テールス号の入港

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 明治2年9月25日正午、テールス号が箱館港に入港した。東久世通禧開拓使長官、島義勇判官、岩村通俊判官、松本十郎判官、竹田十右衛門判官、得能恭之助権判官ら開拓使首脳と官員100人ほど及び根室方面に向かう開拓移住民200人を乗せていた(東久世長官「日録」写)。箱館に上陸した東久世長官は、箱館八幡宮に向かい神職菊池出雲守重賢宅に落ち着き、島判官(能量寺)、岩村判官(大町佐藤忠兵衛宅)、松本判官(地蔵町池田栄七宅)、竹田判官(地蔵町中村儀兵衛宅)、得能権判官(内澗町井口兵右衛門宅)、以下も夫々箱館市中の寺や商家等を宿所とした(「開拓使人銘御宿扣書」)。開拓使は石狩の地(札幌)に本府を建設して北海道・樺太の開拓を進めることが当初の最重要計画であったので、長官一行の箱館到着直後、本府建設の責務を負った島判官は石狩に派遣され、松本、竹田両判官もそれぞれ根室宗谷の勤務地に向け出発していった。東久世長官は本府完成までは箱館に在って指揮を取ることになっていた。岩村判官は長官補佐主任官として箱館に在り、得能権判官は側近として行動を共にしていたようである。この時期の開拓使首脳陣は表2-1の通りである。
 9月27日、東久世長官は箱館県裁判所として機能していた「裁判所」へ出向き、裁判所の官吏を一度免職の上、開拓使職名・月俸表(表2-2)をもって開拓使の職員として任命した。これらの職員に対しては、10月はじめに箱館裁判所設置以来の勤務状況及び箱館戦争時の行動についての調査を実施、函衛隊隊士を含めると245人が「進退調」を提出させられている(「官員進退調綴込」道文蔵)。翌28日には、箱館在留各国領事と会った。この時の在留領事は、J・H・デュース(フランス・デンマーク・スイス兼務)、E・E・ライス(アメリカ)、タラヘンテベルク(ロシア)、C・ガルトネル(プロシア)、ユースデン(イギリス)であった(東久世長官「日録」写)。
 次いで9月30日、(箱館県)裁判所を開拓使出張所と改称、名実共に開拓使の北海道での活動が開始され、同時に箱館府が所管した地方行政事務も、開拓使の手に委ねられることになった。しかし開拓使が活動を開始した時点では、明治2年7月22日の「今後諸藩士族及庶民ニ至ル迄、志願次第申出候者ハ、相応ノ地割渡開拓可被仰付」(「太政官日誌」『維新日誌』)との沙汰書により、開拓を志願者へは土地を割渡す方針で臨んでいたため、大寺院や諸藩に割り渡された土地については、これらの開拓者の手に委ねられていた。
 結局北海道全域が開拓使の手に委ねられるのは、4年8月に廃藩置県の実施を受けて諸藩や大寺院の分領支配が廃止された以降のことである。
 
 表2-1 開拓使出張所(函館)開設時の首脳陣表
      職名      
          氏名          
発令
年月日
      出身      
主勤務地
主な動向
辞転任
年月日
その後
開拓使長官東久世通禧2.8.26公家函館函館在勤期間2.9.25~4.4.19、4.4.24より札幌在勤
函館在勤中(東京出張3.1.12~6.、場所巡検3.8.11~9.22)
4.10.15
侍従長
開拓使判官島(団右衛門)義勇2.7.22佐賀藩士札幌2.10札幌本府建設に向かう、本府建設途中辞職
3.4.
大学少監
開拓使次官清水谷公考2.7.24公家勤務せず箱館府知事からの転職(箱館府廃止の事を聞きそのまま上京)
2.9.3
退職
開拓使判官岩村(左内)通俊2.7.25土佐藩士函館のち札幌長官と共に来函、4.1.15札幌へ出張、そのまま札幌の主任官
6.1.17
佐賀県権令(6.7.)
開拓使判官松浦武四郎2.7.25伊勢国東京東京在勤
3.3.
依願退職
開拓使判官岡本監輔2.7.25阿波国樺太2.9.10東京からヤンシー号で樺太に向かう、樺太主任官
3.1
退職
開拓使判官松本十郎2.8.18庄内藩士板室のち札幌長官と共に来函、2.9.29換室に向かう、そのまま板室主任官
9.9.
退職
開拓使判官竹田十右衛門(信順)2.8.越後高田藩士宗谷長官と共に来函、2.9.30宗谷に向かう、そのまま宗谷主任官
3.1.
不詳
開拓使権判官得能恭之助(通顕)2.8.2宇和島藩士函館長官と共に来函、東久世長官の東京出張、場所巡検とも随従
3.12.25
退職帰国
開拓使権判官岩村(右近)定高2.8.11佐賀藩士東京東京在勤
4.9.
不詳
開拓使権判官杉浦誠(元兵庫頭)2.8.29旧幕臣函館東京在勤の後、2.1.2.29函館着任、長官札幌在野後函館主任官
10.1.22
退職東京に戻る
開拓使権判官大橋慎三3.1.土佐藩士東京東京在勤
3.5.
有栖川熾仁親王家令

 「開拓使日誌」『新北海道史』第7巻史料1、『明治維新人名辞典』、明治3年 北海道開拓使 「職員録」(札幌学院大学蔵)より作成
 
 表2-2 開拓使職名・月給表
官位相当禄表
2年7月開拓使創置時
※3年4月正権幹事設置を含む
官位相当禄表
4年8月改正
※官禄を月俸に改正
官位相当禄表
5年8月改正
官位相当禄表
10年1月改正
※月俸は13年1月改正
官位
職名
原米
通例相当
職名
月俸
職名
月俸
職名
月俸
 
1
 
正二

 
従四
 
1
 
長官

500
 
1
 
長官

500
 
1
 
長官

500
2従二
従四
2次官
400
2次官
400
2次官
400
3正三長官
700
正五
33大判官
350
3
4従三次官
600
従五
4判官
250
4中判官
250
4大書記官
250
5正四
正六
5権判官
200
5少判官
200
5権大書記官
200
6従四判官
420
従六
66監事
150
6少書記官
150
7正五権判官
340
正七
7監事
100
7権監事
100
7権少書記官
100
8従五
従七
8権監事
70
8大主典
70
8一等属
上75下60
9正六監事
200
正八
9大主典
50
9権大主典
50
9二等属
50
10従六権監事
130
 
10権大主典
40
10中主典
40
10三等属
45
11正七大主典
85
 
11少主典
30
11権中主典
30
11四等属
40
12従七権大主典
67
 
12権少主典
25
12少主典
25
12五等属
35
13正八少主典
50
 
13史生
20
13権少主典
20
13六等属
30
14従八権少主典
35
14使掌
15
14史生
15
14七等属
25
15正九史生
26
1515使掌
12
15八等属
20
16従九使掌
20
等外1等
10
等外1等
10
16九等属
15
使部使丁
15
等外2等
8
等外2等
8
17十等属
12
付属
12
等外3等
7
等外3等
7
等外1等
10
等外1等
10
等外4等
6
等外4等
6
等外2等
8
等外2等
7
等外3等
7

 『開拓使事業報告』、『明治職官沿革表』より作成
 注 官位相当制は明治4年8月に廃止し、官を15等とする。以後の官位相当は通例を以て行うことになる。