大正五年 寺院一五/説教所一〇 十年 一七/一八 十五年 二〇/二四
昭和五年 二一/ 三四 十年 二三/四三 十四年 二三/五四
となっており(札幌区〔市〕統計一班、札幌市事務報告)、大正五年から昭和十四年までの間で寺院は八カ寺が増えたのに対して、説教所の方は四四カ所と激増していた。この間に札幌市の人口は一二万五〇〇〇人から二七万人に増加しており、札幌村の一部も市域に編入されており、人口の増大と市域の拡大が寺院・説教所の需要をもたらし、各教団や宗派も教勢を広げるために新興住宅地を中心に設置していったとみられる。
寺院の方が微増にとどまっているのは当時、寺院の建立(寺号公称)には基本財産、不動産、預金などで一二〇円以上の年収があること、檀家・信徒数が一二〇戸以上であること、堂宇が御堂造りで相当の境内地を有していること、一里以内に同宗の寺院がないことの条件が付されており、困難な条件が多かったからである。そのためにいきおい、設置が簡便な説教所が多く創立されるようになるし、また設置されていった地域・場所は新たに住宅地として発展を続けていたところであり、都市発展のバロメーターを示すものとなっていた。たとえば大正十四年に本願寺派では大通西二二丁目に説教所を設置したがこれは、「西部札幌、即ち師範、桑園、円山方面が益々発展するので同地方に説教所を設け」たとされ(北タイ 大14・12・10)、大谷派では昭和五年十二月に「山鼻方面の発展著るしきに鑑み」、南一六条西一三丁目に山鼻説教場を新設していた(北タイ 昭5・12・9夕)。
表3は昭和十七年に寺院教会規則認可を受けた札幌市内二五カ寺の一覧であるが、その後も十七年に北大寺(北2西3)が三月三十一日、覚英寺(豊平1-4)が同七月一日に寺号公称を行っている。次に表4は昭和十四年二月に札幌市が調査した仏道説教所・教会所の一覧である。全部で五四カ所あり日蓮宗八、本願寺派六、大谷派五というのが多く創設していた宗派であった。
表-3 札幌市内寺院一覧 (昭17) |
寺名 | 宗派 | 創立 | 所在地 | 住職名 | 檀徒数 | 信徒数 | 附属団体 |
新栄寺 | 真言宗 | 明22.12.17 | 南7西3 | 川名照通 | |||
隆光寺 | 真言宗 | 明35. 5 .31 | 北5西20 | 山本智光 | 297戸 1,320人 | ||
新善光寺 | 浄土宗 | 明17. 4 .25 | 南6西1 | 若木賢祐 | 1,000戸 5,000人 | 報国会,光徳婦人会 | |
順正寺 | 浄土宗西山派 | 明27. 9 | 豊平町116 | 大久保泰端 | 30戸 120人 | 百万適講 | |
玉宝寺 | 曹洞宗 | 明31. 4 .11 | 南7西4 | 牧野仰鉄 | 30戸 120人 | 105戸 450人 | 禅学会,婦人会 |
龍松寺 | 曹洞宗 | 明33.12. 7 | 豊平3-6 | 池田虎雄 | 禅学会,婦人会 | ||
中央寺 | 曹洞宗 | 明 7 .12 | 南6西2 | 福井天章 | *835戸 4,200人 | 禅学会,婦人会 | |
大覚寺 | 曹洞宗 | 明40. 3 .12 | 北11東11 | 荒木哲宗 | 330戸 650人 | 20戸 50人 | 禅学会,婦人会 |
尭祐寺 | 本願寺派 | 大 2 . 5 .30 | 大通西16 | 薮 尭俊 | 仏教婦人会 | ||
宝流寺 | 本願寺派 | 大 9 . 1 . 7 | 川沿町 | 柴田薫松 | 親和講,仏教婦人会,青年会 | ||
本願寺札幌別院 | 本願寺派 | 明11. 4 | 南4西5 | 大谷光照 | 100戸 4,000人 | 200戸 600人 | 札幌仏教婦人会,札幌仏教青年会,札幌仏教女子青年会 |
真宗大谷派札幌別院 | 大谷派 | 明 3 . 7 .24 | 南7西8 | 大谷光暢 | 3,510戸14,000人 | 530戸16,000人 | |
大願寺 | 大谷派 | 昭 4 . 7 .13 | 北19東3 | 北 秀学 | 221戸 999人 | 27戸 164人 | |
