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軍需景気の諸相

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 戦時統制経済下における企業経営はどのようなものであったのだろうか。表24に主要株式会社の純益金額と純益率をまとめた。株式会社に限っているために、軍需産業はあまり見当たらない。大日本麦酒、北海道拓殖銀行などが他を圧倒する規模であるために、純益率の加重平均を算出してもあまり意味がない。単純平均は、四~七パーセントと低い数値で推移していた。業種別には、物品販売、倉庫、食料品工業などが相対的に高利益であり、運輸、機械器具などは低利益である。時系列的には、札幌鱗市場、北海倉庫、札幌グランドホテル地崎組、帝国製麻、札幌焼酎、北日本製材、札幌印刷などは純益率を伸ばしていった。インフレの影響もあるが、各社合計の純益金額は、七一五万四〇〇〇円から九一一万五〇〇〇円へと二七・四パーセントの増大であった。
表-24 主要会社の利益 (単位;円,%)
業種会社名昭和10年下半期11年下半期12年下半期13年下半期14年上半期
純益金払込資本金純益率純益金払込資本金純益率純益金払込資本金純益率純益金払込資本金純益率純益金払込資本金純益率
銀行北海道拓殖銀行768,3356.1682,3315.5684,8845.5753,7276.0777,0816.2
北門銀行22,3722.822,6842.923,5573.024,1043.124,9153.2
北門貯蓄銀行25,42310.236,46214.636,89810.540,18311.541,55711.9
金融北海道無尽3,0144.03,0854.12,9944.02,0662.8
札幌殖産1,7417.01,8287.31,8087.21,9147.76532.6
民衆振興2,1515.42,2675.72,2525.62,2355.62,2525.6
物品販売高橋松吉商店14,8859.917,24011.519,21412.828,60713.6
藤井商店37,5016.334,8405.843,7407.350,0288.3
古谷商店64,31810.745,1057.554,9979.262,81510.5
松下電器製品販売18,09918.128,47828.5
森永製品北海道販売1,9512.2
薮商事000000
今井商店399,70316.1487,29719.6
市場札幌鱗市場1,6706.72,0408.22,2378.93,72914.9
札幌卸売市場8,2404.18,8154.45240.37020.4
札幌青果卸売市場-718-2.900.01,9367.73250.7
倉庫札幌拓殖倉庫6,56021.26,90422.36,65521.55,45917.6
北海倉庫8,44316.99,03118.19,64519.310,92421.8
札幌冷蔵1,9583.93,2856.6
新聞発行北海タイムス社41,0845.143,6175.5
旅館札幌グランドホテル9,1942.07,1981.67,4891.719,0484.220,2534.5
定山渓温泉-8,581-4.300.09,2974.610,1645.1
運輸定山渓鉄道57,3803.636,1702.39,0370.585,3194.8
北海道鉄道-98,009-2.5-3,250-0.12,6760.110,8270.3
北日本運送-32-0.1-457-0.54,2305.0
札幌運送社19,5343.916,1673.217,9283.618,3653.718,2043.6
明治運送-162-0.2-381-0.5500.12,1822.92,4063.2
土木建設地崎組8,2031.627,4145.516,7163.341,7218.339,7177.9
農林業北海道土地7583.06432.67182.97302.9
北海道農林-2,267-2.6-1,960-2.2-1,873-2.1-1,738-2.0
繊維工業帝国製麻548,7525.1647,2606.1983,2289.21,210,3288.91,419,21410.4
北海道製綱26,9876.324,2035.725,1135.937,9058.937,8898.9
食料品工業西尾商店85,81713.279,53912.271,1439.6103,79214.1
札幌焼酎1,9031.94,8294.819,5539.827,51913.842,8528.6
大日本麦酒4,906,0008.25,136,7038.65,040,0918.44,259,3507.14,872,7518.1
極東煉乳1,7470.178,1526.570,6325.978,4886.576,2236.4
機械器具工業札幌電業-5,759-11.5-41,970-83.9-1,762-2.2
化学工業三星薬品26,18821.015,43310.316,3759.9
北海道理化学工業-2,502-5.0-4,054-8.1-2,184-2.2-7,107-7.1
丸日連合販売5,5705.04,3643.97,0656.37,3994.97,5665.0
その他工業北日本製材-11,184-9.010,5948.524,46319.633,63827.049,42439.7
札幌印刷4,8828.15,9369.96,67311.18,47214.09,29915.5
電気・ガス札幌送電5340.000.000.000.0
北海水力電気1,054,3324.81,184,0264.81,197,1544.81,332,5204.3
北海道瓦斯237,6317.3240,0437.4245,4807.6270,2658.3285,2748.8
純益金合計7,153,650  8,264,294  8,655,454  8,931,543  9,114,513  
払込資本金純益率単純平均5.1 5.4 4.1 7.6 6.4 
1.地崎組は株式合資会社,他はすべて株式会社。
2.昭和14年上半期には,一カ年決算会社の昭和14年度分も含む。
3.北海道拓殖銀行調査課編『北海道及樺太株式会社集覧』(昭14),今井商店北海道瓦斯,地崎組営業報告書,帝国製麻株式会社『五十年史』,サッポロビール株式会社広報部社史編纂室『サッポロビール120年史 since 1876』により作成。

