函館においても神仏分離は不徹底ながらも実施されたが、対キリスト教の問題などから神道と仏教とが融合したため、廃仏毀釈運動は起るに至らなかった。とはいえ、全国的にみて近代の開始は仏教寺院の受難の始まりであり、北海道ないしは函館の寺院とて近世のような寄生的な檀家制の上に安住することは許されず、常に受身の立場を余儀なくされていた。
　そうした状況のなか、函館の仏教寺院はどのように生きていたのであろうか。それをうかがうためには、どうしても仏教界の全道的な動態の確認が不可欠であるから、まずその辺から始めることにしよう。
　明治27年に刊行された『北海道寺院沿革誌』に拠って、明治初年から同26年の間に建立された近代寺院を整理して一覧表化して示せば、表11－3のようになる。
　下記の表から明らかなように、近代寺院として91か寺ほど造営されているが、それを本寺別にみると、中央教団が本寺になって造立した寺院が47か寺、以下同様に函館寺院を本寺とするのが14か寺、松前の寺院を本寺とするのが7か寺、札幌の寺院を本寺とするのが8か寺、小樽・有珠の寺院などを本寺とするのが15か寺という内訳になる。そのうち函館と松前という先発地の寺院を本寺としているのが21か寺もあり、札幌の8か寺をはるかに凌駕している。しかも特徴的なことは、この先発地の函館・松前の寺院が本寺となって末寺を造立する地域が釧路や根室という沿岸部に集中している点である。これに、小樽・有珠の寺院の末寺形成先をつけ加えるなら、近代寺院の開教形態の一つに沿岸型開教なるものがあったといって大過ないだろう。
 
　表11－3　『北海道寺院沿革誌』にみる近代寺院