三条支院 | 大谷派 | 大 9 . 1 . 7 | 南3西1 | 岡寺興良 | *530戸 2,120人 | 120戸 180人 | |
慧林寺 | 大谷派 | 明24.12.11 | 豊平3-8 | 羽部大照 | |||
大導寺 | 大谷派 | 昭 8 .10.26 | 苗穂町5 | 巌城静政 | |||
札幌興正寺別院 | 興正派 | 明34. 9 .23 | 南2東5 | 華園真淳 | 250戸 1,015人 | 50戸 200人 | |
専修寺北海道別院 | 高田派 | 明35. 2 .20 | 南4東4 | 山中見道 | 80戸 350人 | 150戸 450人 | 十六日講,北海道真宗婦人会 |
大光寺 | 仏光寺派 | 大13. 9 | 南12西17 | 深沢宣乗 | |||
日泰寺 | 法華宗 | 大5.4.18 | 南6西10 | 法谷日泉 | 250戸 1,100人 | 50戸 250人 | 浄心講 |
北海寺 | 法華宗 | 明23. 6 . 6 | 南3東4 | 片岡日秀 | 298戸 1,552人 | 53戸 136人 | 一乗講,十八日講 |
本龍寺 | 日蓮宗 | 明14. 7 .25 | 北14東16 | 土谷詮肇 | 100戸 500人 | 50戸 250人 | 本龍寺同心講,札幌妙見講 |
経王寺 | 日蓮宗 | 明13. 4 . 1 | 豊平3-3 | 沼上光学 | *850戸 3,562人 | 125戸 153人 | 正信団,正信講,和合講,清浄結社,七面講,経信会立正青年会,札幌村雲婦人会 |
顕本寺 | 日蓮宗 | 大10. 6 .11 | 白石町8-2 | 木原文静 | 140戸 700人 | 40戸 200人 | |
瑞龍寺 | 臨済宗 | 大 9 . 3 . 9 | 南2西21 | 三浦承天 |
1.*は13年度調査で補充し,創設は寺号公称年月日を基本とした。 2.『寺院教会規則認可関係(寺院)』(昭17 札幌宗教関係書類 道図),檀家・信徒数は『社寺関係書類』(昭14)より作成。 |
表-4① 仏道説教所一覧 (昭14) |
宗派及び名称 | 所在地 | 設立 | 届出 | 担当教師 | 信徒数 |
大谷派本願寺札幌別院付属豊白説教場 | 豊平1-2 | 大11. 9 .18 | 千羽秀学 | 235戸 | |
宗派及び名称 | 所在地 | 設立 | 届出 | 担当教師 | 信徒数 |
真言宗醍醐教会大峰山分教会所 | 南3西10 | 昭12. 9 . 1 | 中川妙順 | 130人 | |
1.信徒数は14年の届出数による。 2.『社寺関係書類』(昭14 札幌宗教関係書類 道図)より作成。 |
札幌市内では表3の檀・信徒数からも判明するように、真宗大谷派札幌別院、本願寺札幌別院、新善光寺、中央寺、経王寺、以上の五寺が規模の大きさを示し、また札幌の仏教界でも中心的な役割をはたしていた。真宗大谷派札幌別院(東本願寺別院)には輪番が所長を兼務する大谷派北海道寺務出張所が置かれ(同所は大正十二年十月に北海道地方寺務所、十三年八月に北海教務所、昭和十六年四月に北海道宗務出張所と改称)、北海道の宗務の中核となっていた。本願寺札幌別院(西本願寺別院)にも北海道教区教務所が設置されて同様な役割をつとめ、他に札幌興正寺別院、専修寺札幌別院(昭16・4専修寺北海道別院と改称)も置かれていた。中央寺は永平寺、経王寺は久遠寺、新善光寺は増上寺の直末として高い寺格を誇っており、中央寺内には昭和十六年九月一日より北海道曹洞宗宗務所が設置となっている。これらの宗務組織、寺格は各宗派が道都である札幌に布教の拠点を置いていたからにほかならなかった。
これらの主要寺院の住職、檀家を糾合した組織も作られており、仏教徒の組織である札幌仏教聯合会では、九年五月二十三日に大通西五丁目で聯合で釈迦降誕会(花まつり)を実施し、その後も共同で開催するなどしており、札幌各宗寺院聯合会では九年六月二十五日に尼港戦死殉難者大追悼会、十二年十月十九日に震災横死者追悼会など大規模な法要を共同で行っていた。