 たとえば地崎組は、昭和十年には「工事予算ハ依然トシテ増嵩セズ内訳単価ノ低キニ比シテ、物価ハ騰貴シ労働者ノ能率低下ノ為メ業界ハ不振ノ状態ヲ持続シ」工事請負額を約三割減少させた(株式合資会社地崎組 第一六期営業報告)。ところが、十二年には「鉱山電力方面ノ拡張相次ギ実業会社方面ノ工事ハ極メテ活況ヲ呈セル」ところとなり、業績も好転した(同前 第一八期営業報告)。十三年からは「千歳丁地施設工事外三口」の大口工事が入り、収益向上に寄与している(同前 第一九期営業報告)。
 今井商店は、昭和十三年の景気を「北海道ニ於ケル農産物ハ八、九月ノ交、旱魃ニ見舞レタルモ高温ニ恵レ、米ハ未曽有ノ豊作ヲ告ゲ、畑作ニ於テモ一部ヲ除キ概シテ良好ナルヲ得、価格ハ近年ニ無キ騰貴ヲ示シ、農家ノ収入ハ著シク増加シ、亦時局関係産業ハ益々殷賑ヲ持続シ……経済界ハ概ネ好調裡ニ推移セリ」と述べている(株式会社今井商店第二〇回営業報告書)。昭和十五年は、北海道の農作物は不作であったが、「時局産業並重工業方面ハ好況ヲ持続シ、相当購買力ヲ獲得シタル結果…稍良好ナル業績ヲ挙ゲ得ルニ至」ったという(同前 第二二回営業報告書)。
 札幌市の職工五人以上工場における昭和十四年の賃金支払総額は、四〇三万円であったが、翌十五年には五四二万円と三四・四パーセントの増を示した。職員・職工を合わせた従業員数は七・五パーセントの伸びにとどまったので、従業員一人当たりの賃金支払平均額は、十四年の四一七円五五銭から十五年の五二二円へと跳ね上がったのである(北海道庁統計書)。もっとも、生産総額も四二・〇パーセントの伸びを示したので、労働コストの上昇を吸収し得たと思われる。
 さて、このような戦時経済の一面を示すものとして、大日本麦酒株式会社の札幌直営ビヤホールの繁盛ぶりを図9によりみておこう。原資料は、売上日報なので、かなり正確であると思われる。ビヤホールという性格上、季節的変動が激しい。十一年までは、六月または七月に客数のピークを迎え、その数は七〇〇〇人~八〇〇〇人、冬の閑散期には一〇〇〇人~二〇〇〇人であった。ところが、十二年のピークは、まさに日中全面戦争が始まった七月で、初めて九〇〇〇人を超えた。翌十三年は八月にピークがずれこんだが、やはり九〇〇〇人を超え、十四年は何と六~八月三カ月連続で一万人を超え、冬にも毎月五〇〇〇人以上で推移し、十五年の七月には二万人を超えたのである。こうした状況について、当時の新聞も「料理屋、飲食店などでは、幾ら水酒を売らうが、お客の足は一向減りはせぬと、暗に殷賑産業方面の懐ろ具合を仄めかしてゐる」と評している(北タイ 昭15・3・19)ので、サッポロビールに限らず、一般的な現象であったと思われる。

図-9 札幌直営ビヤホール売上
販売課『自昭和八年至昭和十五年札幌直営ビヤホール売上表』(サッポロビール博物館蔵)により作成。

 客数の増加に伴い、売上金額、飲んだラガービールのリットル数も増えている。客一人当たりの売上金額は、昭和八年は四〇銭台であったが、十一年には五〇銭台に、十二年は六〇銭台、十四、十五年の夏季には七〇~八〇銭台に達した。インフレの時期でもあるが、客一人当たりのラガービールリットル数を算出すると、八年六~八月は五一〇~五四〇ミリリットルであった。十一年同期には六一〇~六七〇ミリリットル、十三年同期には七五〇~八〇〇ミリリットル、十四年同期にはハ三〇~八八〇ミリリットルと年々増え続け、十五年同期に六七〇~七六〇ミリリットルに減少した。十四年までの一人当たり売上金額の伸びは、飲んだビールの数量的増加に原因があったのである。