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児童福祉

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 児童は社会の次代の担い手であり、心身ともに健やかに生まれ、育成され、愛護されていく権利をもっている。従って、行政は児童の保護者とともに協力して育てていくべき重大な責任がある。児童福祉法は、子どもの生活を保障し、子どもを健全に育てることを目的として二十二年十二月に制定され、翌年一月施行された。これに基づいて、問題児の発見・指導を役割とする児童委員(二十三年四月一日改選の民生委員から児童委員も兼務)と児童福祉の専門委員である児童福祉司とが誕生した。札幌には北海道立の機関として札幌(のちに北海道中央)児童相談所札幌報恩学園(南14西16)の一隅に二十三年七月開設された。翌二十四年、庁舎は南四条東四丁目に新築移転した。児童福祉法施行初年の二十三年の札幌市の場合、児童福祉施設の整備及び児童教護が緊急課題であった。このうち、児童福祉施設では、既設の施設を最低基準令案に準拠し許可された施設は、苗穂保育園札幌保育園天使の友愛児園札幌育成園保育所愛国厚生館保育所札幌豊水乳幼児託児所の六カ所で、同年中に市立札幌保育所、苗穂保育所、愛隣館付属母子寮の三カ所が国庫補助を受けて施工となった。児童教護問題では、五~八月札幌市に孤児・不良児が集中したことから、入所措置を行ってきたが、道中央児童相談所の開設によりその鑑別措置を移管した。それまでの取り扱い件数は四八件を数え、年末までに教護措置数は八八件に及んだ。
 二十五年に児童係が設置され、次の項目に重点が置かれた。
 (1)児童委員に関すること。活動範囲が広く、母子世帯、保育所の入所児童の調査及び母子寮入所者の調査、優生保護法による母子の保護指導、青少年の指導育成などを取り扱っていた。このためこれらの諸問題に対して児童福祉法、厚生省令よる最低基準等を委員に指導し、福祉行政に務めた。当時の児童委員数は、三一八人であった。
 (2)児童福祉施設に関すること。市内児童福祉施設は、二十五年当時二三施設であった。経営主体は、道、市、法人、私立等であって、厚生省令に基づく最低基準に定められた設備を有するものである。また、児童福祉の機関としては、北海道中央児童相談所(南4東4)、肢体不自由児札幌相談所(北2西2札幌保健所内)のほか、北海道石狩支庁内に児童福祉司一人が配置されていた。
 (3)保育所に関すること。児童福祉法第二四条により保育所に児童を入所させることは、市町村長が入所させることと定められており、その対象となる児童は、保護者が労働(内・外勤を問わない)するためにその児童が家庭で十分な保護を受けられない場合、また保護者が病気あるいは病人の看護をするため保護に欠けると認めた場合、及び小家屋に多人数居住しているため環境が悪く十分に保護養育が出来ない場合、またこれらに準ずる児童を日々保護者より委託を受けてその幼児を保育し児童の福祉に務めることが目的であって、二十五年当時札幌市立の保育所は三カ所定員二六〇人、私立八カ所定員六五〇人であった。また生活困窮家庭の児童の保育所使用料等については保護者より徴収せず、市が減免または負担し、困窮家庭児童保護に万全を期した。ちなみに、二十五年度の保育所施設に対する月別平均支出額は一三万円であった。
 (4)母子寮に関すること。児童福祉法第三五条第二項により知事の認可を受けていた母子寮は、二十五年当時鈴蘭寮、愛国厚生館母子寮、愛隣館母子寮、札幌厚生会母子寮の四施設六八室であった。これらはすべて敗戦後外地引揚者が一時収容施設として使用していたため収容能力がありながら非母子世帯が残寮していた。市では、要保護母子世帯が漸増傾向にあったので、母子寮の新設を計画したが、補助金僅少のため中止せざるを得なかった。このため非母子世帯の処置を関係者の協力を得て、北二四条所在の引揚者住宅に移転させ、要保護母子世帯の入所措置を行った。
 (5)母子家庭職業技能習得に関すること。母子福祉対策の一つとして、個々の母子家庭の実状に応じ、それに適する職業技能を習得させ、旺盛な勤労精神を涵養して社会的経済的に自立自営の途を立てさせる対策として、二十五年六月二十四日北海道規則第一六一号により北海道母子家庭職業技能習得費給与規則が公布・施行され、札幌市においても本趣旨にもとづいて市在住の母子世帯の自立を図るため七月一日より事務取扱を開始した。二十五年度の場合、申し込み件数六五件、申し込み金額七九万三六三〇円に対して給与件数三二件、給与金額二三万六二〇〇円、習得する職名は、洋裁、美容、編み物、保健婦、刺繡、栄養士等であった。
 (6)里親制度児童福祉法によって開始された里親制度の普及徹底にともない、二十五年度は里親登録者三八人、うち里子委託者二〇人であった。
