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土功組合救済問題

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 明治三十五年三月に北海道土功組合法が公布されると、空知・上川・石狩地方をはじめ道内各地に次々と土功組合が設立され、主に水田造成のための潅漑・排水工事を行ってきた。土功組合は北海道の水田造成にとって不可欠の組織であり、昭和十一年末の北海道水田面積二一万一〇〇〇町歩のうち、約六割が土功組合所属地域のものであった(藤森四平 北海道土功組合史 昭13)。土功組合は、工事費を拓銀から年賦償還貸付、定期償還貸付として借入していた。大正十五年の拓銀長期貸付金のうち七六・六パーセントが土功組合に貸付けられていた。大正九~十三年においては「土功組合新規貸付の八〇パーセントは、当行固有資金によって供給された」のである(北海道拓殖銀行史)。
 拓銀長期貸付の用途別残高を表8によりみてみよう。目的別には、札幌市域は北海道平均に比べ、水田造成、旧債償還の比重が高く、その他の比重が小さい。なかでも札幌市、豊平町藻岩村で旧債償還が四〇パーセント以上を占めており、北海道平均を超えている。一方、手稲村白石村では、水田造成が北海道平均を大きく上回り、高くなっていた。次に、一口当たりの貸付額をみよう。合計では、札幌市域は篠路村、札幌市、藻岩村などの金額の多い地域を含み、市域平均も北海道平均よりも高い数値であった。また水田造成の一口当たり貸付額は、札幌市域は五一五三円と、石狩国二二四八円、北海道の一九五三円を大きく上回っていた。とりわけ高かったのは札幌市九三四五円、篠路村八九五九円、白石村七四一二円などであった。札幌市域は大口の資金を融通され、水田造成をさかんに行ったといえるだろう。
表-8 年賦定期貸付用途別内訳 〔単位:口,円,%〕
開墾水田造成土地整理土地買入農具買入工業旧債償還その他合計1口当金額
札幌51口
339,383円
6.3%
98
915,836
17.1
39
146,053
2.7
81
500,312
9.3
4
7,871
0.1
4
34,844
0.6
296
2,148,695
40.1
198
1,269,619
23.7
771
5,362,616
100.0
6,955
豊平町14
7,252
1.6
49
84,050
18.1
1
500
0.1
14
56,505
12.1
 
 
0.0
5
6,100
1.3
83
202,882
43.6
24
108,254
23.3
190
465,545
100.0
2,450
札幌16
30,060
4.2
30
166,025
22.9
9
65,869
9.1
20
178,471
24.7
4
3,603
0.5
71
212,524
29.4
18
66,909
9.2
168
723,464
100.0
4,306
篠路村8
46,213
9.4
14
125,421
25.6
1
1,082
0.2
4
12,063
2.5
1
5,525
1.1
21
144,589
29.5
5
154,729
31.6
54
489,626
100.0
9,067
琴似村24
21,352
6.2
66
69,549
20.3
5
60,018
17.5
55
66,710
19.5
5
2,228
0.7
80
87,831
25.6
30
34,935
10.2
265
342,626
100.0
1,292
手稲村1
2,810
2.7
25
42,444
40.9
5
7,790
7.5
19
26,927
26.0
6
26,567
25.6
56
103,757
100.0
1,852
藻岩村3
28,605
8.3
7
13,707
4.0
6
120,832
35.2
2
7,663
2.2
33
138,384
40.3
9
34,343
10.0
60
343,536
100.0
5,726
白石村11
8,261
2.2
32
237,186
62.5
4
3,407
0.9
13
30,262
8.0
4
10,147
2.7
51
70,524
18.6
9
19,732
5.2
124
379,523
100.0
3,061
小計128
483,936
5.9
321
1,654,218
20.1
65
397,761
4.8
194
859,776
10.5
18
29,374
0.4
9
40,944
0.5
654
3,032,356
36.9
299
1,715,088
20.9
1,688
8,210,693
100.0
4,864
石狩国合計912
1,373,176
3.4
3,485
7,883,044
19.7
591
1,460,672
3.7
1,363
3,754,261
9.4
98
308,276
0.8
51
307,041
0.8
7,287
15,395,854
38.5
1,025
9,506,546
23.8
14,812
39,988,873
100.0
2,700
北海道合計4,587
5,797,099
5.3
8,464
16,533,091
15.2
1,131
4,769,175
4.4
5,268
11,675,017
10.8
583
921,231
0.8
223
2,365,154
2.2
16,448
35,759,368
32.9
3,456
30,730,367
28.3
40,160
108,550,506
100.0
2,703
北海道拓殖銀行『年賦定期貸付郡市町村別使用途別調』(大13.6.30現在)より作成。

 大正末期の米価下落と不況は、土功組合の借入金返済を滞らせ、土功組合救済問題が政治問題となった。土功組合救済問題解決の方策として、借入金の低利資金借替が提唱された。大正十五年度に三〇〇万円、昭和二年度に一五〇万円の大蔵省預金部資金が供給され、拓銀を通じて年利五分四厘で借替を行った(大蔵省昭和財政史編集室 昭和財政史Ⅻ大蔵省預金部・政府出資 昭37)。ちなみに、石狩支庁管内各土功組合が借替を希望していた旧債の利率は、年利八分八厘から九分八厘であった(北タイ 昭2・2・28)。これらのうち、九分四厘以上のものはその全額を、八分以上九分三厘までのものはその半額を借替えることとなった(北タイ 昭2・10・19)。
 土功組合問題は、大正十五・昭和二年の借替融資により緩和された。ところが、昭和恐慌とその後の凶作によって、土功組合旧債借替要求が再度噴出した。北海道土功組合連合会は、約三〇〇〇万円の負債の償還期限を一五年~二五年延期することを要望した(北タイ 昭6・4・9)。大蔵省預金部では、昭和六年六月に道内一一組合の実地調査を行い、その結果、経営困難の土功組合は第一次世界大戦後の高米価時に「人口食糧政策ノ提唱ニ煽ラレ」設置されたもので、工事計画も高米価を予想してたてられたので、昭和恐慌下の米価下落のもとでは借入金償還は困難であるとの結論に達した(大蔵省預金部 預金部長北海道土功組合視察概要)。これをふまえて、内地の耕地整理組合も同様の問題を抱えていることから、耕地整理組合と同じ方法により「北海道土功組合長期借換資金」一七〇〇万円、「北海道土功組合ノ債務償還資金」八〇万円を融通することを決定した。前者は既融通資金を五カ年以内据置、三〇カ年以内の年賦償還に変更し、後者は経営困難の者に対し、元金償還資金を五カ年以内据置、二〇カ年以内の期限をもって融資するものであった(昭和財政史Ⅻ大蔵省預金部・政府出資)。このようにして土功組合救済問題は、農村救済問題に解消されつつ、解決に向かったのである。