二十五年に児童係が設置され、次の項目に重点が置かれた。
(1)児童委員に関すること。活動範囲が広く、母子世帯、保育所の入所児童の調査及び母子寮入所者の調査、優生保護法による母子の保護指導、青少年の指導育成などを取り扱っていた。このためこれらの諸問題に対して児童福祉法、厚生省令よる最低基準等を委員に指導し、福祉行政に務めた。当時の児童委員数は、三一八人であった。
(2)児童福祉施設に関すること。市内児童福祉施設は、二十五年当時二三施設であった。経営主体は、道、市、法人、私立等であって、厚生省令に基づく最低基準に定められた設備を有するものである。また、児童福祉の機関としては、北海道中央児童相談所(南4東4)、肢体不自由児札幌相談所(北2西2札幌保健所内)のほか、北海道石狩支庁内に児童福祉司一人が配置されていた。
(3)保育所に関すること。児童福祉法第二四条により保育所に児童を入所させることは、市町村長が入所させることと定められており、その対象となる児童は、保護者が労働(内・外勤を問わない)するためにその児童が家庭で十分な保護を受けられない場合、また保護者が病気あるいは病人の看護をするため保護に欠けると認めた場合、及び小家屋に多人数居住しているため環境が悪く十分に保護養育が出来ない場合、またこれらに準ずる児童を日々保護者より委託を受けてその幼児を保育し児童の福祉に務めることが目的であって、二十五年当時札幌市立の保育所は三カ所定員二六〇人、私立八カ所定員六五〇人であった。また生活困窮家庭の児童の保育所使用料等については保護者より徴収せず、市が減免または負担し、困窮家庭児童保護に万全を期した。ちなみに、二十五年度の保育所施設に対する月別平均支出額は一三万円であった。
(4)母子寮に関すること。児童福祉法第三五条第二項により知事の認可を受けていた母子寮は、二十五年当時鈴蘭寮、愛国厚生館母子寮、愛隣館母子寮、札幌厚生会母子寮の四施設六八室であった。これらはすべて敗戦後外地引揚者が一時収容施設として使用していたため収容能力がありながら非母子世帯が残寮していた。市では、要保護母子世帯が漸増傾向にあったので、母子寮の新設を計画したが、補助金僅少のため中止せざるを得なかった。このため非母子世帯の処置を関係者の協力を得て、北二四条所在の引揚者住宅に移転させ、要保護母子世帯の入所措置を行った。
(5)母子家庭職業技能習得に関すること。母子福祉対策の一つとして、個々の母子家庭の実状に応じ、それに適する職業技能を習得させ、旺盛な勤労精神を涵養して社会的経済的に自立自営の途を立てさせる対策として、二十五年六月二十四日北海道規則第一六一号により北海道母子家庭職業技能習得費給与規則が公布・施行され、札幌市においても本趣旨にもとづいて市在住の母子世帯の自立を図るため七月一日より事務取扱を開始した。二十五年度の場合、申し込み件数六五件、申し込み金額七九万三六三〇円に対して給与件数三二件、給与金額二三万六二〇〇円、習得する職名は、洋裁、美容、編み物、保健婦、刺繡、栄養士等であった。
(6)里親制度。児童福祉法によって開始された里親制度の普及徹底にともない、二十五年度は里親登録者三八人、うち里子委託者二〇人であった。
(7)児童福祉週間。児童福祉週間の一環として五月十四日を「母の日」と定め、日夜我が子のために慈愛をよせる母と一般社会のために献身的に奉仕活動を行っていた、いわゆる「社会の母」に対して感謝の意を表する意味で全国的にカーネーション(造花)による母を讃える運動が大々的に行われることになった。札幌市においても各方面の関係機関や諸団体(婦人、青年、少年等)の協力を得てカーネーションの頒布事業を実施し、その益金を児童福祉週間の運動の財源として活用し、運動をさらに広めた。なお、二十五年度の純益金九万円余は、児童福祉施設勤務の保母たちのためにエプロンを贈呈した。
前述した以外に、児童福祉施設として二十五年当時、乳児院二カ所、助産所、知的障害児施設二カ所、厚生施設一カ所、保護施設一カ所があった。
二十六年五月五日、児童憲章が制定され、日本国憲法の精神に従い、児童を人として尊重し、親の生活手段とすることなく、社会の共同の責任で守るべきことなどが宣言された。