 (7)児童福祉週間児童福祉週間の一環として五月十四日を「母の日」と定め、日夜我が子のために慈愛をよせる母と一般社会のために献身的に奉仕活動を行っていた、いわゆる「社会の母」に対して感謝の意を表する意味で全国的にカーネーション(造花)による母を讃える運動が大々的に行われることになった。札幌市においても各方面の関係機関や諸団体(婦人、青年、少年等)の協力を得てカーネーションの頒布事業を実施し、その益金を児童福祉週間の運動の財源として活用し、運動をさらに広めた。なお、二十五年度の純益金九万円余は、児童福祉施設勤務の保母たちのためにエプロンを贈呈した。
 前述した以外に、児童福祉施設として二十五年当時、乳児院二カ所、助産所、知的障害児施設二カ所、厚生施設一カ所、保護施設一カ所があった。
 二十六年五月五日、児童憲章が制定され、日本国憲法の精神に従い、児童を人として尊重し、親の生活手段とすることなく、社会の共同の責任で守るべきことなどが宣言された。
 二十八年頃より保育所入所希望者の漸増傾向がみられたために「札幌市保育所等使用規則」を制定するとともに、新星、暁の星、すずらんの三保育所を新設した。それとともに、農村部における産業繁忙期のための季節保育所既設五カ所(上白石一区・白石町北郷・厚別町東区・同川下・同下野幌)に、さらに山本・暁・藻岩下の三カ所を加え、計八カ所となった(昭28事務)。二十九年三月の民生・児童委員大会では、各担当地区から「保育所がないため親も思うように働けず、また大きな子を家に残して長期欠席として親の働いている家庭が多くなった」(道新 昭29・3・30)と、保育所の設置要望が相次いだ。この後、三十一年に入ると季節保育所は一六カ所に増加し、保育所入所児も一一六六人となったが、さらに、いわゆる親の就労により保育に欠ける児童が増加した。このため、三十二年には、「労働者の福祉施設の設置及び運営に関する事業」の一つとして福ちゃん保育所(定員六〇人)が新設された。それでも小中学校の長期欠席児童の解消には至らず、三十一年だけで五〇人に達した(昭31、32事務)。一方、同年の冷害凶作は、児童の人身売買の恐れがあったので児童委員に事故防止を呼びかけたが、それでも三十一年には三件、三十二年には一八八件に及んだ(昭32事務)。
 三十年代後半以降の高度経済成長期に入ると、全国的に要保育児童の数が増加、そこで三十九年六月一日厚生省では、「要保育児童調査」を実施した。その結果道内では二万人分・二九九カ所の保育所が不足していることが分かった(北海道社会福祉事業史)。この調査をもとに厚生省では、四十二年度から四十六年度末までに保育所緊急整備五カ年計画を立て、国庫補助金制度を設けたことから保育所の新築にはずみがついた。札幌市においても急激な人口増加または経済的伸張の時期を迎え、女性労働の活発化等により、要保育児童が増加傾向を示し、入所待機児童が増加した。いわゆる共働き家庭が増加したためである。この対策として、札幌市では、四十年度から措置率一〇〇パーセントを目標に主要事業六カ年計画にもとづき、四十年度に市立保育所二カ所(新琴似・新川 定員各九〇人)を新設した。この後、保育所新設ラッシュ時代を迎え、四十一~四十六年度までに七保育所が新設された。うち四十五年度には、はじめて乳児保育認可第一号の市立菊水乳児保育園が新設され、乳児保育所は市立が四カ所、私立が一カ所の合計五カ所となった(社会事業概要 昭45)。働く女性たちの増加により、市民の請願・要望に応えたものであった。表21で、四十七年段階の児童福祉施設一覧を示した。保育所の事業開始年でみた場合、三十八年度以降公立・私立ともに激増し、特に四十一年度以降の私立保育所のそれが顕著であることが分かる。また、表では省いたが、札幌市指定簡易保育施設二五の数も見逃せない。この他の児童福祉施設として、乳児院二カ所、母子寮五カ所、助産施設一二カ所、養護施設五カ所、知的障害児施設四カ所があった。
表-21 児童福祉施設一覧(昭47.7.1現在)
(乳児院)
設置主体設置名定員許可年月日事業開始
年月日
社会福祉法人聖母会天使院9人昭22. 1昭22. 1
北海道北海道中央乳児院6025. 625. 9
(母子寮)
設置主体設置名定員許可年月日事業開始
年月日
社会福祉法人愛隣館母子寮20世帯昭24. 2昭24. 2
財団法人札幌厚成会母子寮1925. 421.11
社会福祉法人鈴蘭寮母子寮2027. 627. 6
札幌市札幌市立円山1627. 427. 4
社会福祉法人伏見母子寮2047. 6.2047. 7. 1
(助産施設)
設置主体施設名許可年月日事業開始年月日
私立田畑助産施設昭44. 4. 1昭44. 4. 1
奥田助産施設
横尾助産施設
吉尾助産施設
医療法札幌第一助産施設
白石中央助産施設
私立ひばりが丘助産施設
石井助産施設
松江助産施設
社団法人勤医協札幌助産施設
私立北海道愛育助産所44. 8. 144. 8. 1
