ラグビーワールドカップ史

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 ラグビーワールドカップ(以下RWC)は、昭和62年(1987)5月22日から6月20日にかけて、第1回大会がNZと豪州を舞台に行われた。1871年にRFU(イングランド協会)が創立されてから116年目となるが、長いラグビーの歴史から見れば24年前はついこの間である。しかし、さらに歴史を重ねれば、将来はRWC開催以前がラグビー前史となるに違いない。大きな歴史の転換期であった。
 RWC開催以前、ラグビー界はIRB[1996年度まではIB]加盟8ヵ国(イングランドアイルランドスコットランドウエールズフランス、NZ、豪州、南アフリカ)が、ほぼ独占的に運営してきたといって過言ではない。世界に門戸を開く時がきたのは歴史の必然であろう。しかし保守と革新の対立は、ラグビー界でもプロ・アマ問題を中心に難航してきた。
 RWC開催までの葛藤を詳しく述べれば一冊の本になる。ここでは『ラグビーマガジン』に連載されたJ.B.G.トーマス1)の「ウエールズ便り」(1985年4月号~1986年12月号)を参考に私の考察を述べる。
 1985年3月20日から22日にパリで行われたIRB総会で、1987年のRWC開催案がNZに支持された豪州から提案された。英4ヵ国はスケジュール過密とアマチュア遵守の立場から懸念を表明したが、結局開催に同意して、準備委員会を設置した。
 翌1986年7月から1987年3月までRFUに研修留学した私は、ドン・ラザフォード(Don, Rutherford2))の委員会で多くのことを学んだが、彼から英国4ヵ国の推進派と協力して守旧派を説得したと聞いている。世界からの孤立を恐れた守旧派が、しぶしぶ改革案を認めたのだろう。
 RWC開催の決定から本番までわずか2年3ヵ月。この間、世界のラグビーは、南アフリカのアパルトヘイト政策3)と、プロ・アマ問題で揺れ続けた。開催決定後も反対意見を持つ関係者は「RWC開催はNZ、豪州を利するだけ。世界一といわれる南アが不参加でRWCといえるのか。アマチュアが遵守できるのか。大会運営費への不安はないのか」などの批判を隠さなかった。ソ連は早くも、南ア不参加なら大会ボイコットと表明するなど、本当にRWCが開催されるのか危ぶむ声も多くなってきた。
 その渦中に1985年7月17日、NZオールブラックスの南ア遠征がキャンセルされるという大問題が起きた。「あらゆる反対を押しきって実施する」はずだったNZ協会が、政府の説得と裁判所の仮処分4)で遠征を正式に断念した。世界から孤立する南アにとって、NZオールブラックスの遠征中止はラグビー界だけでなく、ホテルや旅行業者にも大きな打撃を与えた。NZでも、すでに旅行費を払い込んだ3000人の応援団への対応に追われるなど大きな問題を残した。
 南アのダニー・クレイブン会長は「スポーツへの政治の介入を、手をこまねいて見ている国際的な競技団体」とIOC(国際オリンピック委員会)やIRBを非難するなど、事態はますます混迷の度を深めていった。
 1986年4月、英国オックスフォードで開かれたIRB創立100周年記念の国際会議の最中に衝撃的なニュースが飛び込んだ。それは政治的配慮で遠征を取りやめたはずのNZオールブラックスのメンバーが、IRBとNZ協会の決定に造反し、南ア・トランスバール協会の招聘に応じ、個人の資格で旅行して現地で合流、NZキャバリアーズと名乗って、4試合のテストマッチを含む12試合を行うというものだった。IRBの会議に出席していた南アのダニー・クレイブン会長も「まったく知らなかった」と驚きを隠さなかった。IRBとNZ協会は、ダニー・クレイブン会長に「即時に追い返す」ことを求めたが、団長のコリン・ミーズ[NZ協会セレクター、1958年にオールブラックス・コルツで来日、私も対戦した]、主将のアンディ・ダルトンは、これを拒否して試合を続けた。
 南アのラグビーファンは狂喜し、大歓迎してキャバリアーズを迎えた。この遠征費を全額負担したのは南ア会長の座を狙っていると噂される、ヨハネスブルクの大富豪ルイス・ルイト[第3回RWC南ア大会時の会長]であり、選手にも多額の現金が渡っていると憶測された。
 この問題を掘り下げるのは本書の役割ではない。一気に結論に入ろう。全員を除名と息巻いたIRBもNZ協会も、南ア協会も、「みんなで渡れば怖くない」と開き直ったNZオールブラックスのメンバーに、振り上げた拳を下ろすことができなかった。帰国後、参加したメンバーは何事もなかったようにオールブラックスに復帰している。団長のコリン・ミーズが「IRBはもはや能力を失い、コントロールする力を失っている。たとえばIRB公認の遠征で豪州は3回も選手に金を払っている。正直いって来年のワールドカップは、さらに現実的になって、選手に休業補償を堂々と支払われるようになると思う」と述べている。
 IRB大会組織委員会が1985年8月5日にプランの一部を明かしたが、それによると招待国は南アを除くIRB7ヵ国に加えて、アルゼンチンルーマニアイタリアフィジーカナダアメリカトンガジンバブエ日本の16ヵ国となっていた。
 結局は南ア協会が、NZ政府と豪州政府にビザを発給してもらえないことを受けて、「初めてのRWCを成功させるために」辞退したことで、やっとRWC開催にこぎつけることができた。こうして始まったRWCがプロ化に向けて走りだしたのは当然の結果であった。

第1回ラグビーワールドカップ(NZ、豪州)

 前述した16ヵ国がそのまま招待され、4ヵ国ずつ4グループで予選を行い、各グループの上位2チームが決勝トーナメントを行った。日本代表は宮地克実監督、林敏之主将の布陣で参加したが、アメリカに惜敗し3敗で涙をのんだ。

 決勝トーナメントにIRB8ヵ国(南ア不参加)以外では、フィジーが唯一進出した。準決勝ではNZがウエールズに圧勝、フランスが大接戦の末豪州を下した。3位決定戦では豪州が退場者を出して14人で戦った末、21−22でウエールズに敗れた。決勝はNZがフランスを1トライに押さえて29−9で、下馬評どおり世界一の実力を見せ、地元ファンを熱狂させた。監督はブライアン・ロホア、主将は開幕前にケガをして無念の欠場となった、前述のアンディ・ダルトンに代わって、SHのデビッド・カークが務め、栄えあるエリスカップを手にした。イタリア戦で90メートル独走して怪物といわれた、WTBジョン・カーワン[現日本代表HC]、No8ウェイン・シェルフォード、FLマイケル・ジョーンズはじめ、この直後日本に来日して猛威を振るった世界最強のオールブラックスは、日本のファンの目にも焼きついているだろう。

 準優勝のフランスはジャック・フルー監督、フッカーのダニエル・デュブロカ主将、No8ローラン・ロドリゲス、SHピエール・ベルビジェ、CTBフィリップ・セラ、FBセルジュ・ブランコらの名手が活躍した。3位のウエールズにはSOのジョナサン・デービス、4位に甘んじたが豪州のSHニック・ファージョーンズやWTBデビッド・キャンピージなど、世界の名プレーヤーが一堂に会したラグビーを見られた感激に、テレビ解説をしていた私もRWCの素晴らしさに、ただただ圧倒されていた。決勝の笛を吹いた豪州のケリー・フィッツジェラルド[日本対NZのレフリーとして来日]が、若くして急逝したのは悲しい思い出である。

日本代表試合の観戦記】
 テストマッチNo93テストマッチNo94テストマッチNo95
第1回ラグビーワールドカップ1987
昭和62年(1987)5/22~6/20 NZ、豪州
試合会場
NZ(オークランド、ウエリントン、ハミルトン、クライストチャーチ、パーマストンノース、ロトルア、ダニーデン、インバーカーギル、ネイピア)、豪州(シドニー、ブリスベン)
優勝 NZ(1回目)
決勝6/20○NZ29−9フランスオークランドケリー・フィッツジェラルド(A)
3位決定戦6/18ウエールズ22−21●豪州ロトルアフレッド・ハワード(E)
準決勝6/14○NZ49−6ウエールズブリスベンケリー・フィッツジェラルド(A)
6/13フランス30−24●豪州シドニーブライアン・アンダーソン(S)
準々決勝6/6○NZ30−3スコットランドクライストチャーチデビッド・バーネット(I)
6/7フランス31−16フィジーオークランドクライブ・ノーリング(W)
6/7○豪州33−15アイルランドシドニーブライアン・アンダーソン(S)
6/8ウエールズ16−3イングランドブリスベンルネ・ウールケ(F)

決勝トーナメント試合結果とメンバー表
RWC1987 決勝Tメンバー表
順位予選A組豪州イングランドアメリカ日本勝点得点失点
1豪州○19-6○47-12○42-2330010841
2イングランド●6-19○34-6○60-720110032
3アメリカ●12-47●6-34○21-181023999
4日本●23-42●7-60●18-2100348123

順位予選B組ウエールズアイルランドカナダトンガ勝点得点失点
1ウエールズ○13-6○40-9○29-163008231
2アイルランド● 6-13○46-19○32-92018141
3カナダ● 9-40●19-46○37-41026590
4トンガ●16-29● 9-32● 4-370032995

