土地利用と職業構成

499 ~ 503 / 1505ページ
 これまでは、函館の市街地の基盤である土地に関して説明してきた。つまり地租改正を中心課題として、市街地全体を対象空間としたのである。次にこの市街地を大小区あるいは町別ごとの単位に細分化し、土地利用や職業構成などから、町の様子を説明したいと思う。この目的のため、市街地を地価等級および自然地形などから、5つの地区に仮設定してみたのが図4-9である。つまり函館の市街地の1つの特徴でもある「通り」を意識してそこに機能性が内包しているという仮定のうえに設定したのである。

図4-9 仮設定した地区割

 さて表4-12における大小区制時の官有地の土地利用については、明治初期の頃と大きくは変わっていない。つまり、商業地区である第15大区を除いた14、16大区に官有地が多くを占めている。この中で16大区の3、5小区が宅地の占める割合が高く、これ以降の私有地化をこの数字にみる土地のの払い下げによって説明することができよう。
 次に構成比の割合の高いものによって土地利用を表記した、図4-10により明治26年と同36年の土地利用の変化を中心に見てみると、船見町、汐見町、東川町などが宅地の割合が高くなり、居住区域の拡がりを想定できる。逆に豊川町、若松町、海岸町などが公用地の割合が高くなっており、港湾施設と鉄道関連施設との関連性が考えられる。
 
 
 
 
31 船見町
32 元町
33 汐見町
34 青柳町
35 谷地頭
 
36 住吉町
37 春日町
38 曙町
39 宝町
40 東川町
 
41 大森
42 大縄町
43 音羽町
44 高砂町
45 仲町
 
46 帆影町
47 小舟町
48 新浜町
49 台場町
図4-10 町別、明治26年と36年における土地利用 『北海/巴港之宝庫』『地所所有主明細鑑』より作成
1 東浜町
2 仲浜町
3 西浜町
4 幸町
5 豊川町
6 船場町
7 汐留町
8 真砂町
9 弁天町 
10 大町 
11 末広町
12 地蔵町 
13 鶴岡町 
14 若松町
15 海岸町
16 鰪澗町 
17 大黒町
18 旅籠町
19 天神町 
20 鍛冶町
21 富岡町
22 会所町 
23 相生町
24 寿町
25 蓬莱町
26 西川町
27 恵比須町
28 駒止町
29 山背泊
30 台町

 
 表4-12 明治13年の官有地の土地利用
 
官1種
   官   2   種   
   官   3   種   
   官   4   種   
 
 
神社
官用地
官邸地
外国人墓地
招魂社
掲示所
船製造所
公園
官林
墳墓地
宅地
学校
病院
女紅場
寺院境内
 計 
14-1
2
3
4
5
 
1,090
 
6,451
5,038
1,975
 
126
9,616
1,443
3,687
 
 
6,080
1,445
879
 
10,911
 
 
1744
 
 
 
490
 
 
 
 
 
 
39,523
558
12,771
 
5,098
15,953
 
7,291
2,413
8,086
478
570
 
388
9,846
1,262
446
 
 
2,413
1,996
 
6,970
 
314
17,647
22,031
4,985
58,991
63,697
15-1
2
3
4
5
 
370
 
131
 
1,711
  
 
 
 
2123
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
501
 
3,294
10
16-1
2
3
4
5
   
3,036
437
2,344
3,285
13,532
 
2,984
 
 
 
772
 
 
 
6,751
 
53,146
1,694
145,588
 
1,032
348
 
 
 
994
1,963
 
 
 
 
4,636
15,506
1,469
55,838
5,973
163,466
12,949
37,096
9,767
18,342
1,744
490
10
772
39,523
34,380
18,268
219,245
4,239
2,990
1,963
11,630
413,408

