下肥

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 牛、馬、豚などの堆肥は貴重な肥料であったが、中でも一番多く使われていたのは人糞であった。
 昭和八年、函館市が汚物掃除法の適用区域に編入されたが、市の屎尿市営汲取りの委託を当て込んで、市内には二つの清掃会社が設立された。しかし、これに対抗して、時の亀田村長中島有郷を組合長に、鍵谷元道会議員を専務とする利用組合が作られ、道の認可を受けて亀田農民組合が設立された。そして、同年十二月二十日、函館市は屎尿市営汲取請負について出そろった七つの組合と次のような取り決めを行った。
 
 ①各組合の汲取る町内は次の通り、
 (ア)渡島上磯利用組合
  船見町、船場町、台町、豊川汐止町、駒止町、地蔵町天神町、栄町、旅籠町、
  旭町、大町、仲浜町、東雲町、末広東浜町西部、同東部、松風町、千歳町、
  高砂町
 (イ)函館清掃株式会社
  汐見曙町、青柳町、寿町、東川町、春日町、西川町、相生町、真砂町、蓬萊町、
  鶴岡町、恵比須町、若松町、宝町、音羽町、谷地頭町、海岸町、住吉町、
  万代町
 (ウ)亀田農会
  宇賀浦衛生組合、時任同、高盛同、中島同、堀川同、干代ヶ岱同、上新川同、
  大縄町、
 (エ)函館清掃組合
  山背泊町、タナゴマ衛生組合、弁天同、大黒町、大森町、鍛治町、富岡町、
  元町、会所町
 (オ)清潔組合 新川衛生組合区域、(カ)五稜農民団体 五稜衛生同、
 (キ)亀田農民組合 亀田衛生同
 
 ②次のような場合、十円以上百円以下の違約金を請負金より控除される。
 (ア)名儀の如何にかかわらず汲取先より金品を収受したとき。(イ)汲取料掃除方完全ならざるとき。(ウ)屎尿を他人に汲取らしめたるとき。(エ)汲取運搬器具の手入れを怠りたるとき。(オ)運搬器具の修理又は新調を怠りたるとき。(カ)掃除義務者に対し不穏当の言葉ありたるとき。(キ)汲取りたる屎尿を所定の場所以外へ搬出又は投棄したるとき。(ク)屎尿に水又は他物を混入したるとき。
 
 ③徴収見込手数料率
  亀田村に関係する地域は詰替禁止区域ではなく普通区域とされていたが、普通区域は手数料率によって甲から戊までの五段階に分けられていた。亀田農会の担当していた地域は戊であり、料率は次のとおりであった。
  専用便一世帯に付六銭、共用便同月四銭、一か月二〇〇立を超ゆるもの四〇立に付五銭、月二回以上汲取を要するもの甲(甲の料率は専用便一世帯に付月二五銭、共用便同月一五銭、一か月二〇〇立を超ゆるもの四〇立に付一〇銭月二回以上汲取を要するもの一回に付二割増。区域は船見町と元町)に同じ。
 
 ④運搬時間制限
  弥生坂下電車停留所より海岸町電車停留所に至る区間と、十字街電車停留所より蓬萊交番前停留所を経て新川道路にかけての区間は午前十時以後、軌道に沿い通行できなかった。
 
 ⑤その他
  亀田が担当していた地域は時間制限こそなかったが、汲取りは早い者勝ちだったので、夜明けと共に馬車を仕立てて出かけて行った。
 
 毎朝汲取り馬車が先を争って函館を目指していったのである。木製のタンクに樽から詰替えていっぱいになると畑の片すみのこえだめにあける。そこで完全に下肥を腐らせるのである。木製のタンクが使用される以前は大きな樽を馬車に八個積んで行った。汲んで樽がいっぱいになると、わらをかぶせ、つけもの樽のふたをかたくしめ、こぼれないように運んだ。木製のタンクが使われるようになると便利にもなり、能率もあがった。