順位予選C組NZフィジーイタリアアルゼンチン勝点得点失点
1NZ○74-13○70-6○46-1530019034
2フィジー●13-74●15-18○28-910256101
3イタリア● 6-70○18-15●16-2510240110
4アルゼンチン●15-46● 9-28○25-161024990

トライ数:フィジー6、イタリア5、アルゼンチン4
順位予選D組フランススコットランドルーマニアジンバブエ勝点得点失点
1フランス△20-20○55-12○70-1221014544
2スコットランド△20-20○55-28○60-2121013569
3ルーマニア●12-55●28-55○21-2010261130
4ジンバブエ●12-70●21-60●20-2100353151

トライ数:フランス25、スコットランド22
※上位2チームが決勝トーナメントに出場する。同点の場合は次の優先順位による。1トライ数、2総得点、3得失点差、4抽選。
※トーナメントは決勝のみ延長戦を行い、なおも同点の場合は1トライ数、2大会を通じてラフプレーによる退場者が少ないチーム。それでも優劣がなければ両チーム優勝。
日本代表メンバー
団長:金野滋(専務理事)、監督:宮地克実(強化委員)、コーチ:水谷眞(強化委員)、トレーナー:及川文寿、
FW:八角浩司(トヨタ)、木村敏隆(ワールド)、藤田剛(日新製鋼)、広瀬務(同大)、洞口孝治(釜石)、相沢雅晴(リコー)、☆林敏之(神鋼)、大八木淳史(神鋼)、栗原誠治(サントリー)、桜庭吉彦(釜石)、宮本勝文(同大)、シナリ・ラトウ(大東大)、千田美智仁(釜石)、河瀬泰治(明大OB)、
HB:生田久貴(三菱商事)、萩本光威(神鋼)、平尾誠二(神鋼)、松尾勝博(ワールド)、TB:大貫慎二(サントリー)、沖土居稔(サントリー)、朽木英次(トヨタ)、吉永宏二郎(マツダ)、吉野俊郎(サントリー)、ノフォムリ・タウモエフォラウ(三洋東京*)、FB:向井昭吾(東芝府中)、村井大次郎(丸紅)
*この年度のみ東京三洋のチーム登録名は三洋東京

第2回ラグビーワールドカップ(イングランド他4ヵ国)

 宿沢広朗監督、平尾誠二主将の日本代表は、予選を行うことになったアジア地区で、西サモアに敗れたが、トンガ韓国を破って出場権を得た。本大会ではスコットランドに、前半9−17と健闘したが、後半は圧倒され9−47で敗れた。アイルランドにはトライ数3対4と善戦したが16−32で屈した。最終戦はベルファストでジンバブエに52−8で快勝し、うれしいRWC初の勝利を挙げた。しかしいまもってこれが唯一の勝利であることは、何としても残念だ。

 IRB8ヵ国(南ア欠場)以外でベスト8に勝ち残ったのは、西サモア(現サモア)とカナダである。西サモアウエールズを下しての決勝トーナメント出場だけに価値がある。準決勝は19−18でアイルランドに辛勝した豪州と、カナダの挑戦を退けたNZが対戦した。豪州はNZをノートライ、2PGに押さえて16−6で快勝した。NZがノートライで敗れるのは極めて珍しい。ワイリー監督とハートコーチの確執が敗因と報道されるなど、ラグビー王国が揺れ動く。もう一方の準決勝は西サモアを28−6で下したスコットランドと、フランスに19−10で勝ったイングランドが対戦した。結果はノートライゲームを9−6で制したイングランドが決勝に進出した。3位決定戦はNZが13−6でスコットランドを破って辛うじて面目を保った。

 決勝では豪州がプロップ、ユーアン・マッケンジーの唯一のトライを守りきって12−6でうれしい優勝を遂げた。豪州はボブ・ドゥワイヤー監督が高い評価を受け、主将のSHニック・ファージョーンズとSOマイケル・ライナーのハーフ団が、優勝の原動力と称えられた。WTBデビッド・キャンピージはこの大会を彩ったスターであった。決勝の笛は日本にもなじみの深い、ウエールズのデレック・ベバンが吹いている。

日本代表試合の観戦記】
 テストマッチNo112テストマッチNo113テストマッチNo114
第2回ラグビーワールドカップ1991
平成3年(1991)10/3~11/2 イングランド他4ヵ国
試合会場
イングランド(トゥイッケナム、レスター、グロスター、オトレー)
スコットランド(エジンバラ)
ウエールズ(カーディフ、スラネスリー、ポンティプール、ポンティプリース)
アイルランド(ダブリン、ベルファスト)
フランス(パリ、リール、ベジェ、バイヨンヌ、トゥールーズ、グルノーブル、アジャン、ブリーブ)
優勝 豪州(1回目)
決勝11/2○豪州12−6イングランドトゥイッケナムデレック・ベバン(W)
3位決定戦10/30○NZ13−6スコットランドアームズパークスティーブン・ヒルディッチ(I)
準決勝10/27○豪州16−6●NZランズダウンロードジム・フレミング(S)
10/26イングランド9−6スコットランドマレーフィールドケリー・フィッツジェラルド(A)
準々決勝10/20○豪州19−18アイルランドランズダウンロードジム・フレミング(S)
10/20○NZ29−13カナダリールフレッド・ハワード(E)
10/19イングランド19−10フランスパルク・ド・プランスデビッド・ビショップ(NZ)
10/19スコットランド28−6西サモアマレーフィールドデレック・ベバン(W)

決勝トーナメント試合結果とメンバー表
RWC1991 決勝Tメンバー表
順位予選A組NZイングランドイタリアアメリカ勝点得点失点
1NZ○18-12○31-21○46-63009539
2イングランド●12-18○36-6○37-92018533
3イタリア●21-31● 6-36○30-91025776
4アメリカ● 6-46● 9-37● 9-3000324113

順位予選B組スコットランドアイルランド日本ジンバブエ勝点得点失点
1スコットランド○24-15○47-9○51-1230012236
2アイルランド●15-24○32-16○55-1120110251
3日本● 9-47●16-32○52-81027787
4ジンバブエ●12-51●11-55● 8-5200331158

順位予選C組豪州西サモアウエールズアルゼンチン勝点得点失点
1豪州○ 9-3○38-3○32-193007925
2西サモア● 3-9○16-13○35-122015434
3ウエールズ● 3-38●13-16○16-71023261
4アルゼンチン●19-32●12-35● 7-160033883

順位予選D組フランスカナダルーマニアフィジー勝点得点失点
1フランス○19-13○30-3○33-93008225
2カナダ●13-19○19-11○13-32014533
3ルーマニア● 3-30●11-19○17-151023164
4フィジー● 9-33● 3-13●15-170032763

※上位2チームが決勝トーナメントに出場する。同点の場合は次の優先順位による。1トライ数、2総得点、3得失点差、4抽選。
※トーナメントは決勝のみ延長戦を行い、なおも同点の場合は1トライ数、2大会を通じてラフプレーによる退場者が少ないチーム、それでも優劣がなければ両チーム優勝。
日本代表メンバー
団長:金野滋(会長)、副団長:白井善三郎(専務理事)、監督:宿沢広朗(強化委員)、ドクター:丸山浩一、トレーナー:及川文寿、
FW:太田治(日本電気)、高橋一彰(トヨタ)、藤田剛(日本IBM)、薫田真広(東芝府中)、田倉政憲(三菱京都)、木村賢一(トヨタ)、林敏之(神鋼)、大八木淳史(神鋼)、エケロマ・ルアイウヒ(ニコニコドー)、梶原宏之(東芝府中)、中島修二(日本電気)、シナリ・ラトウ(三洋電機)、大内寛文(龍谷大)、宮本勝文(三洋電機)、
HB:堀越正己(神鋼)、村田亙(東芝府中)、松尾勝博(ワールド)、青木忍(リコー)、TB:吉田義人(伊勢丹)、増保輝則(早大)、朽木英次(トヨタ)、☆平尾誠二(神鋼)、元木由記雄(明大)、松田努(関東学大)、FB:細川隆弘(神鋼)、前田達也(NTT関西)

第3回ラグビーワールドカップ(南アフリカ)

 小藪修監督、薫田真広主将の日本代表は、RWC予選を兼ねた第14回アジア大会で、韓国を26−11で下して本大会に臨んだ。ブルームフォンティンで10−57ウエールズ、28−50アイルランドと連敗したあと、最後にNZと対戦し2トライを奪ったものの、21トライの猛爆を浴びせられ、17−145で壊滅した。世界注視のRWCでの惨敗だけに、日本が受けたダメージは強烈だった。

 この大会はアパルトヘイト政策に終止符を打って、世界に復帰した南アフリカで開催された。第3回大会にして初めてNZ、南アの両横綱が揃い踏みをした大会である。決勝では脚本どおり両横綱の死闘が演ぜられ、壮絶なノートライゲームは延長戦後半、南アSOジョエル・ストランスキーの劇的なDGで決着を見た。『インビクタス(敗れざるもの)』という題名で映画化され、日本でも公開されたので見た人も多いだろう。ネルソン・マンデラ大統領がフランソワ・ピナール主将と抱擁し、南アの白人と黒人が融和した、あの映像に涙した人も多い。ラグビーが人類の平和に直接貢献した姿に私も感動した。政治家が派閥抗争のたびにノーサイドを口にするようになったが、正真正銘のノーサイドの瞬間は、人々の心に深く刻まれたに違いない。

