函館の区入費

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 函館は北海道で最も早く明治5年に大小区制が導入されたわけであるが、明治5年に関しては、区務を取扱う大区扱所の存在も明確でなく、区入費という名目で区に係る経費を徴収したという史料も確認できない。明治5年はまだ町会所入費として江戸時代以来の坪割銭が徴収されたようで、この坪割銭の使用目的項目としては「町用掛始番役小使駅場手代月給・薪炭筆墨紙其外町会所諸入用」が当てられていた(「開公」5749)。
 明治6年には函館で区入費の徴収が開始された。次の史料は函館では区入費を徴収する体制が整い、官宅も同様に区入費が徴収されることになったことを示している。
 
函館ハ既ニ区入費ノ規則モ相定候付、官吏他籍ノ論ナク同様ニ(区入費を)可差出、且官宅ハ官費ヲ以修繕スレハ相当之宿代官ヘ収メ、区入費ハ比隣ノ地価ヲ以官ヨリ出スヘシ、其宿代ノ価ハ函館支庁ニ於テ実地取調可然哉、札幌ハ未タ区入費等之規則モ無之ニ付、先従前之通ニテ可然哉、乍然地方民費ニ宛候入費有之節ハ官吏モ同敷出金スヘシ、官宅宿代ハ箱館ニ比シ難ク候間、実地ニ於テ取調本年より適宜ノ収納可然哉、尤札幌箱館区ニテ取扱ニテ万一物議相生シトモ差支有之間敷奉存候事
(「開公」五七四九))

 
 この史料は、従前は「官吏公邸住居ハ勿論私宅住居ノ者」に至るまで「区内冗費(区内費用)」を小間割賦課することを免除されてきたが、「四民同一ノ理」に惇るので、「四民一般平等ニ取立諸費ニ支払至当ノ筋」と、明治5年11月に函館支庁が東京出張所へ問い合わせたことに対する東京出張所の考え方を示した書類で、6年2月13日付で函館支庁へ送付されている。
 区入費徴収に関して札幌はまだ体制が整っておらず、函館だけが先行する形であった。この区入費等を賦課する土地の区分については、6年3月25日と7年11月7日に「地所名称区別」という形の太政官布告が出されており、函館支庁は8年と9年に函館市中の地所について該当地所を設定している(表2-34)。
 「杉野家文書」の明治7年の大区割費徴収資料によると、明治6年の区入費は2636円60銭9厘で「町会所駅場町用掛月給町会所取建拝借金納め其外一切区入費大区割総合計」と書き添えられている。この内1325円は明治6年中に徴収された。残りの1311円60銭9厘は、翌7年9月に明治7年1月から8月迄の分(1862円64銭6厘)と一緒に徴収されている。これは7年の徴収法は「地価ニ照準シ割当候」とあるので、明治7年5月の布達「区入費分賦概則」を受けて区入費の徴収を地価割徴収法に変更したためと思われる。明治6年の前半期分までが江戸時代以来の坪割銭徴収で、後半期分以降が地価割となったのである。

区入費納付書 杉野家文書

 「杉野家文書」にはこの7年9月に行われた区入費割当ての納付書が残されている。納付書には主な費途が印刷され、割賦対象地所所在地と所有者、当該地所の地価と10円当りの割当て区入費額とその土地の地価割金額を書き込むようになっており、発行主体は町会所であった。このときは賦課方法変更のため徴収期が変則であるが、以後は1月~6月までに要した費用を7月に、7月~12月までに要した分を翌年1月に地価に割当てて徴収している。徴収に先立って、町会所から「大区割計算表」が市民に示され、「細目承知イタシ度モノハ町会所ヘ罷出帳簿閲覧可致」と書き添えられている。この表は「払之部」として町会所経費、町用掛月俸、駅場入費、戸籍費、道路掃除入費、消防費等が載せられ、「取立之部」としては地種、地価、割当金額と地価100円に対する割当金(8年7月から12月分は金19銭05毛8糸)が載せられている。「払之部」の費目については、明治10年末の町会所経理調査の後(11年1月より6月の計算表から)、町会所経費について小買物、備品、薪炭油等非常に細かい費目まで載せられるようになり、7月~12月分からは「大区割計算表」も「区務所経費追算払大区割計算表」と改められ、給与、郵電、臨時、備品、需用品、土木費等の大項目のもとに各費目が整理された。ただし、区務所の責任者区戸長の給料は、官費支給のため大区費には含まれていない。大区割区入費は本来大区毎の経費をまかなうものであるが、函館では3大区の扱所は一括して町会所内に置かれ、大区割区入費を町会所が総括していたので各大区毎に経費が集約されることはなかった。
 
表2-34 地所名称区別表
地所名称
区別
官有地第1種地券ヲ発セス地租ヲ課セス区入費ヲ賦セサルヲ法トス
一 皇宮地 皇居離宮等ヲ云             一 神地
官有地第2種地券ヲ発シ地租ヲ課セス区入費ヲ賦スルヲ法トス
一 皇族賜邸                    一 官用地
官有地第3種地券ヲ発セス地租ヲ課セス区入費ヲ賦セサルヲ法トス 但 人民ノ願ニヨリ右地所ヲ貸渡ス時其間借地料及ヒ区入費ヲ賦課スヘシ
一 山岳丘陵林藪原野河海湖沼池沢溝渠堤塘道路田畑屋敷等其他民有地ニアラサルモノ
一 鉄道線路敷地                  一 電信架線柱敷地
一 灯明台敷地                   一 行刑場
一 各所ノ旧跡名区及ヒ公園等民有地ニアラサルモノ  一 人民所有ノ権理ヲ失セシ土地
一 民有地ニアラサル堂宇敷地及ヒ墳墓地
官有地第4種地券ヲ発セス地租ヲ課セス区入費ヲ賦スルヲ法トス
一 寺院大中小学校説教場病院貧院等民有地ニアラサルモノ
民有地第1種地券ヲ発シ地租ヲ課シ区入費ヲ賦スルヲ法トス
一 人民各自所有ノ確証アル耕地宅地山林等ヲ云
民有地第2種一 人民数人或ハ一村或ハ数村所有ノ確証アル学校病院郷蔵牧場秣場社寺等官有地ニアラサル土地ヲ云
民有地第3種地券ヲ発シ地租・区入費ヲ昧スルヲ法トス
一 官有地ニアラサル墳墓地等ヲ云
地所名称
函館の該当地
官有地第1種八幡社 山上社 市杵島(巌島)社 東照宮 招魂社
官有地第2種函館支庁 税関 船改所 船改出張所 貸付会所 郵便役所
電信局海 陸軍省用地 懲役場 囚獄 羅卒分営 倉庫地
官有地第3種官林 公園 神葬地 旧火葬地 寺院境内等ノ堵基地

※外国人貸渡地所ハ第三種二入、借地料ヨリ区入費ヲ払フ
官有地第4種病院 学校 高寵寺 称名寺 能量寺 実行寺 清光院
民有地第1種人民一般所有地
民有地第2種町会所 貫目改所 梅毒検査所
民有地第3種新火葬地 大黒町墳墓地

 明治7年11月7日大政官布告第120号布告、明治8年7月函館支庁達、明治9年5月第46号函館支庁達より作成