[恵山町の鳥相]

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 鳥類は、北海道南部特有の鳥相を呈し、温帯北部独特の南方系鳥類の繁殖北限と接しているものと思われる。また、北方系鳥類の越冬地としての位置だけでなく、鳥類の移動経路の重要な位置を占めているものと推察される。例えば、初夏の頃、遠く南のオーストラリア、ニュージーランド沖の島嶼で繁殖し夏期、北海道周辺海域を含む北太平洋、オホーツク海およびベーリング海域で越夏する数万羽のハシボソミズナギドリ、ハイイロミズナギドリの大群がこの恵山沖の津軽海峡を通過して行く。また、春秋の渡りの季節には、西は本州の青森県三厩村竜飛岬〜北海道松前町白神岬を中心に、東は青森県下北半島の大間町大間崎、東通村尻屋崎、北海道恵山町御崎、戸井町汐首岬、椴法華村恵山岬に囲まれた海峡を通過する夥しい数の渡り鳥が観測されている。
 このことは、北海道側での鳥類標識調査はもちろん、津軽海峡を挟んで対峙する青森県下北半島、津軽半島における鳥類標識調査などにより将来明らかにされるものと確信する。
 かつて先人のトーマス・W・ブラキストンが本州と北海道に生息する動物を調べ、「北海道に生息する鳥や動物は、津軽海峡を挟んで本州の鳥や動物と異なる」こと大なることに気づき、1883年2月14日、東京の商工会議所で開かれたアジア協会の席で「大陸と日本列島の古代における結びつきを示す動物学上のあらわれ」と題して発表。地震学者ミルン教授がこの動物分布境界線を「ブラキストン・ライン」と呼ぶことを提唱、後に世界中の学界で認められたものである。
 このような生物学上の重要な地に接する恵山町だが、近年進行しつつある地球温暖化の影響も見過ごすことはできない。尻岸内川河口での結氷の状況は、2000年より2001年、2001年より2002年と少なくなり、冬季間完全に結氷することはない。このため河口域および尻岸内川流域で越冬する種も少なくない。
 恵山町は南側を海に開かれた大地で海鳥の観察には事欠かない。それはアジア大陸の首飾りの様に連なる日本列島の持つ最大の特徴でもある。太古から連綿と続く鳥類の大移動、すなわち渡りのルートに位置していることとも深い関係をもっている。と同時にこの日本列島を渡る鳥類の回廊ともいえる津軽海峡の東側に位置する恵山のもつ意義は大きいといえる。
 北海道の北方にはサハリン(旧樺太)があり、東方には、北方領土の国後択捉の大きな2島を含む歯舞、色丹の諸島にロシア領のクリル諸島がカムチャツカ半島へと繋がっている。北海道を通過する鳥類の多くはこれらの島々を通過して夏は繁殖地へ、秋から冬には越冬地へ往来していることは良く知られているところである。その渡りの時期この津軽海峡を経ずして目的地に到達することはできないのである。まして恵山の特徴ある姿は野鳥たちにとっても見慣れた景観としてその存在を認識しているものと思われる。
 その一端が恵山町にあるわけで、しかも多くの鳥類はその繁殖に際しすべての生物がそうであるように、厳しい気象を避け、温暖で静かな場所、豊かなエネルギー源のある場所(餌場)を選んで繁殖しているように、越冬に際してもそのことが最低限要求されていることは明白である。
 このため、各種鳥類が恵山町の豊かな山野、内湾、河川、河口域、海洋を利用して繁殖し、越冬しているのを確認されている。また、春秋の渡りには、本地域を中継地として渡りをしている種を多数確認することができた。
 日本産鳥類は、542種、外来種26種が生息確認されているが、恵山町では、18目48科175種を数えた。
 〈その内訳は〉
アビ目     1科  4種  カイツブリ目 1科 5種  ミズナギドリ目  2科  5種
ペリカン目   1科  2種  コウノトリ目 1科 6種  カモ目      1科 25種
タカ目     2科 15種  キジ目    1科 2種  ツル目      1科  1種
チドリ目    6科 28種  ハト目    1科 2種  カッコウ目    1科  4種
フクロウ目   1科  2種  ヨタカ目   1科 1種  アマツバメ目   1科  1種
ブッポウソウ目 2科  2種  キツツキ目  1科 6種  スズメ目    22科 74種
合計:47科:185種
 (註)この鳥類生息調査は2000年3月から2002年1月までである。