戸長の公選

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 ところが表2-46(戸長役場の設置)にもある通り当初は函館には戸長は置かれず、函館市街は函館区役所が直接管轄する体制であったが、大小区制のときは小区扱所→大区区務所という流れで事務処理がなされていたため、戸長役場の設置を望む声が起こり、区役所開庁から半年ばかりの6月23日、第47号布達(『布類』上)をもって函館区にも6人の戸長が置かれることとなった。この戸長選定は函館市民の希望通り公選をもって行われることになり、7月7日第53号布達を以て8か条の「戸長選挙心得」(『布類』上)が定められた。第1条に「本年当庁第四十七号布達ヲ以定ル所ノ数町ニ於テ戸長一人ヲ公撰スヘシ」とあるとおり、この第47号布達で戸長が置かれることになったのは函館区内だけであるので、戸長選定に公選を用いたのは函館区のみのようである。この選挙心得は、ほぼ総代人選挙法に準じているが、選挙人被選挙人ともその資格に不動産所有の有無を問う条項は入っていない。
 また函館新聞はこの戸長公選を歓迎する記事を、この心得が布達された直後(7月11日)に載せている。
 
是まで久しく希望したる戸長公選の一事も彌以て決議になりしは至極結構悦ぶべきの美事なりかし、此の一事や当道にては耳新しく思ふべけれど各県にては明治五、六年の頃より行われたる事にて、敢て耳新しくは候はず。官選なれば多く等外先生などを戸長に任ずる故、町内人民に対して無上の権力を揺ぎ出し威張切って不親切なる取扱ひも無きやとの心配も有れど、公選なれば町内人民の意に適せる好人物を選み得ることなれば、便利は無論又官選の如き苦情も無かるべし。第五十三号戸長撰挙心得布達第五条に各町の治否に関係する事情ありと認むるときは官選を以て任することも有るべしと、此は余り不都合の人を選み又は余りに町内の勝手のみを考へ御政治の為筋にならぬ所業を働くときは止を得ず官より戸長を命じて差向らるると云ふ事なり、此条殊に心得べし、若しも斯る不都合にて官選の戸長を差向られたるときは町内の大恥辱たることを兼て心得居ること肝要なり。斯く結構なる戸長公選も北海道には今度が手初なれば此の場合に際して若しも不都合を生ずるに於ては甚だ遺憾の次第なれば各町にても極めて注意せらるべき事にこそ、因て茲に蛇足を添ふ。

 
 と戸長公選を歓迎しながら市民の良識を期待する記事となっている。
 選挙は区役所に於いて7月19日から6日間行われ表2-47の通りの結果となり、各戸長役場は8月1日から開かれることになった。なお、4組の戸長は第1位第2位の者が辞退したため、第3位の得票者竹内与兵衛が戸長になることを承諾して請書を提出している。この「組」というのは、戸長役場受け持ち町名表(表2―48、49)をみても分かる通り、大小区制の各大区に2組みずつという配置で、元第14大区が1組2二組、元第15大区が3組と4組、元第16大区が5組と6組となっている。
 なお、函館区役所が設置され、区務所、小区扱所が廃止されたとき、函館の町々は連合して事務所を設けており、連合町事務所と呼ばれていたようである。函館区内には6か所の連合町事務所が機能していた。この連合町事務所は、運営は町総代人の協議に任され、事務担当者としては筆生が置かれ、主に「地券譲渡ノ事」「地券名義書換ノ事」「建家及土庫売買ノ事」「建家及土庫新築届ノ事」などの事務を担当していたが、戸長役場の開設が8月1日と決定したため、7月31日を以て廃止された(明治13年「区役所達」)。
 13年8月1日、函館区内に六組の戸長役場が表2-50表の通り開設された。
 
表2-47 戸長選挙会一覧表

投票日 7月19日投票日 7月20日投票日 7月21日
1組
山ノ上連合
2組
元町~尻沢辺
3組
神明町~仲浜町
投票数
氏名
投票数
氏名
投票数
氏名
※177
6
5
5
富田五三郎
佐々市三郎
松浦重吉
大橋宇左衛門
※137
50
30
32
19
西村本次郎
砂原松右衛門
佐藤源吉
中村兵右衛門
小林重吉
※241
22
22
22
19
17
15
小西一清次郎
石田四郎右衛門
杉野源次郎
松代良吉
鈴木久蔵
田中正右衛門
山崎清吉
投票日 7月22日投票日 7月23日投票日 7月24日
4組
内澗町~亀若町
5組
地蔵町大森
6組
鶴岡町~海岸町
投票数
氏名
投票数
氏名
投票数
氏名
40
33
※31
29
25
24
22
19
安浪次郎吉
杉浦嘉七
竹内与兵衛
井口嘉八郎
今井市右衛門
諏訪久兵衛
泉藤兵衛
奥村忠五郎
※116
80
78
69
42
35
相川洗心
米谷権右衛門
佐々木忠兵衛
近江勇蔵
井原兵五郎
山本鉄次郎
※160
75
59
20
斎藤又右衛門
斎藤左武
五島祐三郎
仲田為信

※印は請書提出者
明治13年7月21、22、23日「函館新聞」より作成

 
表2-48 戸長役場受持町名表(明治13年8月1日開設時)

組名
町名
1組
22町
松蔭 愛宕 富岡 常盤   天神   梅枝  花谷 芝居 仲新
茶屋 片   坂   山上   神明横 船見  下新 上新 鍛冶
駒止 元新 台   山背泊
2組
17町
元   会所   上大工 下大工 南新 上汐見 下汐見 青柳   春日
相生 尻沢辺 住吉   蔭    柳   浦    赤石   谷地頭
3組
10町
鰪澗 鰭横 神明 仲 弁天 西浜 幸 大黒 大 仲浜
4組
8町
内澗 東浜 堀江 船場 恵比須 蓬莱 亀若
地蔵(1~3丁目)
5組
10町
汐留 蔵前 宝 豊川 真砂 龍神 西川 東川 大森
地蔵(4~6丁目)
6組
7町
鶴岡 若松 音羽 高砂 大縄 富沢 海岸

筆者作成

 
表2-49 戸長役場受持町名表(明治14年7月8日町名区画大改正後)

組名
町名
1
富岡 鍛冶 旅籠 天神 船見 駒止 台 山背泊
2
元 会所 相生 寿 曙 汐見 青柳 春日 住吉
3
大 仲浜 弁天 西浜 幸 鰪澗 大黒
4
末広 東浜 船場 蓬莱 恵比須
5
地蔵 汐留 豊川 西川 東川 宝 大森
6
鶴岡 若松 海岸 音羽 高砂 大純 真砂

明治14年「郡区役所上申録」道文蔵より作成