二十八年頃より保育所入所希望者の漸増傾向がみられたために「札幌市保育所等使用規則」を制定するとともに、新星、暁の星、すずらんの三保育所を新設した。それとともに、農村部における産業繁忙期のための季節保育所既設五カ所(上白石一区・白石町北郷・厚別町東区・同川下・同下野幌)に、さらに山本・暁・藻岩下の三カ所を加え、計八カ所となった(昭28事務)。二十九年三月の民生・児童委員大会では、各担当地区から「保育所がないため親も思うように働けず、また大きな子を家に残して長期欠席として親の働いている家庭が多くなった」(道新 昭29・3・30)と、保育所の設置要望が相次いだ。この後、三十一年に入ると季節保育所は一六カ所に増加し、保育所入所児も一一六六人となったが、さらに、いわゆる親の就労により保育に欠ける児童が増加した。このため、三十二年には、「労働者の福祉施設の設置及び運営に関する事業」の一つとして福ちゃん保育所(定員六〇人)が新設された。それでも小中学校の長期欠席児童の解消には至らず、三十一年だけで五〇人に達した(昭31、32事務)。一方、同年の冷害凶作は、児童の人身売買の恐れがあったので児童委員に事故防止を呼びかけたが、それでも三十一年には三件、三十二年には一八八件に及んだ(昭32事務)。
三十年代後半以降の高度経済成長期に入ると、全国的に要保育児童の数が増加、そこで三十九年六月一日厚生省では、「要保育児童調査」を実施した。その結果道内では二万人分・二九九カ所の保育所が不足していることが分かった(北海道社会福祉事業史)。この調査をもとに厚生省では、四十二年度から四十六年度末までに保育所緊急整備五カ年計画を立て、国庫補助金制度を設けたことから保育所の新築にはずみがついた。札幌市においても急激な人口増加または経済的伸張の時期を迎え、女性労働の活発化等により、要保育児童が増加傾向を示し、入所待機児童が増加した。いわゆる共働き家庭が増加したためである。この対策として、札幌市では、四十年度から措置率一〇〇パーセントを目標に主要事業六カ年計画にもとづき、四十年度に市立保育所二カ所(新琴似・新川 定員各九〇人)を新設した。この後、保育所新設ラッシュ時代を迎え、四十一~四十六年度までに七保育所が新設された。うち四十五年度には、はじめて乳児保育認可第一号の市立菊水乳児保育園が新設され、乳児保育所は市立が四カ所、私立が一カ所の合計五カ所となった(社会事業概要 昭45)。働く女性たちの増加により、市民の請願・要望に応えたものであった。表21で、四十七年段階の児童福祉施設一覧を示した。保育所の事業開始年でみた場合、三十八年度以降公立・私立ともに激増し、特に四十一年度以降の私立保育所のそれが顕著であることが分かる。また、表では省いたが、札幌市指定簡易保育施設二五の数も見逃せない。この他の児童福祉施設として、乳児院二カ所、母子寮五カ所、助産施設一二カ所、養護施設五カ所、知的障害児施設四カ所があった。
表-21 児童福祉施設一覧(昭47.7.1現在) |
(乳児院) |
設置主体 | 設置名 | 定員 | 許可年月日 | 事業開始 年月日 |
社会福祉法人 | 聖母会天使院 | 9人 | 昭22. 1 | 昭22. 1 |
北海道 | 北海道中央乳児院 | 60 | 25. 6 | 25. 9 |
(母子寮) |
設置主体 | 設置名 | 定員 | 許可年月日 | 事業開始 年月日 |
社会福祉法人 | 愛隣館母子寮 | 20世帯 | 昭24. 2 | 昭24. 2 |
財団法人 | 札幌厚成会母子寮 | 19 | 25. 4 | 21.11 |
社会福祉法人 | 鈴蘭寮母子寮 | 20 | 27. 6 | 27. 6 |
札幌市 | 札幌市立円山寮 | 16 | 27. 4 | 27. 4 |
社会福祉法人 | 伏見母子寮 | 20 | 47. 6.20 | 47. 7. 1 |
(助産施設) |
設置主体 | 施設名 | 許可年月日 | 事業開始年月日 |
私立 | 田畑助産施設 | 昭44. 4. 1 | 昭44. 4. 1 |
〃 | 奥田助産施設 | 〃 | 〃 |
