座頭石のチャート

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ツツジの名所でもある座頭石は、稲刈沢の河床から垂直な壁がそびえた、一〇〇メートル余りもの高さをもつ大岩壁である(写真64)。岩壁に登るのは危険なので、崖のふもとで手の届く範囲の岩石や、足下の岩石を注意深く観察してみよう。ここでみられる岩石はハンマーで叩くと火花が飛び散るほど硬く、チャートと呼ばれる堆積岩である。チャートには黒色のものの他に暗灰色、白色のものがある。その他の堆積岩としては黒っぽく変色した泥岩もみられる。北側から頂上の東屋(あずまや)に登る道沿いには、アズキ色をしたチャート(赤色チャート)からなる露頭がある。つまり座頭石の、この切り立った岩壁は、ほとんどがチャートと呼ばれる非常に硬い堆積岩から構成されていることがわかる。また、この岩壁の下を流れる稲刈沢の林道脇には、チャートとは異なった崩れやすい岩石が露出している。それは少し風化を受けていて小さな破片になりやすいが、よくみると黒色泥岩からできており、砂岩が小さな塊や薄くねじれたような形で含まれている(写真65)。付加体の地層を理解する上で、このような独特な変形をした堆積物の観察は非常に重要なので、他の例もみてみよう。

写真64 座頭石の岸壁をつくっているチャート


写真65 座頭石付近にみられる,付加体堆積物を特徴づけるメランジ(混在岩)の産状。上下ともにこぶし大の転石。

 尾開山の西側を流れる大沢上流の林道脇にできた露頭では、黒色泥岩の中にチャート凝灰岩などの異なった種類からなる岩石が入り組んだ、とても複雑な地層を観察できる(図52)。図の左側では、上下に延びる断層の影響により周辺の泥岩が破砕されて地層はくしゃくしゃになっている。中央下には薄いチャートの層が積み重なって褶曲(しゅうきょく)したものが大きなブロックとして含まれているほかに、断層の左側にはより小さな破片もみられる。凝灰岩にいたっては、複雑な形態をしたものが泥岩中に散在している。泥岩チャート凝灰岩も元来は海洋プレートの上に層状に堆積していたのだが、後述のように陸側へ付加される時に、高い圧力を受けた状態で引き延ばされ、混じり合わされるために、写真65や図52のような混在した地層(メランジ)が形成される。また大鰐町との境界付近では、チャートのほかに複雑に褶曲したり、無数の断層に切られて大小さまざまな大きさに破壊された緑色岩の地層がみられる(写真66)。

図52 尾開山西の付加体堆積物を構成するメランジ(混在岩)の様子。一部褶曲の発達したチャートの大・小のブロック(ch)の周りを泥岩(m)が取り巻いており,不定形の凝灰岩ブロック(t)も無秩序に含まれている。


写真66 稲刈沢川の最上流部でみられる,緑色岩の露頭。セン断変形を受けて,様々な大きさに砕かれているために崩落しやすい。