以上のように、当町の全般的植生は北海道とはいえ本州の延長線上にあって、海岸に沿って街村状に発達している市街地と、これに伴う耕地、植林地を除いた全域のほとんどが夏緑広葉樹を主体とする自然林に被われ、植生は極めて豊かである。
また、道南各地と同様に、巨視的には多雪を特徴とする「日本海地区」に属し、北海道としては本州要素の濃厚な地域とされてはいるが、対馬暖流の影響を大きくうける日本海側(江差方面)とは、積雪量をはじめその他の気象条件にも微視的には若干の差異がみられ、本州要素の分布密度も必ずしも同一とはいい難い(表1・2)。
当町の地形は、亀田山脈からややはなれて独自の高度をもつ泣面山(八三五メートル)、熊泊山(八一八メートル)などの山塊もあり、稜線近くに水源をもつ大小の河川に侵蝕された起状の多い地形もあるが、おおむね全域を亀田山脈の稜線から東側に下降して太平洋岸にいたる緩斜地と概観することができる。この緩斜地を次ぎの三地帯に区分し、それぞれの植生を概説する。すなわち、標高五〇〇メートル前後以高を山岳地帯、以下を丘陵地帯、さらに市街地を含む海岸地帯の三地帯である。なお、帰化植物についても一項を設けた。
図1 日本の植物区系(前川文夫氏による)
表1 植物生態気候区分
○温量指数(暖かさの指数)とは、植物の生活が営まれる季節を経験的に月平均気温5℃以上の月だけとみなし、それより寒い月をのぞいた各月の平均気温から5℃を除いた値を合計すると、その土地の暖かさを表わす指数が得られる。これを温量指数(暖かさの指数)という。 (吉良竜夫氏による)
表2
○長万部、倶知安、浦河、釧路の4ヶ所については昭和47年の札幌管区気象台の資料によったものである。
道南の7ヶ所は函館海洋気象台の資料によるもので、そのうち、松前、江差、函館、南茅部は昭和46~55年の10カ年の平均から、大沼、鹿部、恵山は昭和46年~52年の7カ年の平均から、それぞれ産出したものである。
図2 北海道をとりまく植物分布の境界線
1.シュミットライン
フリードリッヒ・シュミットは幌内川低地帯を調査(1869~71)し、ここを境に植物相の異なることを指摘した。その後、工藤佑舜は精密な調査(1927)をし、シュミットの意見を立証、この地帯を亜寒帯と温帯の境界とし、シュミットラインと呼称した。
2.宮部ライン
館脇操は千島列島内における亜寒帯と温帯の境界をエトロフ水道に求め、恩師宮部金吾の名を冠し、宮部ラインとした。(1933)
3.石狩低地帯
館脇操は日本列島北部の森林樹種の分布を論じ、この地帯をもって北海道を大きく二分した。
4.黒松内低地帯
長万部から黒松内を経て寿都に至る線で、ブナの北限(歌オニブナの原生林がある)でもあり、気候的には晩霜の限界線でもある。この地帯から南部は本州北部との共通種が濃厚である。
5.北海道植物区系の小区分(伊藤浩司氏による)
A 南西小区……渡島半島のほぼ全域にわたり、寒地北方系は山岳地帯を南下し、平地はブナ林植物群(本州系)が北上。
B.C 中央小区……温帯植物が南西小区より北、東へ拡がる経路に当たる。石狩低地帯により二分も可能。
D 北東小区……中央背稜山脈以東。平地にエゾマツ・トドマツ林が発達する。また、サハリン、千島北方系の湿原植物に関連をもつ。
E 利礼小区……サハリンとの関連性が強く、また、固有種も多く、高山植物相を考案するうえで重要な地区。