次いで同年5月10日蝦夷奉行を改めて箱館奉行となし、更に7月24日には東蝦夷地を永久に幕府の直轄となすべき旨を達し、松前家に対しては向後年々金3500両を賜わることにした。かくて12月奉行1人に付、高2000俵のほか役料1500俵、在勤年手当金700両と定め、同月正義を安芸守に任じた。享和2年は両奉行とも江戸にあって箱館には来らず、翌3年戸川安論が箱館に赴任の際、将軍は左の黒印状を与えた。
定 |
一 蝦夷地の儀万端念入れ、衰弊ならざる様これを沙汰す、蝦夷人に対し非分の取計らいこれ有るべからざる事。 |
一 異国境島々の儀厳重取計らい、日本人は申すに及ばず、蝦夷人と雖も異国え渡海する儀堅くこれを停止すべく、自然異国の船着岸するに於いては其所に留置、早々注進すべき事。 |
一 耶蘇教宗門、弥この間制禁させ、油断なくこれを守り穿鑿遂ぐべき事。 |
右此旨相守り、これを沙汰すべく、猶下知状載せる者也 |
享和三年二月十五日 御黒印 |
箱館奉行 |
更に、閣老は、蝦夷地取扱について次の下知状を与えた。
条々 |
一 箱館の儀寺社町人百姓等に至る迄御法度これを相守り、新儀企つべからざる旨常々申付くべき事。 |
一 蝦夷人共随分入念撫育せしめ産業衰微せざるよう取計らうべく、奥蝦夷島々の者共異国に親しみ申さざる様精々教示を加うべき事。 |
一 箱館の者共公事訴訟等これ有る節は、諸事江戸の御仕置に准じ申付くべく候。勿論蝦夷人共仕置の儀は別方の事にさせる間、猶又入念に申すべき事。 |
一 産物捌方正路に取計らい商人共猥りの振舞これ無き様申付くべく候。私かに彼地え渡海せしめ売買仕る者これ有る歟、密々蝦夷人と直商売致す者これ有るに於いては、急度罪科に処すべき事。 |
一 万一異国の船不慮に着岸せしめ不義の働に及び、人数の者入るべきに於いては、南部大膳太夫、津軽越中守え申遣わし、人数差出させ、箱館番の人数え差加え、これを取計らい早々注進に及ぶべき事。 |
右の趣これを相守り、この旨沙汰すべく仰出さる所也、仍て執達如レ件。 |
享和三年二月十五日 |
大炊守 居判 |
備前守 同 |
采女正 同 |
伊豆守 同 |
戸川筑前守殿 |
羽大安芸守殿 |
奉行の下には吟味役・調役・調役並・調役下役・同心・足軽をおいた。奉行は、1年交替で箱館に勤務、4月中に交替し、吟味役(2人)は、3年在勤とし、6月中に交替した。調役ないし調役下役は合計21人、交替で7人は江戸詰、14人は箱館在勤とした。
享和元年 「分間箱館全図」