)く4月下旬の福島は至極平凡に且つ無事にて、一向に此れと取留めて御通信申す様な事も無之(これなく)候。
5月1日は当福島町民の待ちに待った中央西線全通式挙行の日に御座候(ござそうろう)。今日よりは俄多馬車屋の顎(あご)上つたり(注63)やに御座候。
此日は名古屋に於て中央線全通祝賀会催され福島辺の有家も沢山(たくさん)招待せられたる様に御座候。
翌2日の福島は名古屋の中央線全通式祝賀会に臨める主客一同の中央線視察団を迎へ申し候。長野県第一番の歓迎所の事とて、其混雑甚敷(はなはだし)く立錐の余地なきとは、斯くの如き有様を形容せし言葉と存じ候。
一行は0時50分頃着福。直ちにステーション前の大広場に天幕を以て囲ひし仮設立食場にて中食(ちゅうじき:昼食)を了(りょう:おえる)し後、長野より遠征し来れる芸者の美篶(みすず)頭及福島芸者の木曽踊を見物仕(つかまつ)り候。此等は御客様の気に入りたる哉(や)否やは、知るに由なき事に御座候へ共、黒山の様に集つた山出連(やまでれん:山から出て来た連中)の度胆を抜きしは確かの事と存じ候。尚(なお)一行はステーション内、木曽の名産陳列場等を見物し、2時半頃夜会場諏訪へ向けて出発仕り候。
此日の本町通の模様は山師的、夜店的商人の山出人を当込み大道へ陣を敷き居る様及人出の多き事……馬こそ居らね7月の馬市の如き有様に御座候。
山出連殊に汽車様に初見参(けんざん:目上の者に対面すること)の連中は腰を抜かして帰りし事と存じ候。
5月に入りては他に御通信申上る様な事も無之(これなく)候故、又いづれ次号にて御目に掛る可(べ)く、今回は之れにて失礼仕り候。
 
 
  会 費 領 収 報 告
1 円       原   七 郎 君
99銭       大 脇 又 衛 君
72銭       正 又 実次郎 君
50銭       宮 沢 嘉 一 君
         向 井 辰次郎 君
         樋 ロ   勇 君
         木 下   清 君
36銭       梨 原 貞 治 君
         服 部 啓次郎 君
         仁 科    君
          沢 荘太郎 君
72銭       中 村 豊 次 君
50銭       野 村  智 君
35銭       園 原 咲 也 君