 世界に復帰するや、いきなりエリスカップを奪ったラグビー王国南アフリカが、第3回RWCの話題を独占するなかで、NZの怪物ウイング、ジョナ・ロムーの名も、ファンの心に刻まれた。ロンドンの観光名所「マダム・タッソー館」に、実物大のロムー人形が飾られた。

 決勝の笛はイングランドのエド・モリソン。3位決定戦をNZのビショップが吹いた。どちらが上か甲乙つけがたい両レフリーだが、自国が決勝に進出したためにビショップは対象から外れた。レフリーの割り当てには、こんな悲哀も生まれるのだ。二人とも来日しているし、エドには菅平で早大の練習試合を吹いてもらった。世界トップレフリーのほとんどが来日し、日本のレフリング向上に寄与してくれるのは素晴らしいことだ。

日本代表試合の観戦記】
 テストマッチNo126テストマッチNo127テストマッチNo128
第3回ラグビーワールドカップ1995
平成7年(1995)5/25~6/24 南アフリカ
試合会場
ヨハネスブルク、プレトニア、ダーバン、ケープタウン、ステレンボッシュ、
ブルームフォンティン、ルステンブルク、イーストロンドン、ポートエリザベス
優勝 南アフリカ(1回目)
決勝6/24○南アフリカ15−12●NZヨハネスブルクエド・モリソン(E)
(9−9 延長戦6−3)
3位決定戦6/22フランス19−9イングランドブレトリアデビッド・ビショップ(NZ)
準決勝6/17○南アフリカ19−15フランスダーバンデレック・ベバン(W)
6/18○NZ45−29イングランドケープタウンスティーブン・ヒルディッチ(I)
準々決勝6/10○南アフリカ42−14西サモアヨハネスブルクジム・フレミング(S)
6/10フランス36−12アイルランドダーバンエド・モリソン(E)
6/11○NZ48−30スコットランドプレトリアデレック・ベバン(W)
6/11イングランド25−22●豪州ケープタウンデビッド・ビショップ(NZ)

決勝トーナメント試合結果とメンバー表
RWC1995 決勝Tメンバー表
順位予選A組南アフリカ豪州カナダルーマニア勝点得点失点
1南アフリカ○27-18○20-0○21-893006826
2豪州●18-27○27-11○42-372018741
3カナダ● 0-20●11-27○34-351024556
4ルーマニア● 8-21● 3-42● 3-3430032097

順位予選B組イングランド西サモアイタリアアルゼンチン勝点得点失点
1イングランド○44-22○27-20○24-1893009560
2西サモア●22-44○42-18○32-2672019688
3イタリア●20-27●18-42○31-2551026994
4アルゼンチン●18-24●26-32●25-3130036987

順位予選C組NZアイルランドウエールズ日本勝点得点失点
1NZ○43-19○34-9○145-17930022245
2アイルランド●19-43○24-23○50-2872019394
3ウエールズ● 9-34●23-24○57-1051028968
4日本●17-145●28-50●10-57300355252

順位予選D組フランススコットランドトンガコートジボワール勝点得点失点
1フランス○22-19○38-10○54-18930011447
2スコットランド●19-22○41-5○89-0720114927
3トンガ●10-38● 5-41○29-1151024490
4コートジボワール●18-54● 0-89●11-29300329172

日本代表メンバー
団長:白井善三郎(専務理事)、監督:小藪修(強化委員)、コーチ:洞口孝治(強化委員)、ドクター:河野一郎(強化委員)、トレーナー:皆川彰、
同行役員:コーチ:藤原優(強化委員)、小西義光(強化委員)、河瀬泰治(強化委員)、総務:坂本典幸(強化委員)
FW:太田治(NEC)、高橋一彰(トヨタ)、☆薫田真広(東芝府中)、弘津英司(神鋼)、田倉政憲(三菱京都)、浜辺和(近鉄)、桜庭吉彦(釜石)、赤塚隆(明大)、ブルース・ファーガソン(日野自動車)、梶原宏之(勝沼クラブ)、シナリ・ラトウ(三洋電機)、井沢航(東京ガス)、シオネ・ラトウ(大東大)、羽根田智也(ワールド)、
HB:堀越正己(神鋼)、村田亙(東芝府中)、松尾勝博(ワールド)、廣瀬佳司(トヨタ)、TB:吉田義人(伊勢丹)、増保輝則(神鋼)、ロペティ・オト(大東大)、平尾誠二(神鋼)、元木由記雄(神鋼)、吉田明(神鋼)、FB:松田努(東芝府中)、今泉清(サントリー)

第4回ラグビーワールドカップ(ウエールズ他4ヵ国)

 21世紀直前の第4回大会は、カーディフのアームズパークを改装したミレニアムスタジアムを決勝の舞台に開催された。

 平尾誠二監督、アンドリュー・マコーミック主将の日本代表は、第16回アジア大会を制してRWC4回連続出場を果たした。本大会での活躍が大いに期待されたが、サモアに9−43、ウエールズに15−64、アルゼンチンに12−33で屈して3敗に終わった。第4回大会から出場国が20に増えたため、予選で5組のプール戦を行い、各組1位の5チームが決勝トーナメントに出場、各組2位の5チームに3位グループトップのアルゼンチンを加えた6チームの勝者、3チームを決勝トーナメントに進出させた。準決勝では、フランスが43−31でNZを破って決勝進出を果たし脚光を浴びた。前回優勝の南アは、豪州に延長戦の末21−27で競り負けて涙をのんだ。3位決定戦では、前回決勝戦の再現となって観客を沸かせたが、南アが22−18でNZを下し、またも死闘を制した。NZは4位に低迷し、ジョン・ハート監督らに国内でのブーイングが激しくなった。

 決勝は豪州ワラビーズがフランスに35−12で快勝、ジョン・イールズ主将が高々とエリスカップを掲げ、ロッド・マックィーン監督が満面の笑みを見せた。大会MVPはCTBティム・ホランの手に輝いた。日本のトップリーグでも活躍したSHジョージ・グレーガン、SOスティーブン・ラーカムらの豪州ワラビーズが、早くも2回目のエリスカップを手に入れている。決勝のレフリーは、南アのアンドレ・ワトソン君が務め、シャーロック・ホームズ張りの名ジャッジを披露してくれた。この大会ではウルグアイ、ナミビアの両国が初出場している。

日本代表試合の観戦記】
 テストマッチNo159テストマッチNo160テストマッチNo161
第4回ラグビーワールドカップ1999
平成11年(1999)10/1~11/6 ウエールズ他4ヵ国
試合会場
ウエールズ(カーディフ、レクサム、スラネスリー)
イングランド(トゥイッケナム、レスター、ブリストル、ハターズフィールド)
スコットランド(エジンバラ、グラスゴー、ガラシールズ)
アイルランド(ダブリン、リマリック、ベルファスト)
フランス(パリ、トゥールーズ、ボルドー、ベジェ、ランス)
優勝 豪州(2大会ぶり2回目)
決勝11/6○豪州35−12フランスミレニアムアンドレ・ワトソン(SA)
3位決定戦11/4○南アフリカ22−18●NZミレニアムピーター・マーシャル(A)
準決勝10/30○豪州27−21●南アフリカトゥイッケナムデレク・ベバン(W)
10/31フランス43−31●NZトゥイッケナムジム・フレミング(S)
準々決勝10/23○豪州24−9ウエールズミレニアムコリン・ホーク(NZ)
10/24○南アフリカ44−21イングランドパリジム・フレミング(S)
10/24○NZ30−18スコットランドマレーフィールドエド・モリソン(E)
10/24フランス47−26アルゼンチンランズダウンロードデレク・ベバン(W)
準々決勝進出決定戦
10/20イングランド45−24フィジートゥイッケナムクレイトン・トーマス(W)
10/20アルゼンチン28−24アイルランドランスステュアート・ディッキンソン(A)
10/20スコットランド35−20西サモアマレーフィールドデビッド・マクヒュー(I)

決勝トーナメント試合結果とメンバー表
RWC1999 決勝Tメンバー表
順位予選A組南アフリカスコットランドウルグアイスペイン勝点得点失点
1南アフリカ○46-29○39-3○47-3930013235
2スコットランド●29-46○43-12○48-0720112058
3ウルグアイ● 3-39●12-43○27-1551024297
4スペイン● 3-47● 0-48●15-27300318122

順位予選B組NZイングランドトンガイタリア勝点得点失点
1NZ○30-16○45-9○101-3930017628
2イングランド●16-30○101-10○67-7720118447
3トンガ● 9-45●10-101○28-25510247171
4イタリア● 3-101● 7-67●25-28300335196

順位予選C組フランスフィジーカナダナミビア勝点得点失点
1フランス○28-19○33-20○47-13930010852
2フィジー●19-28○38-22○67-18720112468
3カナダ●20-33●22-38○72-11510211482
4ナミビア●13-47●18-67●11-72300342186

