明治一二年八月二六日付の函館新聞(第二四一号)に
茅部郡川汲・木直・尾札部等ハ、渡島国中の昆布出産地にて、殊に元揃ひ昆布ハ、往時頗る精製にて他の元揃昆布に比すれば大ひに声価ありしが、此二三年前よりハ製法少しく粗にして、声価も亦従って下落せり。因(よつ)て先頃より七重勧業試験場授産掛り官員が追々(おいおい)巡回し、出産人に改良の告諭を為したりと聞しが、其主旨の透(とお)りしと見え近ごろ又候(またそろ)声価を増し、本年(ことし)の相場景況ハ、百石八百円より下りし事なし。然るに、また過日地蔵町の漁場仕入売(うり)、角佐(かくさ)にて同地方の昆布を買入れ、秋津洲丸にて輸出したる価格を聞(きく)に、百石千百七十五円なりという。実に元揃昆布声価の極点ともいふべし。畢竟、出産人が勉励精製すると此通りなれバ、ナンでも精製が肝要と存じます。
と報じている。
昆布採りの最盛期をようやく終えた見透しの中での昆布市況を報じたものである。この年の昆布の早出しが市場で取引される九月一四日の函館の相場をみることで、この時の高価の極点の意を確かめることができる。
明治一二年九月一五日月曜日の函館新聞(第二五一号)に
九月一四日 相場
○昆布 元揃昆布一把ニ付
茅部 上 四十銭 宇賀 中 三十一銭五厘
根田内 上 四十一銭五厘ヨリ四十二銭迄
尻岸内 上 四十一銭五厘 熊泊 上 三十五銭
砂原 上 三十五銭
臼尻 上 四十一銭ヨリ四十三銭迄
尾札部 上 五十一銭 木直 上 五十一銭
戸井 上 三十九銭 小安 上 四十銭
日浦 上 三十九銭 上磯 上 二十九銭
コフ井 上 四十銭
○折昆布 同(一把ニ付=編者注)
茅部 上 七銭二厘 志苔 上 九銭ヨリ十三銭迄
上磯 上 八銭二厘五毛 小安 上 七銭九厘
と掲載されている。参考までに、この日の〆粕と米の相場を記しておく。
○〆粕 鰯粕 一円ニ付
茅部 上 四貫七百九十目 地廻 上 四貫八百目ヨリ四貫八百五十目迄
戸井 上 四貫七百五十目
○米 一石ニ付 越後 玄(米)上七円八十銭ヨリ八円八厘迄