 明治13年「官有地地種下調」 より作成
 
 次に職業構成については、表4-13・図4-11を作成した。ここでもまず大小区制時の職業を、人口の状況とを関連させて表4-13にまとめた。この表で「特徴的な職業」とは職種別で割合の高い地区を示している。まず先の土地利用と関連するが、14大区4小区は入寄留人口が多く、公務に従事する人が多い地区といえる。反対に出寄留の多い15大区1小区と14大区3小区の特徴的な職業は船乗、水夫、漁業であり、道内漁場の労働力としての出稼などが想定される。また16大区1小区において芸妓、娼妓、貸座敷が特徴的なのは遊廓が1画を形成していたからである。そして、16大区2、4小区において、召仕や日雇が多く占めているのは、商業地区の労働力として位置付けられよう。これらは断片的な例証ではあるが、大区ごとにみても職業構成にみられるように、階層差が認知できるのである。
 さて明治28年の町別職業数を広告的色彩の強い『巴港詳景函館のしるべ』より抽出し、先の5地区ごとにまとめたのが図4-11である。これによると、(1)地区は物産商、旅人宿、回漕業、材木商が割合が高く、各業種数の72.7パーセント、60.4パーセント、83.3パーセント、55.6パーセントを占めている。(2)地区は呉服太物商、金物商、薬種売薬商、仲買商などが、63パーセント、60パーセント、60.9パーセント、86.7パーセントと高い。(3)地区は製造業が52.4パーセントを占めている。(4)地区は日本料理店82.9パーセント、古着商88.2パーセントと特に高い数値を示している。(5)地区は漁業100パーセントである。
 以上の事から(1)地区は物産商、回漕業、旅宿業をセットした港湾関連業種地区であり、(2)地区は豪商の多い町家地区であるといえる。(3)地区は明治40年代には交通の要所として、新たな機能を有するのであるが、この段階では(4)地区と同様商住混在地区と考えられる。(5)地区については住宅地区と大きく機能性の違いを指摘できるのではないだろうか。特にここで留意したいのは、大小区制時において崖地より山の手側での店舗経営があまりみられなかったのが、(4)地区にみられるようにひとつの機能地域が分化したことである。このことは一般に店舗立地は歩行者密度の高い通りに集中するが、日用品店舗などは、比較的狭い範囲での近隣住民の需要に異存するので、都市の発展による居住区の拡大に対応して、これらの地域へ立地するようになったと考えることができよう。これを業種的にみると、米穀雑穀商や雑貨荒物酒類商などに端的にあらわれていよう。さらに(4)地区の特色は、西川町、鶴岡町にみられるように、御得意様に近在近村の住民が含まれていることである。また東川町、大森町などの後背地の住民の階層を考えてもわかるように、(2)地区とは対象を異にする店舗経営であることも推察できるのである(『巴港詳景函館のしるべ』)。
 
 表4-13 大小区制時の人口と職業
  
本籍人口
入寄留
出寄留
特徴的な職業
  
平 民
士 族
平 民
士 族
平 民
 14-1
2
3
4
5
15-1
2
3
4
5
16-1
2
3
4
5
1,430
1,888
391
2,672
838
995
958
498
858
684
3,596
335
1,907
351
2,336
16
9
16
63
1
4
3
0
9
0
13
8
10
0
8
370
456
220
979
71
279
236
147
287
215
904
130
502
315
721
64
69
0
178
6
2
0
9
2
0
9
0
3
3
11
21
30
30
70
0
97
0
13
6
6
29
2
6
0
26
 僧侶・代言人
 神官・味噌醤油製造
 水夫・炭売・漁業
 巡査・馬士・木綿商・官員
 漁夫
 船乗
 水夫宿・材木商・呉服大物
 牛肉売・指物師
 産物商・回船宿
 馬追
 運送・青物・芸妓・娼妓
 召仕
 搗米・行商
 召仕
 瓦師・飴製造・漁師

 明治9年「管内町村戸口表」、明治11年「函館市中職業表」『函館市史』統計史料編より作成
 

図4-11 明治28年における地区別職業特性