明治二十年代の昆布漁業

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 北海道水産全書全 高雄北軒 (明治二十六年刊)を要約して当時の昆布漁業について記す。
  ・主な昆布と形狀
  元昆布
    多少厚薄長短ニ差アリト雖モ槪ネ巾三四寸ヨリ尺餘ニ至リ長サ六七尺ヨリ丈餘ニ至ル質ハ厚クシテ濃緑色ナリ古來松前昆布ト稱シテ賞味セラルゝモノ是レナリ。
  三石昆布
    幅二三寸ニシテ長サ三四尺ヨリ數丈ニ及フモノアリ暗緑色ニシテ元昆布ニ比スレハ厚クシテ鹽分少ナク甘味ナリ。
  真昆布
    即チ長昆布ト唱フルモノニシテ幅二三寸長サ數丈ニ及フ三石昆布ニ比スレハ質薄シ
  水昆布
    細目昆布ノ如ク幅狹シ又中心ニ條アリ其質薄弱ニシテ味淡白ナリ。
  黒昆布
    幅三四寸長サ四五尺ニ及フ黒色ニシテ質厚ク天鹽ノ沿岸ニ産スルヲ天鹽昆布ト云ヒ利尻禮文等ニ産スルヲ利尻昆布ト云フ俗ニ「ダシ」昆布ト云フモノ即チ是ナリ。
  細目昆布
    長サ四五尺乃至七八尺幅一二寸ヨリ三寸許リニシテ中心ニ條アリテ葉薄シ一名之ヲ盆布(ボンメ)ト云フ
  ・採取期節
   昆布ノ種類ニヨリ採取ノ期異リト雖(イエ)トモ(ども)以上列記シタル種類ノモノハ大槪七月中旬ヨリ十月下旬又ハ(は)十一月下旬マテニ採取スルヲ例トス採取ノ最モ多キ期節ハ土用入ヨリ秋彼岸迄凡ソ七十日間トス、而シテ其採取ニ着手スルヲ鎌卸シト稱ス又土用入直ニ着手スルモノト十數日乃至二十日後ニ至リ着手スルアリ是等ハ地方昆布發育如何ニ關係スルモノナリ。
  ・採取具
  鍵 梻材(タモ)ヲ以テ作リ圓徑一寸四分ノ棹ニシテ長サ一丈五尺乃至ニ丈餘ニシテ其端ニ鉤ヲ附ス鉤ハ長サ一尺四五寸トス
  鎌 鐵製ニシテ之ヲ木柄ノ端ニ附ス
  昆布搔 適宜ニ反張セル木片二本ヲ雙角狀ニ合セ檜ノ角材ニテ之レニ二個ノ方孔ヲ穿チ二本ノ扁木ヲ貫キ石錘ヲ附スルノ用ニ供ス錘ハ重量凡ソ一貫五百目トス之ハ海底ヲ引廻シ昆布ヲ搔キ集ムルノ具ナリ
  捻棹 方言之ヲ「ソート」と云フ梻材(タモ)ヲ以テ造リ三ツノ種類アリ
  ・採取法
   昆布ヲ採取スルニハ胴海、保津、持符船ニ二人乃至五六人乘込ミ之ニ棹二本乃至六本ト碇[重量六貫目]一挺徑四分長サ六十尋ノ「ロップ」綱一本車櫂[一丈三尺]ニ揃「トモ」櫂[長一丈三尺]一枚ヲ備ヘ昆布ノ發生シタル塲所ニ碇ヲ卸シ棹ヲ海中ニ入レ昆布ヲ掛ケ船側ニ引キ揚ケ三十本乃至五十本ヲ一把トシ船ニ積入ルゝナリ之レヲ束ルニハ尚昆布ヲ以テ結束スルヲ常トス而シテ昆布船ニ充ル毎ニ陸地ニ運送スルナリ西海岸ニテハ多ク磯船ヲ以テ運送ノ用ニ供ス。
  ・製造法
  長切昆布
    長切昆布ヲ製スルニハ採取シタルモノヲ直ニ乾場ニ運搬シ一枚毎ニ敷キ並ヘ晴天凡ソ二日間ヲ乾燥セシムルモノトス雨天ニ至レハ納屋又ハ倉庫ニ入レ莚ヲ覆セ濕気ヲ防クヘシ斯シテ乾燥ヲ終リタルトキハ倉庫内適宜ノ場所ニ積ミ重ネ周圍ヲ莚ニテ圍ヒ外気ノ當ラサル様ニ為シ再ヒ之ヲ日光ニテ乾シタル後之ヲ結束スルモノトス
  元揃及花折昆布
    乾場ニ敷キ列ヘ日光ニテ漸々乾燥セシメ[急劇ニ乾燥セシムルトキハ品質ヲ傷フノ憂アリ]其幅ノ狭縮セサル様一葉ツ、引伸シ度々之ヲ覆シテ夕日(ユフヒ)ニ至レハ集メテ累積シ雨露ヲ防ク為ニ菰ヲ以テ蔽ヒ四、五日ニシテ之ヲ納屋ニ入レ其後ハ自然ニ乾スコト五、六日ニシテ再ヒ晴天ニ乾シ夕方(ユウガタ)ニ至リ四、五時間露濕ニ曝シ或ハ少シク海水ヲ撒布シ柔軟ニナリタルトキ結束スルモノトス