順位予選D組ウエールズサモアアルゼンチン日本勝点得点失点
1ウエールズ●31-38○23-18○64-15720111871
2サモア○38-31●16-32○43-972019772
3アルゼンチン●18-23○32-16○33-1272018351
4日本●15-64● 9-43●12-33300336140

トライ数:ウエールズ14、サモア11、アルゼンチン3
順位予選E組豪州アイルランドルーマニアアメリカ勝点得点失点
1豪州○23-3○57-9○55-19930013531
2アイルランド● 3-23○44-14○53-8720110045
3ルーマニア● 9-57●14-44○27-25510250126
4アメリカ●19-55● 8-53●25-27300352135

 
日本代表メンバー
団長:河野一郎(強化推進本部長)、監督:平尾誠二(強化委員)、コーチ:土田雅人(強化委員)、テクニカルアドバイザー:勝田隆(強化委員)
FW:長谷川慎(サントリー)、中道紀和(神鋼)、薫田真広(東芝府中)、坂田正彰(サントリー)、中村直人(サントリー)、小口耕平(リコー)、ロバート・ゴードン(東芝府中)、大久保直弥(サントリー)、桜庭吉彦(釜石)、田沼広之(リコー)、グレッグ・スミス(豊田自動織機)、渡邉泰憲(東芝府中)、木曽一(立命大)、石井龍司(トヨタ)、ジェミー・ジョセフ(サニックス)、伊藤剛臣(神鋼)、
HB:グレアム・バショップ(サニックス)、村田亙(東芝府中)、廣瀬佳司(トヨタ)、岩渕健輔(神鋼)、TB:☆アンドリュー・マコーミック(東芝府中)、元木由記雄(神鋼)、吉田明(神鋼)、古賀淳(三洋電機)、増保輝則(神鋼)、大畑大介(神鋼)、パティリアイ・ツイドラキ(トヨタ)、三木亮平(龍谷大)、FB:松田努(東芝府中)、平尾剛史(三菱京都)

第5回ラグビーワールドカップ(豪州)

 向井昭吾監督、箕内拓郎主将の日本代表は、RWC予選のアジア3国対抗で韓国、中華台北に圧勝して、5回連続で本大会に進んだ。第5回大会は出場20チームを4グループに分けて予選ラウンドを行い、上位2チームが決勝トーナメントに進むオーソドックスな組み合わせになった。日本代表は4敗に終わったが善戦健闘した。11−32スコットランド、29−51フランス、13−41フィジー、26−39アメリカである。この結果に満足しているわけではないが、ゲーム内容は良かった。スコットランドフランスを苦しめたこと、ミスマッチがなかったことを私は評価している。アメリカに負けたのは反省されるが、ゴスフォードに転戦して中3日の日程は苦しかった。本番で競り合いができる力がついてくれば明日に期待が持てる。それを実感させてくれる戦いぶりだった。

 この大会はグルジアが初出場したが、ラグビー強国の牙城は揺るがず、結果的に旧IRB8ヵ国が、決勝トーナメントに初めて揃って顔を連ねた。

 準決勝でNZが豪州に10−22で敗れ長期の低迷を続ける。前の3大会で敗れたワイリー、メインズ、ハートの3監督がいずれも直後に辞任したのに対し、この大会で指揮をとったNZのジョン・ミッチェル監督が「私は辞任しない」と語り、メディアの攻撃を受けた。もう一つの準決勝はイングランドが24−7でフランスを下し決勝に進んだ。

 ここまですべての試合は、ラグビーの母国、イングランドの初優勝を飾るためにあったといっても過言ではない。SOジョニー・ウィルキンソンが延長戦後半、99分37秒[『ラグマガ』村上晃一2004年1月号、P5]に劇的なドロップゴールで優勝を決めた瞬間は、ラグビーの歴史に、永遠に記録され記憶されたことだろう。テレビ観戦の私も、全身金縛り状態で息をつくことさえできなかった。

 初めてエリスカップを母国に持ち帰ったイングランドの歓喜は説明の要はない。クライブ・ウッドワード監督、マーティン・ジョンソン主将、ウィルキンソンらは英国民永遠のヒーローとなった。決勝のレフリーは、前大会に引き続き南アフリカのアンドレ・ワトソンが務めた。2大会連続決勝の笛を吹く偉業はなかなか破られないだろうが、自国がファイナリストになれないことと引き換えの記録である。

日本代表試合の観戦記】
 テストマッチNo189テストマッチNo190テストマッチNo191テストマッチNo192
第5回ラグビーワールドカップ2003
平成15年(2003)10/10~11/22 豪州
試合会場
シドニー、ゴスフォード、ブリスベン、タウンズビル、パース、メルボルン、キャンベラ、ロンセストン、ウーロンゴン、アデレード
優勝 イングランド(1回目)
決勝11/22イングランド20−17●豪州シドニーアンドレ・ワトソン(SA)
(14−14 延長戦6−3)
3位決定戦11/20○NZ40−13フランスシドニークリス・ホワイト(E)
準決勝11/16イングランド24−7フランスシドニーパディー・オブライエン(NZ)
11/15○豪州22−10●NZシドニークリス・ホワイト(E)
準々決勝11/9イングランド28−17ウエールズブリスベンアラン・ローランド(I)
11/9フランス43−21アイルランドメルボルンジョナサン・カプラン(SA)
11/8○豪州33−16スコットランドブリスベンスティーブ・ウォルシュ(NZ)
11/8○NZ29−9●南アフリカメルボルントニー・スプレッドベリー(E)

決勝トーナメント試合結果とメンバー表
RWC2003 決勝Tメンバー表
順位予選A組豪州アイルランドアルゼンチンルーマニアナミビア勝点得点失点
1豪州○17-16○24-8○90-8○142-01840027332
2アイルランド●16-17○16-15○45-17○64-71530114156
3アルゼンチン● 8-24●15-16○50-3○67-141120214057
4ルーマニア● 8-90●17-45● 3-50○37-7510365192
5ナミビア● 0-142● 7-64●14-67● 7-37000428310

順位予選B組フランススコットランドフィジーアメリカ日本勝点得点失点
1フランス○51-9○61-18○41-14○51-292040020470
2スコットランド● 9-51○22-20○39-15○32-111430110297
3フィジー●18-61●20-22○19-18○41-131020298114
4アメリカ●14-41●15-39●18-19○39-26610386125
5日本●29-51●11-32●13-41●26-39000479163

順位予選C組イングランド南アフリカサモアウルグアイグルジア勝点得点失点
1イングランド○25-6○35-22○111-13○84-61940025547
2南アフリカ● 6-25○60-10○72-6○46-191530118460
3サモア●22-35●10-60○60-13○46-99202138117
4ウルグアイ●13-111● 6-72●13-60○24-12410356255
5グルジア● 6-84●19-46● 9-46●12-24000446200

順位予選D組NZウエールズイタリアカナダトンガ勝点得点失点
1NZ○53-37○70-7○68-6○91-72040028257
2ウエールズ●37-53○27-15○41-10○27-201430113298
3イタリア● 7-70●15-27○19-14○36-12820277123
4カナダ● 6-68●10-41●14-19○24-7510354135
5トンガ● 7-91●20-27●12-36● 7-24100446178

日本代表メンバー
団長:真下昇(専務理事)、副団長:宿沢広朗(強化委員長)、監督:向井昭吾(強化委員)、コーチ:マーク・ベル(日本協会)、飯島均(三洋電機)、マーク・エラ(日本協会)、田村誠(トヨタ)、中島修二(NEC)、総務:小原政昭(東芝)、広報兼渉外:東健太郎、ドクター:福田潤(藤沢湘南大病院)、トレーナー:宮本武宣(サイカ)
FW:長谷川慎(サントリー)、山本正人(トヨタ)、坂田正彰(サントリー)、網野正大(NEC)、豊山昌彦(トヨタ)、山村亮(関東学大)、久保晃一(ヤマハ)、木曽一(ヤマハ)、田沼広之(リコー)、アダム・パーカー(東芝府中)、早野貴大(サントリー)、☆箕内拓郎(NEC)、渡邉泰憲(東芝府中)、大久保直弥(サントリー)、浅野良太(NEC)、伊藤剛臣(神鋼)、斉藤祐也(神鋼)、
HB:苑田右二(神鋼)、辻高志(NEC)、アンドリュー・ミラー(神鋼)、廣瀬佳司(トヨタ)、TB:栗原徹(サントリー)、小野澤宏時(サントリー)、元木由記雄(神鋼)、ルーベン・パーキンソン(サニックス)、難波英樹(トヨタ)、ジョージ・コニア(NEC)、大畑大介(神鋼)、北條純一(サントリー)、FB:松田努(東芝府中)、吉田尚史(サントリー)

 アジア3国対抗で韓国香港を破り、ジョン・カーワンHC、箕内拓郎主将の日本代表は、6回連続でRWCの出場権を手にした。箕内の2大会連続主将もなかなか破られない記録になるだろう。20ヵ国参加の本大会は、前回と同じく5チーム4グループで予選ラウンドを行った。

