小宿

362 ~ 366 / 706ページ
 一方、小宿については、延享5(1748)年5月に、「同廿二日小宿拾六軒、御番所ニテ被仰付候」(『箱館問屋儀定帳』)とあり、別に、「(同年同月)松前藩ニ於テ始メテ隅屋(鍋力)吉古衛門、亀屋七郎兵衛大坂屋彌兵衛近江屋善兵衛吉村屋善左衛門村田屋作右衛門亀屋吉郎兵衛ノ七名へ命ジ、(中略)当時問屋六軒、小宿七軒ヲ以テ定員トセリ」 (『函館商業習慣取調書』)ともあり、許可された人員、人名等について判然としない。
 なお、この問屋の儀定書を挙げれば、次の通りである。
 
       儀定
一 御公儀様より仰付けられ候趣、急度相守り申すべく候事。
一 御廻船出入御役物、相互に吟味を遂げ、不埒これ無き様に相守り申すべき事。万一仲間の内相背くに於ては、問屋頭え聞届け急度申し達すべき事。
一 諸廻船宿替の儀は本宿え聞届け申すべく候。此末宿替え致し候船これ有り候はば、相互に承合宿仕るべく候。若し客方非分の上宿替え致し候はば、仲間の内宿致す間敷候。
一 金銭貸借出入に付船手宿替等これ有り候はば、何方え御頼み候とも宿受相成り申さず候事。
一 問屋仲間の内六ヶ敷儀これ有り候はば、其方より案内次第早速寄合相談申すべく候。
一 先年より相究め候通り諸色庭口銭、浜売庭敷共に別紙書付の通り目録面にて急度取申すべく候。万一船頭相対にて右究めの庭口銭宥免致し候はば、急度吟味いたし、其者定の通り仲間除き申すべき事。
一 客方より売物、何品に限らず売払い候直段より高直に目録相出し申す間敷候。並に買物何々(品)限らず、買直段より下直に目録出し申す間敷候。若し仲間の内左様いたし候者これ有り候はば急度詮議致し誰に限らず仲間相除き申すベき事。
一 惣て預り荷物何に限らず、蔵入れ致し候分、定の通り庭敷申請くべく候。尤も船手より掛り合これ有り候出荷物の儀は、直段相立申さず候内に蔵入致し候分、荷主より半庭敷申請くべく候。万一掛りの船え相渡し申さず、荷主脇方え相渡し候はば定の通り庭敷申し請くべく候。若し宥免致し候者これ有り候はば仲間除き申すベき事。
一 当所御百姓商人登せる荷物何に限らず、問屋支配致し候はば、口銭、庭敷共に定の通り申し受くべく候。荷主方にて支配致候はば半口銭半蔵敷申し請くべき事。
一 御廻船注文下り荷物、口銭二分宛申し請くべく候。
一 諸色売買物船手より小宿にて売買致し候とも、口銭、庭敷の分船宿え七分、小宿え三分の割合を以て取申すベく候。
右の趣、延享五辰年三月八日御定目にて仰付けられ候。
(『箱館問屋儀定帳』)

一 他国送り付荷物の儀は、預り主方にて売払い候節、目録表にて本宿え庭敷口銭七分請取申すべく候。尤も三分は小宿へ取申すべき事。
一 問屋小宿の外送り荷物これ有り候節は、通庭敷請取り申すべき議定に候。此以後急度取申すべく候。若し仲間の内にて内々を構え候方これ有るに相聞候はば儀定として仲間相除き申すべく候。
一 此末御公儀様より追放人これ有り、銘々宿船え仰付けられ候はば、早速御受申すべく、其上にて船手違背に及び候はは宿除き申すべく候。これに依り重ねて脇宿え参り候共仲間の内にて宿致す間敷候。万一右の船頭宿仕り候ものこれ有るに於いては急度仲間除き申すべく候。この旨堅く相守り申すべく候。
一 小宿え送り付酒の儀、蔵敷は預り主え取申すべく候。口銭の儀は小宿え七分、大宿え三分取申すべき事。
一 唯今迄客方より荷物預り、右引当に金銭到中物共に相応に相働き来り候得共、近年打続不景気に付、世上金廻りもこれ無き故、買物代金の取立厳敷これ有り候に付、働も成り兼ね申し候。これに依って取替の義必到と相成り申さず候。併其時々客方より預り荷物の内、模様に寄り引当にて他借致し用達申すべき事もこれ有るぺく候。然るときは一ヶ月金拾両に付金一分宛利足相掛け、客方より請取り申すべく候。尤も歩割相定め候得ども其時節により高下これ有るべき事。
一 荷物引当これなき方え決して取替相成り申さざる事。
一 当国穀物不産の地故、船々入津の砌御上様え米一俵づつ献上致し成り候処、御上様より仰付けられ候には、問屋は御受納御取立に付右差上米御扶持方同様に問屋共に仰付けられ候。右差上米船手相対にて宥免致し候者これ有るに於いては、仲間相除き申すべき事。
右条々堅く相守り申すべく候。万一相背き候者これ有るに於いては、定の通り急度仲間相除き申すべく候。心得違いこれなき様相守り申すべく候。
右の外御定目並に儀定数々御座候。仲間大議定帳にこれ有り、時々問屋頭え預り置き申し候。(『箱館問屋儀定帳』)

       覚
一 船宿の儀船手勝手に寄り、先規よりの宿を置き、我侭に宿相頼み候とも、前々より引受相成らざる趣議定致し候処、近年猥りに相成り候。已来左様の儀これ有り候はば仲間打寄り、挨拶致すべき事。
一 問屋の外、店方並に商人中え入荷物これ有る節は、定の通庭敷受取り申すべき事。
一 諸廻船入出の荷物売買の節、問屋小宿七分三分の割合に致すべく、尤問屋より差図にて小宿へ売らせ候はば、小宿え七分大宿え三分請取り申すべき事。
一 地船小廻し参り候節アブタより下も分は登りの上運質片金受取り申すべき事。
一 諸廻船は申すに及ばず、地船共先規の通差上米受取り申すべく候。若し米積参り申さず候はば時相庭を差引に入、受取り申すべき事。
一 内昆布並に諸品共問屋の外、船手え議定取組み致し候事相成らず候処、近年小宿共心得違のことこれ有り候。此度左様の者これ有り候はば、急度吟味致すべく候。併しながら船手より拠(よんどころ)なき筋にて相頼み候はば、船宿え相断り其上取計らい申すベき事。
右前書之通往(ママ)来より厳敷議定仕り来り候処、近年別て猥りに相成り候に付、此度相改め、已来諸事議定の通相互に取扱い致すべく候。万一仲間之内心得違の族これ有り候はば、仲間より急度挨拶に及び仲間相除き申すベき事。
      天明七年丁末十月
若狭屋五郎兵衛
秋田屋喜左衛門
角屋吉右衛門
加賀屋新十郎
蛯子武兵衛
長崎屋半兵衛
井口兵右衛門
右の通り改め儀定仕り候間、堅く相守り申すべく候。以上
(『箱館問屋儀定帳』)

 
 この問屋の株仲間化は、旧来の収税体系を生産と流通両面に立脚したものへ、再編強化するという税制改革の主要目的で行われたものである。そのため問屋株仲間には、船役銭の徴収権のみならず関税としての沖ノ口口銭の徴収権をも与えた。そしてこのことは、松前藩制のあり方にとってはもちろん、箱館港の歴史的性格を考える上にも、非常に重要な問題点を含んでいる。そこでまず株仲間問屋および小宿の機能について、具体的に検討してみる必要がある。