神官僧侶会議での県の方針の伝達

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明治六年(一八七三)五月に、県は青森蓮心寺に、官員をはじめ各大区の村吏、神官、僧侶を集め、会議を開いた。そこでは、県権令菱田重禧(ひしだしげよし)をはじめ県の幹部から行政方針が伝えられた。会議開催の目的は改革の意思を県民に伝えることであり、「教化を盛にし租額を明にするより、勧農、貿易、開墾、牧畜、樹芸、水利、堤防等の事に至るまで、実況に就て施設如何を詳にし、各其胸臆を披(ひらき)て利害得失を論し、凡百民事の振興を要し、将来施政の脩整を期せんとす」(青森県立図書館編『議場日誌』)とされている。

写真13 蓮心寺

 産業奨励については特に蚕種、製糸業が対象として重視された。会議で発表された「桑樹繁殖方之事」は次のようになっている。
蚕種製糸之議者御国産之第一にして、民間有用之物品なる事は追々御布令之趣も有之、普く知所也、当管下之儀往々山野に桑樹生立すと雖も、元来養蚕は尤桑葉之良否に関し、善良之桑葉を以飼立されは、最良之繭糸を得かたき由、就ては本場之苗木を購得て、是を管内適宜之原野に栽培し、追々管内一般桑樹繁殖し、養蚕之享利を得、各人民富饒之基を開かん事、是民間之急務というへきなり、各戸長始村吏等よろしく注意いたし、尚実地に就き、各村々有志之者を説諭し、即今培植すへき木数取調可申出候はゝ、本場より苗木買寄せ、払下け可致事
(同前)

 本場の桑樹を移植して、製糸業を興そうという意図が見られる。このような政策意図の表明とともに、「桑苗植立方説諭之事」の名称の方針が示され、即金にて代金を支払う条件で、ごとに必要な苗木の数をとりまとめること、苗木は一本一一〇文であること、植え付けの場所としては、家屋敷の周りか、不毛の山野とし、山野については八月までに払い下げを願い出るべきこととした。
 次に、証券印紙発行についての説諭がなされた。それは二つの項目から成っている。一つは、六月一日から証券印紙を発行するという通知である。もう一つは、取引に当たって証券印紙を使用するようにという内容のものである。また、弘前を含む第三大区の証券印紙売捌人は次のように決定された。
小区 葛西宇八郎 藤岡幸太郎 今村要太郎 竹内半左衛門  二小区 溝江万蔵
小区 一戸久之亟  四小区 神市太郎  五小区 東海吉兵衛  六小区 藤田豊三郎
小区 三浦能定  八小区 久保田唯男

 このほか、各村落の道路掃除が義務づけられ、各小区戸長、組頭の手もとで、受け持ち場所を割り当て、絵図面に詳細を記入しておくべきこと、旧藩時代の民費と近年の民費を小区ごとに取り調べ、比較表を作成し、またこれを神官、僧侶に渡すこととされた。この比較表は一部、県庁へも提出することとされている。
 神官僧侶会議では、これらに加え、正租や雑税の納入につき、戸長が注意して期限を守ることや、旧藩が作成した紙幣の呼称を、旧来のものを廃止し、新貨の呼称で呼ぶべきことが伝えられた。さらに、鉱山等の開発につき、戸長が注意すべきことや、水車など、水利についての施設を造る際の出願方法が伝えられた。
 このようにして、新しい大区小区制下の行政が出発した。