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公区と「常会十則」

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一、公区を活かして市民生活を向上発達せしめませう。
二、公区に即して自治活動を統制振興しませう。
三、公区を通して公共要務に協力参加しませう。
(公区精神)

 これは、昭和十五年三月一日告諭の公区綱領三則である。第二章四節で公区と常会について触れたとおり、さまざまな設置要因・経過を踏まえて誕生した。そして、その機能は具体的に、市役所公区係→聨合公区公区→隣保班→組という系統で地方行政の末端機構として、戦時体制を支える効率的運営がなされた。札幌市部では既存の町内会、町村部では同様の部落会組織を「再編」し、より「上意下達」「下意上達」機構を強力ならしめようとした。市部の聨合公区公区、町村部の町内会部落会がそれであり、市部では「公区及聨合公区設置規程」に、また町村部では「町内会・部落会設置規程」にもとづいて末端組織が整備され、世帯主を公区員・会員とし会費を徴収、そこで取り扱われる事項は表45のごとき内容であった。しかも、公区町内会部落会隣組は十七年に正式に大政翼賛会に組み込まれ、行政とともに翼賛の末端組織ともなった。具体的内容については後述するが、こうした「再編」された住民組織にもとづいて、従来の火防・衛生の両組合は、聯合公区公区町内会部落会の警防・衛生(のち健民)部係へ一本化させられ、強力な組織化が図られた。さらに、生活刷新が実践されるとともに、生活物資の配給、公債消化、強制貯金の実行、金属回収、労務供出などをやってのけ、強大な社会再編成の時期を迎え、地域社会を大きく変貌させた。
表-45 公区・聯合公区取扱事項(昭19.1.10改正による)
部係名 取扱事項
庶務部係企画,会議,統計調査,予算決算,会計,財産保管,其ノ他他部ニ属セザル事項
教化社会部係祭典其ノ他社寺事務,教育奨励,精神作興,風紀及生活ノ改善,扶助救済,労務動員,吉凶慶弔,娯楽等ニ関スル事項
経済部係物資ノ配給調達及回収,消費規正節約,家庭農事其ノ他経済生活ノ統制及向上ニ関スル事項
健民部係衛生思想ノ普及,伝染性疾患ノ予防救治,種痘,トラホーム検診,身体ノ鍛錬,体力検定,体力管理,母子保健,結婚奨励,出産増加ノ奨励,汚物掃除,下水及市街清潔ノ保持,住宅改善,栄養改善,撒水其ノ他保健衛生ニ関スル事項
警防部係火災予防,警防,防犯,防諜,街路照明,除雪,交通整理等ニ関スル事項
貯蓄納税部係貯蓄,国債債券ノ消化,租税公課ニ関スル事項
銃後奉公部係軍人ノ送迎,犒軍,傷痍軍人及軍人遺家族並ニ応徴者及其ノ遺家族ノ援護慰問,其ノ他銃後奉公会ノ目的ニ属スル事項
婦人部公区婦人班業務ノ指導,連絡,綜合並ニ大日本婦人会支部聯合班トノ連絡ニ関スル事項
産業部係増産奨励,生産物ノ集荷供出,土地ノ利用改良,家畜飼養,生産団体トノ連絡,産業報国ニ関スル事項
森林防火部係森林防火,植樹,愛林思想ノ普及並ニ涵養ニ関スル事項
1.昭和15年12月15日改正により,はじめて部係が設置さる。但し庶務,教化社会,経済,衛生,警防,銃後奉公の6部係。数次の改正で貯蓄納税,婦人部,産業,森林防火が設けられた。
2.『公区精神』より作成。

 次に、公区と常会の具体例を示しておく。札幌市東聨合公区第九公区では、十五年十一月二十六日、公区常会を開催した。宮城遥拝、黙祷、国歌斉唱ののち、公区長が座長となって、飯米、石炭、木炭、馬鈴薯等の配給について協議した。さらに、公区割当の六五〇〇円の国債消化のため、各家庭でこれに備えること、毎月十五日を常会の日とすることや「公区常会十則」を決定した。その「常会十則」では、「実行」「国策に忠実」「住みよい町、住みよい公区」をお互いの力で作ること、「向三軒両隣、仲良く暮す助け合ふ」が合言葉とされた。公区は「全公区員の集り」で、「一時的なものではなく毎月開く永久的」なものと位置づけられ、さらに「相談相手にな」り、「人の悪口や不平を言はず、俄儘せず、人の善行を表」し、「人の意見を十分に聴く雅量」が公区員一人一人に求められた(北タイ 昭15・11・27)。常会はここにおいて隣組活動の推進力と位置づけられるとともに、「向三軒両隣」の相互扶助の名を借りた相互監視体制が張りめぐらされていったことも事実である。