〃 | 横尾助産施設 | 〃 | 〃 |
〃 | 吉尾助産施設 | 〃 | 〃 |
医療法人 | 札幌第一助産施設 | 〃 | 〃 |
〃 | 白石中央助産施設 | 〃 | 〃 |
私立 | ひばりが丘助産施設 | 〃 | 〃 |
〃 | 石井助産施設 | 〃 | 〃 |
〃 | 松江助産施設 | 〃 | 〃 |
社団法人 | 勤医協札幌助産施設 | 〃 | 〃 |
私立 | 北海道愛育助産所 | 44. 8. 1 | 44. 8. 1 |
〃 | 葛城助産所 | 47. 5. 1 | 47. 5. 1 |
(保育所) |
設置主体 | 施設名 | 定員 | 許可年月日 | 事業開始 年月日 |
財団法人 | 琴似あやめ保育所 | 60人 | 昭29. 5 | 昭29. 5 |
在日救世軍財団 | 救世軍豊水保育所 | 40 | 23.12 | 17. 6 |
財団法人 | 札幌厚成会保育所 | 60 | 29. 5 | 29. 5 |
〃 | 定山渓保育所 | 120 | 27.10 | 27.10 |
〃 | みのり保育所 | 90 | 29. 6 | 29. 6 |
個人 | 札幌保育園 | 120 | 23.12 | 大11. 1 |
社会福祉法人 | 苗穂保育園 | 60 | 23.12 | 昭 2. 5 |
〃 | 愛隣館保育園 | 150 | 24. 8 | 24. 8 |
財団法人 | 鉄道弘済会札幌保育所 | 90 | 28. 2 | 27.11 |
〃 | すずらん保育所 | 90 | 28.10 | 28.11 |
〃 | 救世軍桑園保育所 | 90 | 30.12 | 29.12 |
社会福祉法人 | 駒鳥保育所 | 60 | 30. 4 | 30. 4 |
社団法人 | 福ちゃん保育園 | 90 | 32.10 | 32. 9 |
〃 | 第二福ちゃん保育園 | 60 | 39. 9. 1 | 39. 9. 1 |
財団法人 | 中の島保育所 | 150 | 41. 8. 1 | 41. 8. 1 |
社団法人 | 愛隣館第二保育所 | 90 | 41. 9. 1 | 41. 9. 1 |
財団法人 | 伏見保育園 | 180 | 41.10.1 | 41.10.1 |
〃 | 北栄保育園 | 120 | 42.10.1 | 42.10.1 |
社会福祉法人 | 真駒内保育園 | 90 | 42.11.1 | 42.11.1 |
財団法人 | 北郷保育園 | 120 | 42.12.1 | 42.12.1 |
〃 | 西岡保育園 | 90 | 42.12.1 | 42.12.1 |
社会福祉法人 | 柏葉保育園 | 90 | 43.11.1 | 43.11 |
財団法人 | 厚生会第二保育所 | 120 | 43.11.1 | 43.11.1 |
社会福祉法人 | 麻生保育園 | 120 | 43.12.1 | 43.12.1 |
〃 | 発寒ひかり保育園 | 90 | 44. 3.31 | 44. 4. 1 |
〃 | 元町杉の子保育園 | 120 | 44.10.1 | 44.10.1 |
〃 | 愛隣館東山保育園 | 90 | 45. 1. 1 | 45. 1. 1 |
〃 | 白石興生保育園 | 120 | 45. 2. 1 | 45. 2. 1 |
〃 | 東苗穂保育園 | 60 | 45. 4. 1 | 45. 4. 1 |
〃 | 円山北町保育園 | 60 | 45. 7. 1 | 45. 7. 1 |
財団法人 | ひばりが丘保育園 | 120 | 45. 8. 1 | 45. 8. 1 |
社会福祉法人 | 愛育乳児保育園 | 30 | 45.10.1 | 45.10.1 |
〃 | 澄川保育所 | 120 | 45.11.1 | 45.11.1 |
〃 | 清田保育園 | 90 | 45.11.1 | 45.11.1 |
〃 | 西発寒保育園 | 90 | 46. 1. 1 | 45. 1. 1 |
〃 | 篠路中央保育園 | 90 | 46. 5. 1 | 46. 5. 1 |
社会福祉法人 | 屯田保育園 | 90 | 46.11.1 | 46.11.1 |
