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第一回北海道芸術祭

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 劇団「第一歩」の最初の活動が、昭和九年九月十七日、第一〇回道展を記念する第一回北海道芸術祭における、関口次郎作「乞食と夢」の上演であった。
 当日のプログラムによると、キャストは乞食-国村宏・藤井(富士井)盛文・沖野孝市、支那そばや-山田真造、その他通行人大勢-細野エマ・丘みづほ、スタッフは演出-佐藤八郎、照明-佐々木晴治、そして舞台装置を道展会員がつくっている(今田敬一旧蔵資料)。
 史料として、九年第一回北海道芸術祭当日のプログラムをかかげておいたが、ここに新中間層に担われる文化からプロレタリア文化までの、札幌における昭和初年の大衆文化が集約されることとなる。この企画は、道展第一〇回を記念した、道展理事の佐野四満美の発案によるものだった(道展四十年史)。
   プログラム
一、挨拶……道展と芸術祭について……佐野四満美
一、舞踊……札幌児童舞踊研究会
   1、お人形……………鈴木和子、鈴木すみゑ、竹田住子、渡辺千鶴子、篠原節子、遠藤ヨシ子
   2、太平洋行進曲……中山ミキ子、田辺静子、坂本美代、石本八重子
   3、朝のしらべ………池田敦子
   4、お土産三つ………長沢祥、池田寛子、大塚於新、三浦妙子、布川美佐子、遠藤トシ子
   5、レアンダー アンド ヒーロー……田浦静子、池田敦子
一、日本舞踊……藤間寿々衛社中
   イ、大島おけさ……長谷川すみ子、相馬貞子
   ロ、下町娘…………本間澄江
   ハ、日本娘…………吉岡笑子、阿部愛子
   ニ、元禄花見踊……松原昭子、高橋都子、長谷川、相馬、本間、吉岡、阿部
一、音楽
   1、絃楽四重奏……第一ヴァイオリン千葉六郎氏 第二ヴァイオリン布瀬川準一氏
            ヴィオラ加藤信夫氏 チェロ高山茂
    A、墺国々歌行進曲(作品七六ノ三番ノ第二楽章)……ハイドン作曲
    B、ガボット……グルック作曲
    C、アンダンテ カンタビーレ……チャイコフスキー作曲
   2、ソプラノ独唱……横尾雪子嬢 ピアノ伴奏千葉日出城
    歌劇リゴレットの中より 「新しき御名」「お祭りの毎に」……ヴェルディ作曲
   3、ピアノ独奏………鈴木清太郎
    A、エチュード(作品二十五ノ一)…………………ショパン作曲
    B、ファンターヂック アムプロムプノチュー……ショパン作曲
   4、室内楽六重奏……フリュート平塚実、第一ヴァイオリン布瀬川準一、第二ヴァイオリン小川一夫
             ビイオラ加藤信夫、チェロ金木実、コントラバス新井喜久蔵
     組曲第二番(短ロ調)……バッハ作曲
     イ、オーバチュア
     ロ、ロンド
     ハ、サラバンド
     ニ、プーレー
     ホ、ポロネーズ
一、演劇……劇団第一歩
   関口次郎作「乞食と夢」一幕
    乞食甲……国村宏、乞食乙……藤井盛文、乞食丙……沖野孝市、支那そばや……山田真造、
    其他通行人大勢……細野エマ、丘みづほ
    演出……佐藤八郎、装置……道展会員、照明……佐々木晴治
一、映画
   パラマウント社作品
   オール・トーキー、ゲーリー・クーパー、フェイ・レイ主演
   「或る日曜日の午後」……全八巻
(第一回北海道芸術祭プログラム 北海道立近代美術館蔵)

 芸術祭は札幌市公会堂で、十七日の午後六時からおこなわれたが、金券二〇銭の純益は、札幌市の欠食児童給食、貧困児童学用品給与などの奨学資金として市に寄付された(北タイ 昭9・9・14)。
 東京音楽学校を出た千葉日出城(札幌混声合唱団指揮、札幌市立高女教諭)・鈴木清太郎(鈴木ピアノ塾)・横尾雪子(ソプラノ、札幌市立高女教諭)ら札幌音楽協会。横尾は千葉のピアノ演奏でヴェルディの歌劇「リゴレット」を独唱し、鈴木はショパンの「エチュード」などを演奏する。
 札幌シンフォニー・オーケストラ高山茂(チェロ)、中島オーケストラを引き継ぐSMCオーケストラ金木実新井喜久蔵札幌ホールアンサンブル小川一夫などの室内楽演奏者。千葉六郎らの弦楽四重奏でチャイコフスキーの「アンダンテ・カンタビーレ」などが奏でられる。
 舞踏では、昭和五年十二月に創設された札幌児童舞踊研究会や、藤間寿々衛師門下「藤寿会」が「お人形」や「元禄花見踊」を演じるが、花柳流の天才少女尾上房子も飛び入り出演する(北タイ 昭9・9・17)。そして、オール・トーキー映画、ゲーリー・クーパー主演の「ある日曜日の午後」が上映される。
 「第十回道展日誌」(北海道立近代美術館所蔵)には、十七日の北海道芸術祭の当日、「ぞろ/\と面白い位の入場者、金券を持っていらっしゃらない方も大分あり、会場で売った金券でさへも五百余もありました、満員の盛況でございました」とある。