取り上げた3点の史料は、諏訪蚕糸業の資金供給源となっていた株式会社第十九銀行(以下、「第十九銀行」と略称する)にかかわるものである。時系列に史料の構成をみると、次のようになっている。
(史料1)『第十九銀行ト製糸業』1906・明治39年
生糸は日本の輸出品では最高位を占める重要物産で、信州はその輸出額の3分の1強を占めている。その生糸を産む製糸業に、第十九銀行は資金を供給してきた。第十九銀行の営業景況は製糸資金の繁閑によるが、製糸資金の需要供給の関係が複雑のため人々には理解しがたいところがあるので、銀行と製糸業の関係が理解できるようにと5つの参考事項について編集されたのが本書である。参考事項とは、「株式会社第十九銀行ノ略歴史」、「蚕業界ニ於ケル信州ノ位置」、「本行取引地ノ信州ニ於ケル地位」、「製糸ハ危険ナル営業ナリヤ」、「製糸資金」である。当時常務取締役であった箕輪五助名で刊行された。
(史料2)『諏訪の製糸業 附金融機関』1911・明治44年
諏訪製糸業の隆盛をもたらした「諏訪の地勢」および「維新前の産業状態」からみた勤勉忍耐の気風などの要因、諏訪「製糸業の沿革及び現状」、「岡谷駅付近の盛観」、諏訪製糸家に最も多くの資金供給をした第十九「銀行」、諏訪式乾燥装置を備えた「倉庫及び乾繭業」、「製糸以外の産業」を概観している。更級郡共和村(現長野市)の寺沢高三郎「著作・発行」である。
(史料3)『諏訪蚕糸業紀要』 1930・昭和5年
大正元年から昭和4年までの諏訪蚕糸業の実態を、県内外のなかでどの位の位置にいるか理解できるように30項目ほどにわたり編集したいわば統計資料集ともいえるものである。諏訪製糸研究会事務所編集によるものを第十九銀行岡谷支店名で発行した。項目は、「長野県器械生糸産額」や「信州系器械生糸横浜入荷高調」、「器械製糸工女出身地方別調」、「諏訪製糸研究会工場表」、「岡谷駅重要貨物発着トン数調査表」などのほか、「普通蚕種製造額者比較」や「普通養蚕」、「繭取引別数量」など諏訪郡内の統計があわせて掲載されている。