 カーワンHCは、緒戦の豪州戦に若手中心のメンバーを当てたが、3−91とまったく歯が立たなかった。前大会同様、中3日という強行日程へ無言の抗議を示し、主力を温存して勝ちにいく目算だったが、日本代表は1引き分け3敗の成績に終わり、ベスト8進出はならなかった。フィジー戦には31−35で敗れたが、本当にあと一歩だっただけに悔しい敗戦だった。ウエールズ戦は18−72のミスマッチ。そして最後の1勝に賭けたカナダ戦は、ロスタイムに平浩二のトライ、大西将太郎の同点ゴールで劇的な引き分けに持ち込んだ。評価は分かれるところだが、私は次につながる戦いをしてくれたと思っている。

 この大会にはポルトガルが初出場したが4敗して去った。大会のハイライトはアルゼンチンの活躍であった。予選ラウンドでフランスに17−12、アイルランドに30−15、グルジアに33−3、ナミビアに63−3と全勝して決勝トーナメントに進出した。勢いの止まらないアルゼンチンは、準々決勝でスコットランドを19−13で破り、準決勝で南アに13−37で敗れたものの、3位決定戦で再び対戦した地元フランスを34−10で破ってブロンズメダルを手にした。アルゼンチン・プーマス[アルゼンチン代表チームのニックネーム・豹]躍進の原動力となったのは、SHアウグスティン・ピチョット主将。目の肥えたフランスのファンを魅了するスピードと切れ味で話題を独占、大会のヒーローとなった。

 もう一つの準決勝はイングランドが14−9でフランスを下し決勝に進出、地元フランスの夢を断った。決勝は南アがイングランドとのノートライゲームを15−6で制し、2度目のチャンピオンに輝いた。マンデラ大統領のあとを継いだ黒人のムベキ大統領が、HOジョン・スミット主将とエリスカップを再び高々と掲げた姿が印象的だった。ジェイク・ホワイト監督は手堅い試合運びでスプリングボクスを2度目の優勝に導いた。決勝のレフリーはアラン・ローランド(アイルランド)が務めている。

日本代表試合の観戦記】
 テストマッチNo227テストマッチNo228テストマッチNo229テストマッチNo230
第6回ラグビーワールドカップ2007フランス
平成19年(2007)9/7~10/20 フランス・一部ウエールズスコットランド
試合会場
フランス(*サンドニ、*パリ、マルセイユ、モンペリエ、サンテティエンヌ、ナント、トゥールーズ、ボルドー、ランス、リヨン) *サンドニはスタッド・ドゥ・フランセ、パリはパルク・ド・プランス
スコットランド(エジンバラ)
ウエールズ(カーディフ)
優勝 南アフリカ(3大会ぶり2回目)
決勝10/20○南アフリカ15−6イングランドサンドニアラン・ローランド(I)
3位決定戦10/19アルゼンチン34−10フランスパリポール・ホニス(NZ)
準決勝10/14○南アフリカ37−13アルゼンチンサンドニスティーブ・ウォルシュ(NZ)
10/13イングランド14−9フランスサンドニジョナサン・カプラン(SA)
準々決勝10/7○南アフリカ37−20フィジーマルセイユアラン・ルイス(I)
10/7アルゼンチン19−13スコットランドサンドニジョエル・ジャッジ(F)
10/6イングランド12−10●豪州マルセイユアラン・ローランド(I)
10/6フランス20−18●NZカーディフウェイン・バーンズ(E)

決勝トーナメント試合結果とメンバー表
RWC2007 決勝Tメンバー表
順位予選A組南アフリカイングランドトンガサモアアメリカ勝点得点失点
1南アフリカ○36-0○30-25○59-7○64-151940018947
2イングランド● 0-36○36-20○44-22○28-101430110888
3トンガ●25-30●20-36○19-15○25-1592028991
4サモア● 7-59●22-44●15-19○25-21510369143
5アメリカ●15-64●10-28●15-25●21-25100456142

順位予選B組豪州フィジーウエールズ日本カナダ勝点得点失点
1豪州○55-12○32-20○91-3○37-62040021541
2フィジー●12-55○38-34○35-31○29-1615301114136
3ウエールズ●20-32●34-38○72-18○42-1712202168105
4日本● 3-91●31-35●18-72△12-12301364210
5カナダ● 6-37●16-29●17-42△12-12201351120

順位予選C組NZスコットランドイタリアルーマニアポルトガル勝点得点失点
1NZ○40-0○76-14○85-8○108-132040030935
2スコットランド● 0-40○18-16○42-0○56-101430111666
3イタリア●14-76●16-18○24-18○31-5920285117
4ルーマニア● 8-85● 0-42●18-24○14-10510340161
5ポルトガル●13-108●10-56● 5-31●10-14100438209

順位予選D組アルゼンチンフランスアイルランドグルジアナミビア勝点得点失点
1アルゼンチン○17-12○30-15○33-3○63-31840014333
2フランス●12-17○25-3○64-7○87-101530118837
3アイルランド●15-30● 3-25○14-10○32-1792026482
4グルジア● 3-33● 7-64●10-14○30-0510350114
5ナミビア● 3-63●10-87●17-32● 0-30000433212

日本代表メンバー
GM:太田治(代表事業委員長)、HC:ジョン・カーワン(代表事業委員)、AC:グラント・ドゥーリー(代表事業委員)、FWスポットコーチ:クリス・ギブス(代表事業委員)、フィットネス・コンディショニングコーチ:太田正則(日本協会)、フィットネスコンサルタント:マーティン・ヒューメ(豪州協会)、通訳・コーチングコーディネーター:香川淳一(日本協会)、テクニカルマネジャー:永田隆憲(日本協会)、テクニカル:秋廣秀一(山梨学大)、吉田仁志(三洋電機)、AM:稲辺功太郎(日本協会)、ドクター:田島卓也(宮崎大学)、トレーナー:渡邉誠(日本協会)、桜井順(日本協会)、バッゲッジマスター:鴛渕文哉(カンタベリーオブニュージーランドジャパン)、広報:永井康隆(日本協会)、香川あかね(日本協会)、通訳:中澤ジュリア(FIELD OF DREAMS)
FW:山村亮(ヤマハ)、山本正人(トヨタ)、相馬朋和(三洋電機)、西浦達吉(コカコーラW)、松原裕司(神鋼)、猪口拓(東芝)、大野均(東芝)、熊谷皇紀(NEC)、ルアタンギ侍バツベイ(近鉄)、ルーク・トンブソン(近鉄)、☆箕内拓郎(NEC)、渡邉泰憲(東芝)、木曽一(ヤマハ)、ハレ・マキリ(サニックス)、フィリップ・オライリー(三洋電機)、佐々木隆道(サントリー)→浅野良太(NEC)
HB:吉田朋生(東芝)、矢富勇毅(ヤマハ)→金喆元(近鉄)、小野晃征(サニックス)、TB:大西将太郎(ヤマハ)、ナタニエラ・オト(東芝)、今村雄太(神鋼)、平浩二(サントリー)、ブライス・ロビンス(リコー)、小野澤宏時(サントリー)、遠藤幸佑(トヨタ)、クリスチャン・ロアマヌ(埼玉工大)、北川智規(三洋電機)、FB:有賀剛(サントリー)、久住辰也(トヨタ)
→は負傷による交代

第7回ラグビーワールドカップ(ニュージーランド)

 ラグビー王国がオールブラックスのワールドカップ優勝で沸いた。そのニュージーランド(NZ)の生んだ元スター選手、ジョン・カーワンが率いるジャパンは日本のファンをがっかりさせた。

 2011年9月、10月にNZで開催されたW杯。ジャパンはオールブラックスと同じプールAに入ってフランス、NZ、トンガカナダの順に戦ったが、カナダと引き分けただけで、またも勝利は手にできなかった。フランス戦の後半途中まではスタジアムを沸かすパフォーマンスを見せたけれど、主力を休ませて臨んだNZ戦で7-83と大敗してからはチームが完全に勢いを失った。

 2勝を宣言して臨んだ大会で早々に2敗し、残り2戦。選手たちは『結果』にばかり意識をとられ縮こまった。トンガの気迫に圧倒され、カナダ戦では終盤にミスを連発して勝てず。4年に一度しかないチャンスに、ジャパンスタイルを世界に発信できずファンは落胆した。サイズ重視の選考と、多数の外国人選手起用でリスクを減らしたことが、日本らしさを失わせた。

 この大会の決勝トーナメントには、前回に続きアルゼンチンが進出し、予選でアルゼンチンに敗れたスコットランドが予選敗退となった。準決勝は第1回大会以来のウエールズと、5大会連続のフランスの対決。ウエールズは3-0とリードしていた前半18分、FLウォーバートン主将がフランスWTBクレールを抱え上げると、そのまま頭から落とすスピアタックルで一発レッド退場。これで試合は決まったかに見えたが、ウエールズは崩れなかった。一人少ないことを感じさせない防御で、フランスにスペースを与えない。後半19分フランスゴール前ラインアウトから、SHフィリップスが左隅にトライし、8-9と追い上げる。残り20分フランスは「専守防衛」に徹し、ウエールズSOジョーンズのドロップゴールにも対策し、なんとか勝ち切った。

