しかし住民の有志によって創設されていった住民組織は、戦後に創設された町内会とは性格も異なり、また一時的に創設された面もあって史料が僅少であり存在、活動などに関しても不分明な点が多い。それゆえに『北海タイムス』を中心とした新聞報道から住民組織の存在を拾いあげて、以下の記述を進めることにする。
表21は明治三十年代から昭和十五年頃までの確認できる五三の住民組織、町内会を設立年代順にまとめたものである。もちろんこれ以外にも存在していたはずであるが、表より広範な分布とおおまかな傾向を知ることができる。第一は、祭典区を中心とした広範囲の住民組織が多くみられることであり、この種の組織は地域振興、町内の発展、自治研究など政治的な活動を主目的としていることである。第二は、火防区を単位とする町内会もみられ、これは親睦組織の面が強くなっていることである。第三に、住民組織が活発化し盛期を迎えるのは、大正九年から昭和初期にかけてであることである。この時期に成立した住民組織の目的・活動をみると、①札幌区(市)政の研究、政治結社的なもの、②施設の建設・誘致を軸とした地域振興的なもの、③町内親睦と交流、扶助、娯楽と慰安の町内会的なもの、④融資と商店街振興の商店会的なものなど多種多様な組織が生まれてくる。
表-21 住民組織・町内会一覧 |
会名 | 創設 | 地区・地域 | 活動目的 | 新聞報道 |
東方和合会 | 明30年代 | 創成川以東(第7祭典区) | 明45.1.18 | |
中正会 | 明39.1 | 第10祭典区 | 会員の交誼,公共問題の解決,区の発展 | 39.1.28 |
隆西会 | 明44.2 | 南1条西5以西 | 隣保和合・風紀矯正・福利増進 | 44.2.28 |
桑園会 | 明44 | 北1~5条西10以西 | 繁栄策を講ず | 44.7.12 |
山鼻倶楽部 | 明44.12 | 山鼻町 | 町内親睦,趣味向上、社会改善 | 44.12.19 |
第十区親交会 | 明45.1 | 第10祭典区 | 町内発展,隣保和合と親睦 | 45.1.20 |
相和会 | 明45.5 | 南2条西5以西 | 隣保親和・風紀振粛・悪弊矯正 | 45.5.14 |
新西会 | 大3.3 | 大通以南西5以西 | 区内各問題を研究 | 大3.3.21 |
南一条町内会 | 大5(?) | 南1条西2 | 5.4.20 | |
隆辰会 | 大6(?) | 北大通北1条西6~9 | 7.10.7 | |
自彊会 | 大8(?) | 北9条(第11祭典区) | 9.1.26 | |
西美親交会 | 大9.3 | 南1条西10~14 | 9.3.26 | |
豊平町共済会 | 大9.6 | 豊平町9~10番地,南3・4条東1 | 生活向上と居住地の改善 | 9.6.11 |
山鼻自治会 | 大9.12 | 山鼻町 | 発展を図り会員の親睦を敦ふする | 9.12.19 |
辛酉会 | 大10.1 | 大通西14以西 | 隣保共助,社会奉仕 | 10.1.18 |
鉄北会 | 大10.3 | 鉄道線以北 | 鉄北の発展,公共事業に一致 | 10.3.24 |
桑園自治会 | 大10.4 | 桑園 | 自治の発達,公共問題の研究,会員の親睦 | 10.4.13 |
第十区会 | 大10.7 | 第10区 | 自治研究 | 10.7.21 |
豊平町同志会 | 大10.12 | 豊平町 | 町の発展,会員親睦,共同積立金 | 10.12.1樽新 |
苗穂中央倶楽部 | 大11.6 | 苗穂町 | 人権の尊重,自治の円滑,部員の親睦 | 11.6.12 |
東北自治研究会 | 大11.11 | 第9祭典区 | 市議会・市政の監視 | 11.11.20 |
豊平白石自治協会 | 大11.11 | 豊平町・白石町 | 豊平川以東の発展 | 11.11.6 |
