士族授産事業としての銀行設立の奨励

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明治新政府による旧体制改革である廃藩置県と、それに続く秩禄処分によって家禄を失った士族は、その多くがわずかばかりの金禄公債を生活の糧とするしかなく、失業状態に置かれ、深刻な経済的困窮に直面した。このような士族を救済するため、政府は主務省である内務省を中心に士族授産政策を実施することになるが、その政策の一つに銀行設立の奨励があった。
 明治九年(一八七六)八月、政府は華士族禄制を廃止して、その代わりに金禄公債証書を交付したが、公債総額が約一億七三〇〇万円に達したため、巨額の公債を一時に発行することによる公債価格の暴落が憂慮された。そこで同年八月、政府は国立銀行条例を改正し、公債価格暴落防止のため、その公債証書を資本金とする銀行の設立を奨励した。つまり、華士族銀行事業への投資により、公債の利子金とともに銀行事業利益の配当金を得ることで、生活の安定と銀行行員としての就職の機会を持つことをねらいとしたのであった。
 このように、政府は国立銀行条例の改正を行うとともに、内務・大蔵両卿連署で各地方官に内達を発し、国立銀行の設立を奨励した(吉川秀造『士族授産の研究』有斐閣、一九四二年)。