 ・結束法
 元揃昆布
   原草ハ元昆布昆布ノ二種ニシテ根ヲ切リ捨テ一本毎ニ元ト先トヲ揃ヘテ三十五枚或ハ四十五枚ヲ重ネテ三日月形ニ切リ長サ五尺トシ三ヶ所ヲ縛リ一把トス、其重量二貫ニシテ二千把ヲ以テ百石ト稱ス、切リ捨テタル餘リハ之ヲ駄昆布ニ製スルナリ
 花折昆布
   原草ハ元揃昆布ニ同シクシテ之ヲ廣ク引キ伸シ長サ二尺五寸ニ折返シ二三ヶ所ヲ縛リ一把トス大ナルモノハ一把二貫目、小ナルハ一貫目内外トス。即チ大ハ五本結ト稱シ昆布五葉ヲ二ッニ折リタルモノナリ、小ハ三本結ト稱シ三葉ヲ二ッニ折タルモノニシテ孰(いず)レモ上等品トス
 長折昆布
   花折昆布ニ同シクシテ、三尺五六寸乃至四尺位ニ揃ヘ元ヲ切リ捨テ結束シタルモノナリ
 小花折昆布
   花折ニ同シクシテ根部ヲ整ヒ葉ノ先ヲ折込ミ花折ヨリ細ク折リタルモノナリ
 島田折昆布
   原草元揃ニ同シク婦人ノ島田髷ノ形状ニ結束シタルモノニシテ常例其重量一貫目ナリ
 折昆布
   原草元揃昆布ト同シク一枚毎ニ皺ヲ伸シ長サ一尺五寸ニシテ末ノ方ヨリ巻キ折リ之ヲ五枚重ニシテ一把トス 其量目七百目トス
 長切昆布
   原草ハ眞昆布 三石昆布 細目昆布ニシテ之ヲ一枚毎ニ引伸シ根莖ヲ截斷シ葉先ヲ切リ去リ左ノ如ク結束ス
  上等品
   長サ四尺中結六ヶ所[又ハ五ヶ所]上結七ヶ所[又ハ六ヶ所]量目八貫目トス
  並等品
   長サニ尺五寸[又ハ三尺六寸]中結五ヵ所[又ハ四ヵ所]上結六ヵ所[又ハ五ヵ所]量目八貫目[又ハ六貫目ヨリ七貫目ト為スモアリ]トス
 水昆布
   長サ四尺[又ハ四尺二寸]中結六ヶ所[又ハ五ヶ所]上結七ヶ所[又ハ六ヶ所]量目ハ八貫目又ハ七貫目トス
   以上長短結所及貫目ノ多少ニ差アルハ各産出地ニ依リテ差違アルモノトス
 胴結昆布
   下等品ヲ混入シ長サ四尺上結三ヶ所量目八貫目トス
 鹽干昆布
   上結四ヶ所量目八貫目トシ長サ不定ナリ
 棹前昆布
   秋末ヨリ冬季ニ際シ採取シタルモノニテ從來竿ニ掛ケ乾シタル故此ノ名稱アリ長サ三尺五寸又ハ三尺六寸中結五ヵ所量目六貫目トス
 細目昆布
   根部ヲ揃ヘ長サ二尺五寸ニ二折シテ三ヵ所ヲ結束シ一束ノ量目四五貫目トス
 駄昆布
   元揃花折等ヲ製シタル餘リ又ハ海岸ニ漂着シテ寄セ揚ケタル等極ク下品等ヲ集メ量目二貫ヲ以テ一把トシ長サ二尺七八寸乃至三尺位トス
  ・販売及仕向地
   仕向地ハ昆布ノ種類ニヨリ各々其需用地ヲ異ニセリ本道ノ東海岸乃至南海岸日高等ヨリ重ニ産出スル長切昆布ハ大槪之ヲ支那ニ輸出シ之ニ反シ南海岸茅部亀田地方ニ産スル元揃昆布大坂地方ニ輸出シ又亀田郡小安以西函館大森浜ニ至ル間ニ産スル花折昆布ハ京坂地方ニ輸出スルナリ
   其他各府縣多少ノ需用アラサルハナシト雖トモ就中大阪府、東京府、神奈川縣、富山縣ヲ最トシ山口、廣島、福井、新潟、秋田、島根、石川、熊本之ニ次キ京都府、岐阜、鹿児島、岡山、奈良、佐賀之ニ次ク。
   本道普通ノ相場ハ百石ヲ以テス。清国ハ毎百斤ヲ以テス今其平均相場ヲ示セハ左ノ如シ(明治二十二年頃)
    本邦
   長切 百石ニ付 四百圓
   元揃 仝 七百圓
   折 仝 五百二十圓
   花折 仝 三百二十圓
     清国
   昆布 百斤ニ付 一圓八十五銭
   刻昆布 仝 二圓七十銭