山鼻一新会 | 大12(?) | 狐小路以北石山道路以西 | 会員の親睦,町内の発展 | 12.12.5 |
南一条興振会 | 大12 | 南1条西1~4 | 14.1.31樽新 | |
幌南振興会 | 大13.7 | 北-南7条,南-行啓道路, | 13.7.7 | |
東-創成川,西-東本願寺裏通 | ||||
山鼻自彊会 | 大13.8 | 山鼻町石山線以西 | 町内発展,会員親睦 | 13.8.19 |
苗穂町協和会 | 大13.9 | 苗穂町・苗穂村 | 居住者の親睦,娯楽 | 13.9.13 |
四丁目会 | 大13(?) | 北12条西4以北 | 町内の親睦 | 13.9.23 |
東興会 | 大14.1 | 北1条・大通東4~7(第34火防区) | 町内発達,会員親睦 | 14.1.20 |
北光和親会 | 大14.10 | 北8条東5以東 | 町内発展,有志親睦 | 14.10.29 |
平和会 | 大14(?) | 南2・3条西3・4(第9火防区) | 15.3.12 | |
北十条会 | 大15.7 | 北10条西1・2 | 鉄北の発展,町内の殷盛 | 15.7.12 |
本村町同交会 | 大15 | 本村町 | 鉄北・本村町の発展,会員の提携,勤倹の涵養 | 昭3.1.15 |
豊平町中央町内会 | 大15 | 豊平町 | 商工業者の機関 | 17.11.13 |
第十二区発展期成同盟会 | 昭2.5 | 第12区 | 施設の調査研究,福利増進 | 2.5.28 |
幌西会 | 昭2.10 | 南1条以南,西11以西 | 町内発達,会員親睦 | 2.10.19夕刊 |
十九丁目会 | 昭3.2 | 南大通・南1条西19 | 3.2.2 | |
西札幌町内会 | 昭3.3 | 南大通・南1条西18 | 衛生・火防・自治設備,町内親睦 | 3.3.25 |
東北親和会 | 昭3.5 | 第36火防区 | 町内の平和,共存共栄,自治的精神の涵養 | 3.5.2樽新 |
昭和会 | 昭4.9 | 北14条以北 | 町内の革新発展 | 4.7.21樽新 |
苗穂振興会 | 昭4(?) | 苗穂町 | 5.8.23 | |
豊平町自治会 | 昭5(?) | 豊平町 | 5.8.16 | |
東橋倶楽部 | 昭6.2 | 白石町東部方面 | 住民の親睦と発展 | 6.2.14 |
豊平白石自治会 | 昭6.5 | 豊平町・白石町 | 6.5.12 | |
北星協和会 | 昭7.5 | 北8条東部 | 16.5.21 | |
豊平町発展期成会 | 昭11.9 | 豊平町 | 町内発展 | 11.9.29 |
北九条会 | 昭12.11 | 北9条 | 13.1.19 | |
南二七会 | 昭14.7 | 南2条西7丁目 | 14.7.19 | |
協和会 | 昭15(?) | 南6・7条 | 15.1.23 |
この時期は普選運動を中心とした大正デモクラシーの潮流の中で、地域自治の獲得・実現をめざす市民運動も勃興しており、それが多数の住民組織の創設に結び付いていったものと思われる。そして札幌の場合、第一に大正十一年札幌区に市制が施行されたこと、第二に都市の拡大が急速に進行し、住宅地が周辺部に伸びていったことが大きな原因となっていただろう。この結果、周辺部の遅れた都市公共設備・施設の整備、充実に対する住民の要望が増し、また普選運動による選挙権の拡大は、市民への政治権利の自覚と市政参加を促し、「市民」意識の高揚が「地域意志」を表明するプレッシャー団体としての住民組織を、いっそう拡大する段階にいたったとみられるのである(中村英重 札幌区(市)の住民組織と町内会 札幌の歴史30号)。第三に札幌が都市として発展するにつれて、社会問題・都市問題も多く発生し、町内の自治、相互扶助、親睦などの必要が生じてきたであろう。