葛城助産所47. 5. 147. 5. 1
(保育所)
設置主体施設名定員許可年月日事業開始
年月日
財団法人琴似あやめ保育所60人昭29. 5昭29. 5
在日救世軍財団救世軍豊水保育所4023.1217. 6
財団法人札幌厚成会保育所6029. 529. 5
定山渓保育所12027.1027.10
みのり保育所9029. 629. 6
個人札幌保育園12023.12大11. 1
社会福祉法人苗穂保育園6023.12昭 2. 5
愛隣館保育園15024. 824. 8
財団法人鉄道弘済会札幌保育所9028. 227.11
すずらん保育所9028.1028.11
救世軍桑園保育所9030.1229.12
社会福祉法人駒鳥保育所6030. 430. 4
社団法人福ちゃん保育園9032.1032. 9
第二福ちゃん保育園6039. 9. 139. 9. 1
財団法人中の島保育所15041. 8. 141. 8. 1
社団法人愛隣館第二保育所9041. 9. 141. 9. 1
財団法人伏見保育園18041.10.141.10.1
北栄保育園12042.10.142.10.1
社会福祉法人真駒内保育園9042.11.142.11.1
財団法人北郷保育園12042.12.142.12.1
西岡保育園9042.12.142.12.1
社会福祉法人柏葉保育園9043.11.143.11
財団法人厚生会第二保育所12043.11.143.11.1
社会福祉法人麻生保育園12043.12.143.12.1
発寒ひかり保育園9044. 3.3144. 4. 1
元町杉の子保育園12044.10.144.10.1
愛隣館東山保育園9045. 1. 145. 1. 1
白石興生保育園12045. 2. 145. 2. 1
苗穂保育園6045. 4. 145. 4. 1
円山北町保育園6045. 7. 145. 7. 1
財団法人ひばりが丘保育園12045. 8. 145. 8. 1
社会福祉法人愛育乳児保育園3045.10.145.10.1
澄川保育所12045.11.145.11.1
清田保育園9045.11.145.11.1
西発寒保育園9046. 1. 145. 1. 1
篠路中央保育園9046. 5. 146. 5. 1
社会福祉法人屯田保育園9046.11.146.11.1
青葉興正保育園12046.12.146.12.1
北の星東札幌保育園12046.12.146.12.1
発寒浄恩保育園9047. 1. 147. 1. 1
菊水元町保育園9047. 2. 147. 2. 1
もいわ光草保育園9047. 2. 147. 2. 1
札幌市青葉保育園18024. 324. 3
みずほ保育園9025.1025.10
若草保育園9026. 326. 3
新生保育園9028. 628. 6
琴似保育園12028.1228.12
みかほ保育園12031.1231.12
あけぼの保育園9035. 335. 3
月寒保育園12024. 324. 3
美園保育園12030. 530. 5
札幌保育園9038.1138.11
東白石保育園9039.1240.11
平岸保育園9040. 2. 140. 2. 1
新琴似保育園9040.12.140.12.1
新川保育園9040.12.140.12.1
山の手保育園12041.10.141.10.1
菊水上町保育園9043. 2. 143. 2. 1
手稲中央保育園12044.10.144.10.1
菊水乳児保育園3045. 9. 145. 9. 1
琴似乳児保育園3046. 1. 146. 1. 1
月寒乳児保育園3046.11.146.11.1
平岸乳児保育園3046.11.146.11.1
(養護施設)
設置主体施設名定員許可年月日事業開始
年月日
社会福祉法人札幌育児園90人昭24. 7明39. 1
財団法人鉄道弘済会札幌南藻園4827.12昭28. 2
社会福祉法人柏葉荘10034. 334. 3
興正学園6026.1027. 7
羊ヶ丘養護園7032. 132. 1
(知的障害児施設)
設置主体施設名定員許可年月日事業開始
年月日
社会福祉法人札幌報恩学園230人昭24. 8大 7.11
花園学園7027. 7昭27. 7
北海道もなみ学園10025. 125. 1
社会福祉法人ノビロ学園7044.11 25. 1
(知的障害児童通園施設)
設置主体施設名定員許可年月日事業開始
年月日
札幌市かしわ学園60人昭35. 4昭35. 4
(肢体不自由児施設)
設置主体施設名定員許可年月日事業開始
年月日
北海道北海道立札幌肢体不自
由児総合療育センター
140人昭27.11昭28. 4
札幌市札幌市マザーズホーム8037. 937. 9
(教護院)
設置主体施設名定員許可年月日事業開始
年月日
北海道向陽学院45人昭26. 5昭26. 9
『厚生事業の概要 昭和47年版』(昭47 札幌市)より。