〃 | 青葉興正保育園 | 120 | 46.12.1 | 46.12.1 |
〃 | 北の星東札幌保育園 | 120 | 46.12.1 | 46.12.1 |
〃 | 発寒浄恩保育園 | 90 | 47. 1. 1 | 47. 1. 1 |
〃 | 菊水元町保育園 | 90 | 47. 2. 1 | 47. 2. 1 |
〃 | もいわ光草保育園 | 90 | 47. 2. 1 | 47. 2. 1 |
札幌市 | 青葉保育園 | 180 | 24. 3 | 24. 3 |
〃 | みずほ保育園 | 90 | 25.10 | 25.10 |
〃 | 若草保育園 | 90 | 26. 3 | 26. 3 |
〃 | 新生保育園 | 90 | 28. 6 | 28. 6 |
〃 | 琴似保育園 | 120 | 28.12 | 28.12 |
〃 | みかほ保育園 | 120 | 31.12 | 31.12 |
〃 | あけぼの保育園 | 90 | 35. 3 | 35. 3 |
〃 | 月寒保育園 | 120 | 24. 3 | 24. 3 |
〃 | 美園保育園 | 120 | 30. 5 | 30. 5 |
〃 | 東札幌保育園 | 90 | 38.11 | 38.11 |
〃 | 東白石保育園 | 90 | 39.12 | 40.11 |
〃 | 平岸保育園 | 90 | 40. 2. 1 | 40. 2. 1 |
〃 | 新琴似保育園 | 90 | 40.12.1 | 40.12.1 |
〃 | 新川保育園 | 90 | 40.12.1 | 40.12.1 |
〃 | 山の手保育園 | 120 | 41.10.1 | 41.10.1 |
〃 | 菊水上町保育園 | 90 | 43. 2. 1 | 43. 2. 1 |
〃 | 手稲中央保育園 | 120 | 44.10.1 | 44.10.1 |
〃 | 菊水乳児保育園 | 30 | 45. 9. 1 | 45. 9. 1 |
〃 | 琴似乳児保育園 | 30 | 46. 1. 1 | 46. 1. 1 |
〃 | 月寒乳児保育園 | 30 | 46.11.1 | 46.11.1 |
〃 | 平岸乳児保育園 | 30 | 46.11.1 | 46.11.1 |
(養護施設) |
設置主体 | 施設名 | 定員 | 許可年月日 | 事業開始 年月日 |
社会福祉法人 | 札幌育児園 | 90人 | 昭24. 7 | 明39. 1 |
財団法人 | 鉄道弘済会札幌南藻園 | 48 | 27.12 | 昭28. 2 |
社会福祉法人 | 柏葉荘 | 100 | 34. 3 | 34. 3 |
〃 | 興正学園 | 60 | 26.10 | 27. 7 |
〃 | 羊ヶ丘養護園 | 70 | 32. 1 | 32. 1 |
(知的障害児施設) |
設置主体 | 施設名 | 定員 | 許可年月日 | 事業開始 年月日 |
社会福祉法人 | 札幌報恩学園 | 230人 | 昭24. 8 | 大 7.11 |
〃 | 花園学園 | 70 | 27. 7 | 昭27. 7 |
北海道 | もなみ学園 | 100 | 25. 1 | 25. 1 |
社会福祉法人 | ノビロ学園 | 70 | 44.11 | 25. 1 |
(知的障害児童通園施設) |
設置主体 | 施設名 | 定員 | 許可年月日 | 事業開始 年月日 |
札幌市 | かしわ学園 | 60人 | 昭35. 4 | 昭35. 4 |
(肢体不自由児施設) |
設置主体 | 施設名 | 定員 | 許可年月日 | 事業開始 年月日 |
北海道 | 北海道立札幌肢体不自 由児総合療育センター | 140人 | 昭27.11 | 昭28. 4 |
札幌市 | 札幌市マザーズホーム | 80 | 37. 9 | 37. 9 |
(教護院) |
設置主体 | 施設名 | 定員 | 許可年月日 | 事業開始 年月日 |
北海道 | 向陽学院 | 45人 | 昭26. 5 | 昭26. 9 |
『厚生事業の概要 昭和47年版』(昭47 札幌市)より。 |