村越潔
昭和三十三年から、弘前市教育委員会が実施した岩木山麓の埋蔵文化財緊急調査に加わり、初めて亀ヶ岡式土器や円筒土器を発掘した時の感触は、今でも脳裏に深く刻み込まれている。
なかでも大森勝山遺跡における大型竪穴住居跡・環状列石ならびに本県最初の旧石器の発見をはじめ、十腰内遺跡出土の遺物は、東北北部における縄文時代後期の標式となるなど、当時の考古学界に激動を与えた。その大きな成果をもたらした背後には、この事業を強く押し進めさせた市民の歴史を愛する熱情と郷土愛があったのではなかろうかと思う。
このたび上梓の本書は、自然と原始の分野で構成している。岩木山麓をはじめ、弘前市や津軽地方における考古学調査の成果を、「津軽の原始時代」と題し、遠い祖先の活動としてさきに刊行した資料編をもとに現在知られる範囲で解説し、その祖先が広く活動の舞台とした津軽と青森県の成り立ちを、「津軽の自然」として地学の部門から詳細に説き明かすとともに、さらに本州の北端という地理的位置のため寒冷な気候に悩まされ、時には地震の災害を被る苛酷な試練のなかで、たくましく生きてきた先人の生活の実状を、年表にして理解を深めるように努めた。
この「新編弘前市史」の当初の編纂計画では、「通史編1」の内容について第五章までの編成で進めていたが、年次を経るにしたがい第三章の古代と第四章・第五章の中世の部門のなかで、執筆担当者が業務多忙のため辞退するという事情を生じた。さらなる上梓の遅延を避けるため、分冊して第一章と第二章をまず刊行し、後半については可能な限り早く完成させて、市民の期待に一日でも早くこたえるべく作業を進めている。待ち望んでおられた市民各位には本当に申し訳なく、深くお詫びする次第である。
なお、続く第三章から第五章については、すでに六割方の執筆が完了しており、今後とも市民各位の期待にこたえるべく懸命に努力したい。