展覧会の主催は、道庁のほか愛国婦人会道支部、産業組合中央会道支部なども加わり、展示内容は、前年名古屋で開催された展示物などのほかに北海道独自の衣食住、社交、儀礼、公徳および家庭経済等の改善目的に適したもの、もしくは改善上の参考となるもののほか、生活改善に関する新規発明品も加えられた(北タイ 大10・3・10)。道庁社会課で、生活改善童謡を募集したところ、七六人、九五点の応募があり、うち一等に札幌区の亀山鐘子の「小鳩の胸」が選ばれた。その歌詞のなかには、「着物食物、住居から、送り出迎ひ、みやげもの、みんなで改め、進ぜませう」といった言葉が入っていた(北タイ 大10・7・9)。
札幌での生活改善展覧会は、八月一日より一〇日間の予定で中島公園拓殖館を会場に開催された。展示品は、婚礼の改良と題して、結婚は本人相互の合意であり強制ではないとし、式の虚栄・虚飾を戒めたものをはじめ、鉄道省出品の列車道徳の風刺画、文部省出品の学校衛生図、米国における禁酒ポスター、飲料水の改善や衛生に関する標語、生活改善同盟会や東京博物館出品の道路道徳、時の尊重、旧習打破のポスター、大阪市出品の社会救済事業施設の写真、三越呉服店や札幌実科高等女学校の女学生服、大阪師範学校の妊婦服、札幌師範学校の悪書、家庭改良図、児童室設計図等々盛りだくさんであった(北タイ 大10・8・2)。生活改善といった言葉のとおり、展覧会は家庭生活に多く関わる女性をターゲットにおいたものが多かった。大阪のある女学校出品の「婦人内的改善の第一歩」と題した展示では、家庭生活の改造は家庭婦人の生活の改造にあるとして、婦人の一日の仕事、起床、髪結、化粧、掃除、炊事、食事、訪問、裁縫、入浴等の時間を節約すれば一日三時間半を生み出すことができるとしていた。
写真-19 生活改善展漫画(北タイ 大10.8.7)_1
写真-19 生活改善展漫画(北タイ 大10.8.7)_2
展覧会と同時に、道庁社会課主催で札幌実科高等女学校を会場に生活改善講習会も開催され、裁縫、染色、料理等の講習会が持たれた。また連日、森本厚吉、巌谷小波、佐藤昌介、留岡幸助といった人びとの講演会も催され、合わせて生活改善の童謡の合唱も行われた。
入場者数も五日間で約四万人に達し、愛国婦人会道支部の被服その他家庭用具の売店の売上げも盛況であった。このため、十日で閉幕のところ一日日延べするほどであった。会期中の入場者は九万六〇七五人にも達し、一日約八七〇〇人余が入場して予想以上の人気であった(北タイ 大10・8・13)。
『北海タイムス』でも、展覧会開催を目前にした七月末、「生活改善訪問」といったシリーズで有名夫人のインタビューを連載した。そのなかで北大の小出教授夫人は、「男子も子供も洋服を常用する迄に心が進んでいるのに」、女性の服装の改善が遅れていると述べ、また海老沢牧師夫人は、住宅の内部を洋式に改め、子供部屋の床の間や違い棚を改良して寝台を作って、お陰で部屋が片付いたと述べている(北タイ 大10・7・29)。
こうして生活改善展覧会は、生活の周辺から女性の生活感覚にいたるまで、明治以来の旧慣を打破する機会となった。