 決勝は第1回大会以来の顔合わせ、NZ vs フランスとなった。フランスは予選でNZに20点差をつけられており、どこまで食らいつけるかと思われたが、予選からしぶとく勝ち上がってきたメンタルは充実し、圧倒的有利と思われたNZを最小点差の7-8に追い込んだ。NZはリッチー・マコウ主将の気迫とキャプテンシーで何とか守り切り、第1回大会以来の優勝を飾った。

ラグビーワールドカップ2011 ニュージーランド大会 日本代表メンバー 対戦記録 ランキング一覧
決勝トーナメント試合結果とメンバー表
RWC2011 決勝Tメンバー表

第8回ラグビーワールドカップ(イングランド)

 ジャパン、スプリングボクスに勝つ……。2015年9月19日にイングランドは海沿いの街、ブライトンでおこなわれたワールドカップ、プールB。同大会での初戦で南アフリカ代表と対戦した日本代表は、世界を驚かせる大勝利を挙げた。日本でも大騒ぎになったけれど、海外ではさらに大きな衝撃として受け入れられた。それは、勝利の価値を理解する人たちが多くいるからだ。ラグビーの枠を超えて、スポーツ史で最大のアップセットと評価する人たちも大勢いた。「歴史を変えよう」と臨んだ大会で、ジャパンは日本ラグビー史と同時に世界のラグビーの歴史も、日本を見つめる目も変えた。

 2012年から4年にわたって日本代表を率いたエディー・ジョーンズ ヘッドコーチと、大舞台で大仕事をやってのけた選手たちは、この国のラグビープレイヤーたちのマインドをこれまでと違ったものにした。

 ハードワーク。

 最良の準備が最良の結果を呼ぶ。

 それらの信念を唱え続け、徹底させたエディーの姿勢と、その要求に応え続けた選手たちの残した結果は、日本の隅々まで行き渡った。楕円球界に生きる人たちだけでなく多くの人たちが学んだのは、人間の持つ可能性と勇気、過程の大切さだ。

 部の歴史を変えたある高校ラグビー部の主将が、「ジャパンの戦いを見て自分たちもやれると思った」と言った。一人や二人ではないだろう。「日々のハードワークの結果」と、いろんなカテゴリーの指導者が自分たちの勝因をそう話し、企業の管理職たちがエディーの哲学を実践したり部下に話した。

 五郎丸ブーム、日本国内でのラグビー認知度の向上と、長く続いていた日本ラグビー低迷期を、まさに一晩でひっくり返した勝利。この先も続く歴史の中で、それは長く語り続けられるであろう。しかし本当に後世に伝えられるべきは、ワールドカップ後に日本を去ったエディー自身の仕事を振り返って残した言葉だ。

 「私はなにも特別なことはしていません。ジャパンが南アフリカに勝つために必要なことをやっただけです。」1968年にオールブラックス・ジュニアを23-19で破り、その3年後にイングランドに3-6と迫った大西鐡之祐監督も、スコットランドに28-24で勝った宿澤広朗監督も同じだった。

 この大会、日本が南アを倒す大番狂わせに始まり、開催国のイングランドウエールズオーストラリアに敗れ、予選敗退という大波乱もあった。日本と戦ったスコットランドは準々決勝でオーストラリアを34-35と追い詰め、日本に敗れ、生まれ変わった南アは準決勝でNZを18-20とあと一歩まで追い詰める健闘を見せた。只、前回王者NZは、予選のアルゼンチン戦と、決勝トーナメント準決勝の南ア戦でリードを許したものの、その他の試合は圧倒する内容であり、NZの完全勝利と言える大会であった。最強のNZオールブラックスは、前人未到の連覇と3度目の優勝を飾った。

ラグビーワールドカップ2015 イングランド大会 対戦記録 個人記録 チーム記録一覧
決勝トーナメント試合結果とメンバー表
RWC2015 決勝Tメンバー表
ラグビーワールドカップ2015 イングランド大会 全選手リスト 日本代表
1) 世界的なラグビー記者として知られるウエールズ『ウエスタン・メール』記者。『ラグビーマガジン』に1976年1月号から1995年1月号まで「ウエールズ便り」と題して世界のラグビー情報を220回にわたって長期連載している。
2) RFU(イングランド協会)のTechnical Administrator[私は強化担当専従役員と訳した]が、Junior担当のロン・テニックら数人のスタッフと、クラブ選手権へ移行するスケジュール改革や、低年層へタッチラグビー、タグラグビーを導入するなど、RFUの強化に寄与するあらゆる事業を促進していた。
3) Apartheid=アフリカーンス語で分離、隔離。南アフリカ共和国の有色人種差別政策のこと。1993年に全面廃止(広辞苑)。
4) NZ政府とロンギ首相からの勧告を拒否してきたNZ協会は、南アの人種隔離政策に反対する諸団体から激しい非難が浴びせられていたが、この遠征の差し止め裁判を受理したオークランド高裁から7月13日に「審理が終了するまで出発してはならない」と仮処分命令が出された。ここにいたってNZ協会も出発寸前の7月17日についに正式に遠征断念を声明した。

第9回ラグビーワールドカップ2019(開催地:日本

 ジャパン、目標であり、念願のベスト8・決勝トーナメント進出!

 何もかもが夢のような素晴らしい大会であった。まずは日本代表の極限までの強化が結果に結びついたこと。ジェイミー・ジョセフHCを中心に、二百数十日に及ぶ合宿が実施されOne Teamに練り上げられた。その厳しさは、あの4年前のエディー・ジャパンの練習をも凌ぐものであった。その中で、トニー・ブラウンコーチのアタック戦略が研ぎ澄まされ、スコット・ハンセンコーチのDF戦略がダブル・タックルという形で対戦相手に炸裂した。開幕のロシア戦こそ、緊張のあまりバタバタ状態が続き、松島の個人技で、なんとかボーナスポイント獲得まで至ったのだが、松島へ繋いだ、ラファエレや中村亮土のオフ・ロードパスも徹底した練習で身につけたものであった。

 そして迎えたアイルランド戦。初戦でスコットランドを叩きのめした、アイルランドの完璧な試合内容を見て、「これは強い。叩くとしたらスコットランドしかない。」と元日本代表の選手たちも、そのように言っていた。しかし極限までの練習を重ねてOne Team となっていた日本代表は勝つ気満々だったのだ。序盤こそ、アイルランドのキック攻撃にアンラッキーも重なり、2トライを許したが、その後は好DFで対抗し、田村のPGで接戦に持ち込んでいく。今後も語り継がれるであろう前半35分のアイルランドボールのスクラム、堀江は、「序盤にペナルティを取られたスクラムの時に、レフリーのジャッジは日本のペナルティだったが、スクラムは絶対に押せると確信が持てた。具選手には行っていいぞと指示を出した」と言った。日本代表のスクラムは一塊でアイルランドのスクラムを粉砕しペナルティをゲットした。普段物静かな具選手が大声を発してガッツボーズをとり、アイルランドのFWは、何も言わず負けを認めたように見えた。このスクラムで相手に与えたダメージは本当に大きかった。後半、勝負所でWTB福岡を投入し、CTB中村の縦突進でアイルランドゴール前に迫りFWのサイド突破を幾度か繰り返した後、SH田中は中村へパス。中村は接近した状態からラファエレへ見事な飛ばしパスを送る。ラファエレは想定通り外側でフリーの福岡へ繋ぎ、福岡は余裕でバックアップを振り切りインゴールへ飛び込んだ。この時に、中村の飛ばした選手が松島だったことも、飛ばしパスの効果を大きくした。

 7点差のまま終盤となり、アイルランドの猛攻を福岡のインターセプトで凌ぎ、アイルランドのゴール前まで運んだのだが、そこからでも同点のトライ・ゴールを取られるのではと緊迫した状態が続いた。しかしアイルランドがターン・オーバーした後の最後のプレーで選んだのは何とタッチ・キック。「なんで蹴ったんや!」テレビ解説者が叫んだ(日本のファンは誰もがそう思ったはずだ)。前回(4年前)のワールドカップの時に、日本は勝つことだけを目指し、ボーナスポイントなど考える余地はなかった。しかしRWCで百戦錬磨のアイルランドが取った戦略は、確率の低い同点トライ・ゴールではなく、7点差を維持するタッチ・キックだったのだ。これがRWCで決勝トーナメントに進む確率をあげる方法であることを、勝利とともに日本は学んだのだ。

 続くサモア戦。アイルランドスコットランドサモアに圧勝し、楽々ボーナスポイントを獲得するのだが、基礎体力で劣る日本にとっては毎回難敵となる。只、今回の日本は戦略的にも長け、サモアとのハード・コンタクトをできるだけ避けるためキック戦法をとった。それでも内容的には大接戦となり、最後はサモアゴール前のスクラムから姫野が強引に持ち込み、マイボールを確保し、田中から左サイドでパスを受けた松島が4つ目のトライを奪い、喉から手が出るほど欲しかったボーナスポイントをゲットした。

