付加体堆積物の形成とメランジ

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海洋プレートが運んで来た堆積物は、海洋プレートが海溝へ沈み込む時に一緒に巻き込まれて地球の中へ消えてしまうのだろうか。海洋プレート上の堆積物は、部分的に海溝ではぎ取られ、陸側のプレートに付け加わることがある。そのような働きが長い間続いて、はぎ取られた深海・遠洋堆積物が次々と陸側に付け加わる作用を付加テクトニクスといい、そうしてできた一連の地層群は付加体堆積物と呼ばれる。そして付加作用の過程で起こるさまざまな構造運動(はぎ取り、セン断、圧縮、脱水、衝上断層など)の影響を受けるために、海洋プレート上ではもともと水平な広がりをもっていた地層はズタズタに引きさかれたり、引き延ばされ、しまいには異なった種類の地層が高い圧力で混ぜ合わされてメランジと呼ばれる混在岩ができる(写真65や図52)。陸側に付加するのは海洋プレート上の堆積物だけに限らない。時には海洋プレートの深い場所の岩石までもはぎ取られることがある。こうした付加体堆積物が後に地殻変動を受けて隆起し、地表に顔を出したものの一部が、弘前の南部の先第三系堆積岩類を構成するチャートや緑色岩、そしてメランジである。地表でみられる、海洋プレートの断片を巻き込んだ、地中深い所でできた岩石の一群は、特にオフィオライトと呼ばれている。
 たくさんの断層が発達し、メランジがよくみられる付加体堆積物には、平行して重なり合った地層が延々と続くようなことはむしろまれである。地層の堅い部分は比較的破壊を免れてサツマイモのような形に変形し、断面でみるとねじれたレンズ状の不連続な地層となる。また泥岩凝灰岩のような柔らかい地層は圧縮により引き延ばされ、堅い地層のちぎれたすきまに押し込められる。その結果、付加体の地層は一般に、どのようなスケールでみても砂岩チャート、または石灰岩の層は不連続で、泥岩質の堆積物の中にレンズ状に挟まった産状を呈する。こうした不連続で混在した堆積物は、付加体の形成過程から、陸上に露出するまでに、水平方向から圧縮を繰り返し受けるために断層が出来てスライスされ、全体に魚の切り身を重ね合わせたような形態となる。
 付加体堆積物は、これまで、我々が地層について基本的な概念として把握してきた、それぞれ広がりをもった個々の堆積物が層状に重なり合っており、下位にある地層ほど古い時代に堆積したという認識に合わない、特異な地層の集合体であることがわかった。さらに、チャートや石灰岩、緑色岩などの複数の種類の岩石(地層)が様々な大きさ(ブロックや岩片、角)で入り混じっていることがよくあり、隣り合った岩石や堆積物の地質年代の差が大きいこともよくある。仮に、個々のブロックや岩片ごとの年代がわかると、ユニットやコンプレックスと呼ばれる、ある程度のまとまった地層群の中では、一般にチャート泥岩よりも古い年代を示し、砂岩が一番若い年代を示す傾向が認められる。したがって、このような従来の地層群(非付加体堆積物)が岩相層序区分であることに対し、付加体堆積物にみられる地層の重なり特性やその階層性は、構造層序区分(テクトノストラティグラフィー)という用語で呼ばれている(中江、二〇〇〇)。