これらの事件は殆んど町村の記録にも残っておらず、忘れられてしまい、或は莫然(ばくぜん)とした言い伝えになっているだけのものもある。戸井を含めた下海岸の昔の事件を年月日順に挙げて見ると次のようなものである。
[事件]
事件 | 年月日 |
①女那川の東京丸坐礁事件 | 明治五、三、二 |
②古武井鉱山の雪崩による大惨事 | 明治四一、三、八 |
③椴法華沖の汽船衝突事件 | 明治四一、三、二三 |
④古武井鉱山の大火 | 明治四一、六、一一 |
⑤戸井村役場の火事 | 明治四二、一、二四 |
⑥小安の網子別(あごわか)れの殺傷事件 | 明治四二、一二、一九 |
⑦古武井、大滝の沢の大火 | 明治四三、四、一三 |
⑧戸井町、弁才澗の大火 | 大正三、九、二九 |
⑨汐首燈台官舎の火事 | 大正四、一、二三 |
⑩汐首岬の鰮船転覆漁夫溺死事件 | 大正四、一二、一四 |
⑪女那川の軍艦笠置坐洲事件 | 大正五、七、二〇 |
⑫椴法華、銚子岬沖の磯舟転覆事件 | 大正七、一、一八 |
⑬汐首岬の漁船遭難事件 | 大正一一、一一、八 |
⑭椴法華、島泊の大火 | 大正一二、五、二 |
⑮古武井浜の鰮騒動 | 大正一三、一一、二五 |
⑯終戦直前の米機の空襲 | 昭和二〇、七、一四―一五 |
⑰戸井の海難事件 | 昭和三八、一、一六 |
⑱日浦トンネル入口附近の土砂崩れ | 昭和四七、六、二二 |
明治以降に下海岸の戸井、尻岸内、椴法華に発生した主な事件を調べて、その経過と結末を書いて見たが、どの事件を取上げて見ても、平和な村々を騒がせ、素朴な村人を驚かした事件であることが想像される。
特に明治五年、開拓使御用船東京丸が女那川沖の岩礁地帯に坐礁難破した事件、大正五年帝国軍艦笠置(かさぎ)が女那川沖に坐洲した事件などは、近郷近在の人々がこれを見るために現地へ行った事件であり、北海道史や日本の歴史、特に帝国海軍の歴史に記録されている大事件であった。今日のように新聞、ラジオ、テレビのあった時代であれば、ビッグニュースとして全国に報道されるような大事件であったのである。
明治、大正時代の大事件は、その事件の発生した現地の人々でも知っている人は殆んどいない。ここに挙げた下海岸の種々の事件のうち明治、大正時代のものを知っている人は極めて少ないだろう。これらの事件の発生した時代に生存していた祖父母や父母たちから聞いたこともないという事件も多いものと思う。「昔こんな事件があった」ということを父母や祖父母から聞いた人も若干あるだろうが、くわしい経過を知っている人は殆んどいないものと思う。
ここに挙げた事件のうち、明治、大正時代の事件については当時の警察の記録その他の資料をもとにして調べて書いたものである。