 そして迎えたスコットランドとの予選最終戦。台風が日本を縦断し、開催する危ぶまれる中、関係者の迅速かつ的確な対応で当日朝10:00に開催が決まった。19:45のキックオフに日本ラグビー史上最高の67,666人の観衆が駆け付けた。序盤はスコットランドのDFが日本のアタックをことごとく止め、日本ゴール前に迫ると、SOの右サイドへの移動攻撃であっさりと先制を許してしまった。やはり伝統チームのスコットランドは弱いはずなどない。それでもこの日の日本は、トニー・ブラウンが手塩にかけて築いたBK戦略が見事に炸裂した。まずは、FWが獲得したラックから左サイドを攻め、CTBラファエレが見事な接近プレーから、左サイドへ移動した松島を飛ばし、福岡へパス。福岡は見事なスピードで抜け出し、バックアップのタックルにバランスを崩しながら、見事なサポートを見せた松島へ丁寧にパスをしてトライ・ゴールを返した。続いてはBKに負けじとFWが見事なオフ・ロードパスを見せる。田村から、ターンをしながらパスを受けたHO堀江が持ち前のボディー・バランスを見せ、相手のタックルに乗り、LOムーアへオフ・ロードパス。ムーアも同様に丁寧なオフ・ロードパスをフォローしたトゥポウへ。トゥポウはスコットランドの誇る名FBのスチュアート・ホッグを内へ抜き、バックアップにタックルをされるも、見事にサポートに入った稲垣へ丁寧につなぎ、稲垣はタックルを受けながら、ゴールポスト下へ飛び込んだ。見事にオフ・ロードパスをつないだ4人のうち3人が前5人のプレーヤーであり、今回の日本代表を象徴する見事なプレーであった。さらに攻め続けた日本は、CTBラファエレが、今度は相手バックラインが上がるのを確認して、裏へグラバー・キック。見事なスピードで裏へ抜け出した福岡が、浮いた2バウンド目を冷静に確保し、FBスチュアート・ホッグを外にかわしてインゴールへ飛び込んだ。福岡はさらに後半開始早々、ラファエレがタックルした相手選手からボールを奪い取りそのまま快走してポスト下へ飛び込んだ(28-7)。

 ボーナスポイントを考えると、これから3トライ以上を取られて、7点差をつけられても日本の決勝トーナメント進出が決まるわけで、優位な状況を確保したことになる。しかし伝統国スコットランドの反撃はここから始まる。トライを取り返さなければ勝てないと、やり方が決まったかのようにFWが愚直に縦突進を繰り返し、49分、54分連続でトライ・ゴールを返し、瞬く間に28-21となった。この後の、再キックオフからの24分間、本当に長かった。スコットランドの運動量も少し落ちたように見えたが、日本代表のDFへの意識は全く衰えなかった。残り2分となった時、スコットランドボールをターン・オーバーし、SH田中とFW陣で幾度も繰り返してラックを作り時間を稼いだ。残りの10秒は、観衆も参加して絶叫のカウント・ダウン。最後は山中がタッチへ蹴りだしノーサイド。倒れたまま動けないスコットランド選手も数名おり、まさに死闘であったことを物語る光景だった。

 日本は決勝トーナメントへ進み、南アフリカと戦ったのだが、予選の4戦をほぼベストメンバーで戦い続けた日本と、初戦のNZ戦のみ全力で戦い、その他の3試合は31名全員を使って疲れの残らない戦い方をした南アフリカとの間に大きなハンデがあった。さらには今大会で目立ったFWのパワー戦術と、徹底した分析による相手チームへの対応という意味で特に優秀な南アフリカには付け入るスキがなかった。予選であれだけ躍動し魅力的なアタックを続けた日本代表に対し、全てを分析した南アフリカは、SHデ・クラークが日本のバックラインの間に入ってきて、ループパスなどのプレーを妨害してくる。「全てのサインプレーがよまれているかのように感じた。」と松島が言ったように、これまでのダイナミックなアタックはことごとく封じられた。そしてオフサイドぎりぎりで飛び出してくるDF、レフリーのブラインドではオフサイド気味で、さらにはレイトタックルもしてきて日本のキーマンたちは傷つけられた。それでも前半ボール保持率80%超を確保し3-5で粘れたのは、日本の地力がついたことなのか。あるいは南アは日本に攻めさせ、その間に弱点を徹底分析していたのかもしれない。最強と言われながら、途中出場してくる1番キッツオフ、2番マークスが出場してくるとスクラムで圧倒され、ラインアウトも勝負所で全く取れなくなった。

 前回大会でボーナスポイントの重要性を学び、今大会においては決勝トーナメントを勝ち進むための予選の戦い方と、そのために31名がほぼ同レベルにある必要性を勉強させられた。リーチや堀江に代わるリーダーが今後育ってくれるのかも不安だが、次回大会にはさらに高い目標を掲げて挑んでもらいたいものだ。

 以上、強化された日本代表の活躍ぶりを描いてきたが、さらに驚いたことは、「シャイな日本人観客がワンチームとなって激烈な応援で日本代表をサポートしたこと。」これは本当に驚きであり、嬉しかった。日本代表選手たちもモチベーション・アップには十分なサポートだったはずだ。

 主将リーチ マイケルのチームを引っ張るプレーに、観客のほとんどが声を合わせて、「リーチ!」と叫び、スクラムを組む前には全員で手拍子を合わせ、チャンス・ピンチの際には、「ニッポン!チャ・チャ・チャ!」を繰り返す。選手たちの頑張りに引っ張られるように、シャイなはずの日本人たちが見事な一体感で目一杯応援した。海外メディアも高く評価していた。

 最後は日本を訪れたすべてのチームに対して、日本人が見せた「おもてなし!」の心である。北九州がウエールズを迎える際に、少女たちが歌ったウエールズ国歌。フィジーウルグアイの試合を全員で盛り上げた釜石スタジアムの関係者と観客など。またオールブラックスの日本式お辞儀に始まり、各チームが日本文化へのリスペクトを見せてくれた。すべてが新鮮で心温まるものであった。選手入場の際の拍子木と和太鼓の音も素晴らしかったし、キックオフの歌舞伎の掛け声も日本的でとてもよかった。すべての関係者たちに世界から賛辞が送られたのも当然だったのかもしれない。

ラグビーワールドカップ2019 日本大会 対戦記録 個人記録 チーム記録一覧
決勝トーナメント試合結果とメンバー表
RWC2019 決勝Tメンバー表
RWC2019 日本代表メンバー

第10回ラグビーワールドカップ2023(開催地:フランス

 前々回大会の南ア戦勝利、そして前回大会のアイルランドスコットランドの2強撃破。今大会はこれに続いて、イングランド、あるいはアルゼンチンを倒すことができるのか。前回大会の翌年2020年新型コロナウイルスが猛威を振るい日本代表としてのテストマッチは勿論、強化合宿すらできず、テストマッチを続ける南半球、欧州の強豪国には差をつけられてしまう状況が続いた。2021年からテストマッチを再開したが、アイルランドイングランドに完敗。2023年RWC本大会前の調整試合でもサモアフィジーに敗れた。日本代表のサポーターたちからでさえ、「これでは全く期待できない。」、「日本代表の活躍ではなく、RWC2023フランス大会そのものを楽しむことにした。」など、厳しいコメントが聞かれた。

 9月8日にRWC2023フランス大会がフランス vs NZ戦で開幕した。10日、日本代表も要注意と警戒してきたチリ代表との初戦を迎えた。序盤こそチリ代表BKの躍動感ある走りに苦戦を強いられたが、初出場のファカタヴァが2トライし、ナイカブラ、ワーナーもトライを決めた。またベテランのリーチ、中村亮土も貫禄を見せてトライし、合計6トライで、ボーナスポイントも獲得した。次戦はいよいよ決勝トーナメント進出をかけるイングランド代表戦。主将のオーウェン・ファレルは大会前の試合でレッド・カードを貰い出場できないが、初戦の強豪アルゼンチン代表戦を14人となりながら、3DG、6PGで退けた(27-10)立役者のフォードが健在。案の定、日本代表戦もフォードが確実にゴールを決めてくる。日本も本大会前、絶不調だった松田がルーティーンを変えて蘇り、チリ代表戦の6/6に続いて、この日も4/4とキックを外すことなく、中盤までの接戦の流れを作った。そして何と言っても、日本代表の強化されたスクラム。昨年の対戦ではスクラムで完敗したのだが、この日は開始間もない日本ゴール前でのイングランドボールのスクラムをガッチリと受け止め微動だにしなかった。間違いなくスクラムは日本歴代最強と言える強さだ。しかし後半14分松田のPGで12-13と1点差に追い上げた直後、ハプニングが起きる。日本陣22mラインまで攻め込んだイングランドの1stレシーバーが日本のプレッシャーを受け、ボールを斜め後ろにそらしたが、そのボールがイングランド1番マーラーの頭にあたって前へこぼれた。この流れの中、両チームの誰もがノックオンと判断して足を止めた。しかしイングランド主将のローズのみプレーを続けボールを拾ってインゴールへ運んだ(その際に「今のは頭だろう。」とゼスチャーをしながら)。TMO判定の結果、ノックオンはなくイングランドのトライが認められ、フォードもゴールを決め12-20と8点差になった。これにより張りつめていた集中力が影響を受けたことは間違いない。イングランドの高さと強さを活かしたプレーで2トライ2ゴールを追加され、日本は敗れた(12-34)。もう負けられなくなった日本は集中力を高めて次戦のサモア代表戦に臨み、終盤追い上げられたものの、効果的なアタックとレメキの活躍もあり28-22で勝利した。そして、いよいよ決勝トーナメント進出をかけたアルゼンチン代表戦。チーム力が上がってきた日本は効果的なアタックと、松田の確実なゴールキック(この日も4/4)でよく食らいついたが、如何せんアルゼンチンの個々の能力(ランニングとハイボール処理)により常に突き放される展開だった。アルゼンチン11番マテオ・カレーラスのスピードと強さは圧巻。日本の誇るスピードランナーも届かず、ハードタックラーも弾き飛ばされてしまった。また14番ボフェリのハイボール処理も見事で、松島の完璧なジャンプ・処理の上から被さるようにボールを確実にキャッチしてきた。日本は後半の中盤から終盤にかけレメキのDGとナイカブラのトライ(松田のG)で2度2点差まで追い上げたが、いずれも直後にトライを返され突き放される形となった。スクラムは史上最強でゴールキック成功率も過去最高であることから、もしバックスの連携が前回大会のように磨かれて、アタックの切れ味と連携、そして1対1のDFの精度があればどうだったかと、つい考えたくなってしまう。

