写真113 『りんごの唄』歌詞、並木・サトウの肖像
終戦直後の物資不足とインフレーションによって、国民の生活はどん底に落とされ、一般市民は物資の調達を高物価のヤミ市場に頼らざるを得なくなった。当時、りんごの小売公定価格は一個一〇銭程度だったが、戦前の農業統制のためにりんごの生産量はこれまでの五分の一にまで落ち込んで、供給量が大幅に減少したこともあり、ヤミ値では一個一円で売れた。終戦後、統制制度は存続していたが実質的には無配給状態に陥っていたため、政府はこうした状況を考慮して、二十年十一月、生鮮食料品の配給統制と価格統制を撤廃した。二十一年になると、自由価格で流通されるりんごの相場は一箱三〇〇円から二ヵ月後は五〇〇円へと急上昇していった。これはまさしくインフレの激しさを示すものだが、りんご生産者にとっては、これまで経験したことのないりんご景気の到来だった。しかし、高まるインフレは市民生活をますます追い詰めていった。そこで政府は、同年三月に価格等統制令を、四月に青果物等統制令を公布し、価格統制・配給統制を復活させた。
二十二年産りんごは、一月の一箱一〇〇〇円の市場価格が、二月には一三〇〇円、三月には一五〇〇円まで上がったものの、三月以降は七月まで横ばいで終わった。その原因は四月以降の出荷量が多すぎたのと、品質が落ちたことで市場価格が低迷したためであって、それに輸送難と春高思惑が重なったことがこの結果を招いた。
写真114 馬車で運ばれるりんご
二十三年度りんごの生産量は一三七六万箱で、その生産額は九〇億六〇〇〇万円に達した(表16)。同年における県産米生産額が三二億円とりんごの三分の一にしか達しておらず、また、県の予算規模が二四億円程度であることと比べると、りんご経済が本県経済の中心であるのは明らかであった(波多江久吉・斎藤康司編『青森県りんご百年史』青森県りんご百年記念事業会、一九七七年)。
表16 りんごの生産額、販売額と米代金、県財政との比較 | ||||
昭和21年 | 昭和22年 | 昭和23年 | ||
りんご生産量 | (箱) | 3,172,916 | 8,997,823 | 13,769,266 |
〃 生産額 | (円) | 350,388,574 | 5,251,873,200 | 9,060,177,028 |
1箱当り生産額 | (円) | 110 | 583 | 658 |
県外移出数量 | (箱) | 841,947 | 5,261,075 | 10,030,406 |
市場価格推定 | (円) | 600 | 1,300 | 1,500 |
市場販売額 | (円) | 505,168,200 | 6,839,397,500 | 15,045,609,000 |
米の生産量 | (石) | 1,227,150 | 1,207,702 | 1,456,908 |
〃 供出数量 | (石) | 564,955 | 388,329 | 644,244 |
〃 供出代金 | (円) | 40,168,000 | 913,332,000 | 3,248,942,000 |
県財政歳入 | (円) | 229,670,554 | 978,543,012 | 2,478,216,898 |
〃 歳出 | (円) | 226,957,532 | 885,829,844 | 2,478,216,898 |
前掲『青森県りんご百年史』 |
次に挙げる全国りんご主産県の生産量(表17)と全国果実の生産量(表18)を見ると、りんごが国内において最も多く生産され、かつ、本県産りんごは国内生産量の二十三年は六七・九%、二十四年は七五・三%、二十五年は七五・五%、二十六年は六三・五%、二十七年は六六・七%と圧倒的なシェアを占めていたことがわかる。『りんごの唄』の全国的ヒットとともに青森りんごは名実ともにわが国の商品果実の中心となっていったのである。
表17 全国りんご主産県の生産量 | |||||
(単位:1,000貫) | |||||
昭和23 | 昭和24 | 昭和25 | 昭和26 | 昭和27 | |
全国計 | 78,766 | 97,420 | 116,988 | 70,285 | 146,365 |
青森 | 53,498 | 73,400 | 88,274 | 44,665 | 97,604 |
長野 | 9,684 | 8,780 | 11,266 | 10,860 | 17,407 |
北海道 | 7,654 | 6,824 | 7,827 | 5,902 | 8,153 |
岩手 | 3,128 | 3,526 | 3,633 | 2,239 | 4,908 |
秋田 | 2,735 | 1,662 | 2,596 | 2,640 | 12,003 |
福島 | 869 | 1,076 | 1,149 | 1,593 | 2,503 |
山形 | 618 | 1,121 | 1,194 | 1,156 | 2,017 |
山梨 | 90 | 110 | 287 | 354 | 404 |
石川 | 52 | 215 | 197 | 296 | 395 |
香川 | 192 | 354 | 192 | 179 | 203 |
岡山 | 18 | 23 | 62 | 66 | 151 |
愛知 | 19 | 23 | 30 | 36 | 44 |
前掲『青森県りんご百年史』 |
表18 全国果実の生産量 | |||||
(単位:1,000t) | |||||
昭和23 | 昭和24 | 昭和25 | 昭和26 | 昭和27 | |
りんご | 296 | 365 | 439 | 264 | 549 |
みかん | 231 | 241 | 360 | 273 | 500 |
すいか | 103 | 127 | 203 | 352 | 375 |
かき | 190 | 199 | 198 | 247 | 255 |
なし | 64 | 73 | 76 | 81 | 101 |
ぶどう | 33 | 34 | 37 | 37 | 49 |
もも | 30 | 30 | 33 | 35 | 45 |
なつかん | 55 | 65 | 76 | 73 | |
その他 | 81 | 102 | 112 | 117 | 136 |
合計 | 998 | 1,226 | 1,523 | 1,482 | 2,083 |
前掲『青森県りんご百年史』 |