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三県分置と開拓使事業処分の案

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 十四年十二月二十八日黒田が長官の辞表を提出したその日、太政官開拓使に対し次のように令達した。
曩ニ其使ヲ置カレ北海道ノ開拓ノ事務ヲ委任シ十ケ年間別途ニ定額金ヲ支出シ来リ候処、来ル十五年ニ至リ満期候ニ付同年限リ廃使置県ノ処分ニ可及候条、別紙条項ニ随ヒ関渉ノ各省ニ協議シ将来置県ノ方法詳細取調上申可致此旨相達候事
  (別紙)
    一県地ノ区域ヲ画シ県庁ノ位置ヲ定ムル事
    一県庁ノ経費並官民費ノ区分ヲ定ムル事
    一所属諸鉱山及ヒ鉄道処分之事
    一所属諸牧場其他開墾地等処分之事
    一所属船舶処分之事
    一所属諸器械所処分之事
    一屯田兵処分之事
    一学校処分之事
(公文録 太政官)

同時に関係する内務・大蔵・陸軍・文部・農商務・工部の六省に対し、開拓使にその処分を指令した旨通達している。これを受けた開拓使は即刻調査に入り、一月中に廃使置県に向けての処分の方法等を録呈した。処分に当たり西郷開拓長官は次のように述べている。
往古蝦夷曠漠蒼莽ノ地国ヲ建テ郡ヲ画シテヨリ僅ニ十有余年、今県治ヲ新設スルニ際シ従前諸省対等ノ事権ヲ有セル開拓使ニ於テ管治セシ事務ヲ挙ケ尽ク変シテ諸県同一ノ制ニ帰セシメントスルハ固ヨリ時宜ニ適セス、若シ強テ之ヲ行ントセハ十余年間事業経営ノ効終ニ皆水泡ニ属セントス、故ニ当使経歴ノ実蹟ヲ通観シ今後処分ノ方法ヲ計画セルヲ以テ別冊ニ録呈スル所往々諸県成例ノ外ニ出ル者アルヲ免レス、請フ深ク意ヲ此ニ留メラレ特ニ裁定アランヲ
(公文録 開拓使)

と、置県のための処分には、他県と異なるために格別の考慮を要請して、以下一四号に及ぶ詳細な処分方法を提起している。
 いまその処分方法の要点のみをあげれば、第一号の「県地ノ区域ヲ画シ県庁ノ位置ヲ定ムル事」では、従来の開拓使札幌本庁と函館・根室の両支庁の管轄区画により、札幌・函館・根室の三県とし、県庁は従前の本支庁所在地としている。第二号「県庁ノ経費并官民費ノ区分ヲ定ムル事」では、まず本道全体の総収入を、明治十二年度の実収概算高をもって相当させ、国税・地方税・出港税を合わせて一一五万五〇八八円余と算定し、この収入高に相応させながら三県の経費を始め全道の各種事業経費を案分算出して、支出総額一〇八万二六三一円余とし、収支比較七万二四五七円余の剰余となっている。ここで各県経費をみると、札幌県は県費として一一万四四三七円に別項費(地方費であるが、民費のみでの充当は不能なので、定額・出港税より補完するため別項費と称している)二三万八五六一円、函館県は県費八万五七三七円に別項費一三万三〇三七円、根室県は県費四万六一〇一円に別項費五万六七八六円とされている。
 ついで第三号「所属諸鉱山及ヒ鉄道処分ノ事」はすべて工部省へ移管することとしている。第四号「所属諸工場・船舶・牧場・農園・試験場等処分ノ事」では、札幌工業局諸工場は工部省に移管して他日公売に付すべきこととし、七重勧業試験場・札幌勧業育種園・札幌物産局製煉場・同博物場・札幌製網所・札幌製粉場は農商務省移管、渋谷農業試験場は宮内省移管、弘明丸は札幌県移管、函館製革所・石狩美々缶詰所・根室木挽器械所・函館鱈肝油製造所・味噌醬油製造所・札幌陸運改良事業・札幌紡織所に船舶四艘は人民払下げ、その他先の安田らへの払下対象物件は稟議中としている。
 第五号「屯田兵処分ノ事」は陸軍省移管、第六号「学校処分ノ事」は農商務省移管、第七号「東京出張所」は海軍省と、また芝公園内の官有地は東京府へそれぞれ移管、第八号「物産取扱所」は大蔵省移管、第九号「漁業資本金貸与」と第一〇号「昆布資本金貸与」は共に農商務省管理の下に三県で分割継続、第一一号「準備米」は各県継続、第一二号「家屋改良費貸与」は廃止、第一三号「殖民手続」は継続、第一四号「千島国土人撫恤ノ事」は根室県継続、それに別号として将来処分対象となる「山林事務」についての調書を添えている。太政官より令達されて開拓使が取調べた置県に向けての開拓使事業処分案は、以上のような内容であった。そしてこの案を基本として三県時代へ移行していくのである。