 しかし日本敗退後の決勝トーナメント準々決勝が凄かった、ウェールズ vs アルゼンチンは最後インターセプトで12点差となったが、その他のNZ vs アイルランドイングランド vs フィジー、南アフリカ vs フランスはいずれも6点差以内でフルタイムまでどちらが勝ってもおかしくない試合であった。特にNZに負けたアイルランド、及び南アフリカに1点差で負けたフランスはいずれも優勝候補だっただけでなく、試合の内容についても王者の風格を漂わせていて本当に残念であった。いずれも決勝戦で見たいと感じる素晴らしいものだった。準決勝NZ vs アルゼンチンは、ベストメンバーでの連戦が続き、疲弊していたアルゼンチンに対して、NZが持ち前のアグレッシプアタックを継続してアルゼンチンを圧倒し44-6で圧勝した。ところが、もう一つの試合で劣勢を予想されたイングランドは徹底したキック攻撃とタックルでランキング1位となった南アフリカを苦しめた(後半13分にはファレルのDGで15-6とリード)。まさに強者がアップセットをくらう時のパターンに陥ったように見えたが、それを救ったのは後半9分、1番に入ったヌチェである。その後イングランドのスクラムを圧倒し、ことごとくPKを得ることに成功した。それを起点に69分イングランドゴール前にタッチ・キックを蹴り、ラインアウトから、当然のごとくモール対策に集中するイングランドFWに対し、南アはキャッチ後すぐにサイドアタックを仕掛けてゴール前に迫り、最後は交代出場の巨漢ロック・スナイマンがインゴールへねじ込んだ(13-15)。そしてまたスクラムを押し込んで得たPG(48m)をやはり交代出場のポラードがど真ん中を通し、残り2分で逆転し16-15でイングランドを破った。これで決勝はNZ vs 南アフリカ、3位決定戦はアルゼンチン vs イングランド。両試合共価値のあるものとなった。

 3位決定戦はイングランドペースでスタートする。キックで地域を稼ぎ、PKを得れば確実にPGで加点していく。アルゼンチンのアタックに対しては自慢のラッシュDFでゲインを切らせない。只、今回は敵陣に入り、チャンスと見るやトライを取りに行く姿勢も見せ、ラックの連取からファレル、スミス、そして快足No8のベン・アールに繋ぎインゴールへ飛び込んだ。イングランドが16-3とリードした前半の終盤、アルゼンチンが連続攻撃を仕掛けイングランドのゴール前でSHクベリが潜り込んでトライし、ゴールも決まって16-10で前半終了。後半開始後もアルゼンチンの攻勢が続き、SOカレーラスが抜け出してゴールポスト直下へ飛込み、ゴールも決まってアルゼンチンが16-17と逆転した。これでアルゼンチンが試合の流れをつかんだように思われた直後、先ほどトライしたカレーラスのキックをイングランドの若きHOダンが見事にチャージし、こぼれ球を拾いトライを返した。ファレルのゴールも決まって23-17と再度逆転した。アルゼンチンはボフェリのPGで23-20と追い上げたが、ファレルのPGで26-20と再びイングランドがリードを広げた。交代で入ったサンチェスがこの後、PGを返しアルゼンチンも26-23と追い上げる。アルゼンチンはその後に得たPKをラインアウト・モールで攻めるかと思われたが、サンチェスのPGを選択。しかし、ここで名手がPGを外してしまう。この後は、アルゼンチンも豪快なアタックでチャンスを作るが、イングランドが固いDFで凌ぎ切り26-23でイングランドが銅メダル(第3位)を獲得した。両チーム共に個性をぶつけ合うナイスゲームだった。

 そして迎えた南アフリカとNZによる決勝戦。共に予選プールでは1敗を喫したが、決勝トーナメントではそれぞれ優勝候補のアイルランドフランスを破り、まさに世界最強決定戦に相応しい組み合わせとなった。

 開始早々ブレイクダウンのやり合いの際にNZ フリゼルが南ア ムボナンビの膝に乗ってしまい、フリゼルがイエローカードで一時的退場。何と南アの強力スクラムを支えてきたムボナンビが負傷交代で専門職ではないフーリーと替わった。この4分のPK(左ポールをかすってギリギリのゴール)を皮切りに南アの絶対的キッカー ポラードが13分にも確実にPGを決めていく(6-0)。17分NZもPGを返すが19分再びポラードがPGを決める(9-3)。そして27分、衝撃的な出来事が起きる。南アCTBクリエルが自陣で苦しい状況の中、ステップで踏み向きを変えたところでNZ主将ケインが受け止めたが、その際にケインの肩がクリエルのあごをヒットしてしまう。イエローカードが出て一時的退場となり、バンカーシステムで審査の結果、残念ながらレッドカードとなってしまう。今大会このような形でビッグゲームが台無しになってしまうことを恐れていたが、準決勝までは特に問題は起きず大会は無事終わるものと思われていた。しかしRWC2023フランス大会の決勝の大舞台でこうなるとは、競技場を埋めた大観衆もTV視聴したファン達も、これで勝敗は決したと思ったに違いない。ところが世界最強国のプライドを持つNZ代表は、主将を失うという衝撃的出来事にも屈することなく、全員で南アに立ち向かったのだ。38分モウンガがPGを決め6-12と追い上げて前半を終了した。後半開始5分、今度は南アの主将コリシがサヴェアへのハイタックルで一時的退場となり(バンカーシステムの結果イエローカードのまま)14対14の戦いとなる。後半7分、リザーブ8人のうち7人をFWメンバーとした南アがモスタートに替えてスナイマン、そしてキッツオフに替えてヌチェを投入した。これまでスクラム最強のヌチェ投入後、スクラムでことごとくPKを奪い接戦をものにしてきた南アが勝負に出たのだ。NZもフランカーフリゼルに替えてロックのホワイトロックを投入して、重量化を図るとともにスクラムの際にはCTBのジョーディー・バレットがフランカーのポジションでスクラムを押し、南アの強力スクラムをガッチリと受け止めた。そして18分南アゴール前に迫ったNZは左へ展開、CTBスコット・バレットが大きく左へ飛ばしパスを放ち、それをキャッチしたテレアがステップを踏んでDFをかわして前進し外にパス。パスはこぼれたがボーデン・バレットが確実にキャッチしてインゴールへ飛び込んだ(11-12)。しかし、南アの猛烈なゴールキックチャージのプレッシャー中、モウンガのゴールキックは右にそれて、逆転はならなかった。この後両チームともに選手交代を行い南アは守りを固め、NZは攻勢を強める。NZエースWTBウィル・ジョーダンの突進をコルビが下にタックルして止め、同時にクワッガ・スミスが上で直接ボールを奪ったシーンには驚嘆した。後半33分NZが豪快なアタックで敵陣に入り右に展開した時に、タックルに行った南ア コルビの手が故意のノックオンと判定されイエローカードが出された(残り7分なのでもう試合に戻ることはできない)。しかしこのPGをNZジョーディー・バレットが左へ外してしまう。退場となったコルビは責任を感じてか両手で顔を覆い(途中からはジャージを被って)試合を見ることができない。75分NZはモウンガに替えてマッケンジーを投入し最後の勝負に出る。NZが左に右に豪快なアタックを見せるが、南アの強固なDFによりあと一歩抜けきれない。そして最後南アボールのスクラムから持ち出したボールがデッドとなり、フルタイムとなった。狂喜乱舞する南ア フィフティーンの中でコリシ主将が退場となったコルビを迎え抱きしめていた姿が印象的だった。この強烈で個性的な最強チームを一つにまとめ上げた主将の姿だ。そして14人となりながらも、この緊急事態にも決して屈することなく、全員で勝利を目指し走り続けたNZ代表にも同様の賛辞を贈りたいと思った。理論的にはゴールキッカーの精度の差が勝敗を分けたと言えるのだろうが、そのような全ての理屈を超越した見事な世界一決定戦だった。

プールステージ結果
RWC2023 決勝T結果
決勝トーナメント試合結果とメンバー表
RWC2023 決勝Tメンバー表
ラグビーワールドカップ2019 日本大会 個人記録 チーム記録
RWC2023 日本代表メンバー
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