次に亀田奉行の法令・覚書の中から六箇場所に関係すると思われる条文をとり上げ、その内容について記すことにする。
元禄四年の定 『松前福山諸掟』(北海道大学蔵より要約)
亀田箱館 奉行
一 蝦夷え非分の義申懸間敷旨能々可二申付一候。拝夷地え盗買船行候段聞届候はば其旨早々松前え可二申越一候事。
○蝦夷地において不法行為をしてはいけないことを申付ける。蝦夷地へ盗買船(密交易船)が向かったことを聞いた者は、直ちに松前へ届出なさい。
(この法令の目的は、蝦夷地交易の利益を確保することと、アイヌ人とのトラブルをさけようとすることであった)
一 昆布取場え他国より直ニ船来候はば人遣、其船留置、様子早々可二申越一候。若又松前え商売運送の船逢二難風一、其辺え着岸候はば様子聞届、其旨可二申越一候事。
○昆布取の場所へ他国より直行してきた船があったならば人を遣わし、その船を留置いて直にその様子を報告せよ。もし松前え商売や貨物の輸送のために来航した船が荒天のため緊急入港してきたのであれば、その様子を聞届けその内容を報告せよ。
(この法令のねらいは、交易権の確保、徴税事務取り扱いのためであった)
一 ゆふらつぷ、お志やまんべより海陸荷物持運候義堅令二停止一旨在々徘回の商人共え急度可二申触一候。若令二違背一者候はば早々可二申越一候事。
○ユーラップ(八雲)オシャマンベより海陸路共に商人による荷物の運送を禁止することを命令する。もし違反する者があったならば、直ちに申し伝えるように。
(この法令の内容は、交易権の確保と和人と蝦夷の摩擦をなくしようとしたものであった)
一 自二他国一の者、奉行、名主え無レ断有付候はば其村払可レ申候。自然国所不二分明一、渡世の営無レ之様子疑舗者子細相尋、町奉行迄可二申越一候事。
○本州の各藩では、領民の移動を禁止しており、また松前藩では米を産しないため食糧を確保する必要があり、更には治安上の問題等もあったため、他国者で奉行や名主(村役人)に無断で村に居る者は追い払え、出身地や仕事の内容がはっきりしない者がいたら、子細を尋ね、町奉行まで理由を報告しなさいと定めていた。
一 支配の村々百姓壱人も他村え有付間敷候。惣て跡目無二断絶一様可二申付一候事。
○松前藩支配地の村々の百姓(この場合漁民も百姓として取り扱われる)は、一人たりとも勝手に他村に行ってはいけない。すべてその百姓は家を断やさぬようにしなさい。
(松前藩の労働力確保が主眼である)
一 昆布時分より早く新昆布商売候義堅令二停止一候。(以下省略)
○昆布が成熟する以前の若生昆布を採集し密買することを堅く禁止する。
(昆布の濫獲防止を目的とした)
一 毎年極月年取商人年季は、金穿其外旅人改可二申付一候。幷亀田・知内の中何方より船来候共、間役帆一端ニ付五拾銭宛可二申付一候。流船の証拠有レ之其段申披候はば、早々帰帆候様可二申付一候事。
右之趣急度可二申付一者也。
元禄四年未年四月 黒印
○毎年定められた時期に商人、金掘人、旅人(きこり、商人など蝦夷地に出稼に来ている者で蝦夷地の戸籍人別に入っていない者)などを検査することを申し付ける。合わせて亀田・知内間のどこから来航した船でも入航税として帆一端に付五拾銭宛徴収することを申し付ける。流船の証拠がある場合は、その理由を申しのべ、できるだけ帰航するように申し付ける。
元禄四年四月 黒印
(この法令の目的は治安上の問題よりも、出来るだけ他国人の土着を許さないためであり、また入国する他国人からは、入役銭《越年役、蝦夷地入稼銭など》を和人地内の航海より間役を取り、藩の財源とするためであった)