札幌で開催された演説会で、「政談演説会」といった名称でお目見えしたのがこれである。創刊間もない『
北海新聞』に演説会に関する記事が載ったのは、二十年八月二十八日
東座での
阿部午之助の演説会が初出である。その後演説会は年を追って頻繁となり、「政談演説会」の名のもとに新聞広告で弁士と演題とを宣伝した。時に弁士が女性であろうものなら「女子演説」と物珍しそうに記した。演説内容はどちらかといえば啓蒙的内容が多かった。しかし二十四年の自由党の板垣退助一行の
北海道遊説は、札幌の有志が板垣伯招待事務所を設けて基金を集めるなど奔走した。
小塩武吉発起による八月十日
大黒座で開催された大演説会は、二〇〇〇人の聴衆を集め、地方議会開設や自由民権について論じられ、拍手喝采を浴びた。
二十五年の演説会からは討論テーマに道会開設や「廃娼」ものぼったが、
日清戦争後の演題をみると東洋、
ロシア、世界へと話題が大きく変わっていった。三十二年にはいわゆる社会問題も加えられていっている。次の表13は、当時の新聞等に掲載された演説会の演題を目に触れた限りを拾いあげたものである。
政談 | 2・10 | 成田山 仮安置所 | 助川 貞二郎 | 強国頼むに足らす、官吏を精選すべし | |
柳内 義之進 | 起よ北海道民、札幌市民の責任を論ず | |
岩谷 定蔵 | 進取論、吾人の急務 | |
女子 | 10・27 | 北三東三 対馬方 | 三橋 スケ | 学術演説 | 女学校の諸氏及び三〇余人の来会者 |
政談学術 | 2・25 | 市川亭 | 大庭 鉄民 | 現今の社会に対する日本人/冀くは政党を教育せん/男女関係論/婦人の地位ほか | |
筆 千代 | |
政談 | 8・10 | 大黒座 | 板垣 退助 | 地方議会開設後の警告 | |
河野 広中 | 地方議会の開設/特別自治制の実施 | 小塩武吉発起、聴衆二〇〇〇余人 |
高津 仲二郎 | 北海道議会の開設 |
竜野 周一郎 | 自由民権の説 | |
溝口 市二郎 | 北海道地方議会開設 | |
政談 | 9・28 | 立花座 | 助川 貞二郎 | 内閣責任論 | 弁士中止
|
新 鞆三郎 | 北海道の貧民を如何せん/条約改正論及ひ程度 | |
政談 | 11・29 | 立花座 | 青柳 鶴治 | 日本の安危を故人の三傑に祈る | 聴衆四〇〇余人 |
助川 貞二郎 | 北海道庁長官の上京に就て一言す | |
武藤 金吉 | 余は何故に北海道を論するや | |
小泉 清志 | 維新前後の社会の変遷 | |
新 鞆三郎 | 官民の親和策 | |
村上 祐 | 北海時論今後の方針 | |
政談 | 12・12 | 立花座 | 助川 貞二郎 | (老孤退治) | |
武藤 金吉 | | |
大貫 次郎 | | |
政談 | 2・7 | 立花座 | 荘子 斌 | 有責者の責任 | |
村上 祐 | 拓殖の方針 | |
新 鞆三郎 | 北海道の未来 | |
中西 六三郎 | 司法権の独立 | |
小泉 清志 | 道庁の吏員と政治新聞及壮士 | |
柳内 義之進 | 長官の更迭 | |
若宮 万治郎 | 団結の必要 | |
| 〔討論題〕北海道議会開設の可否/廃娼 | |
憲法発布 第三年期政談 | 2・11 | 立花座 | 荘子 斌 | 有力家の責任 | |
村上 祐 | 拓殖の方針(第二) | |
中西 六三郎 | 何そ彼に熱くして此に冷やかなる | |
柳内 義之進 | 北海道論 | |
小泉 清志 | 正当防衛を論じて監獄に及ぶ | |
町田 春貞 | 職務上の責任 | |
新 鞆三郎 | 北海道の未来 | 弁士中止 |
| 〔討論題〕婦人をして政談演説を聴かしむるの可否/北海道議会開設の可否/廃娼の可否 | |
婦人演説 | 9・30 | 豊陽館 | 小野 金 | 文明開化と男女同権を論ず | 聴衆立錐の余地なし |
政談 | 10・25 | 大黒座 | 村上 祐 | 札幌不景気の挽回策 | 聴衆二四〇~五〇人 |
| 11・13 | 豊陽館 | 助川 貞二郎 | 奸商高利貸の弊害 | 聴衆三〇〇余人 |
武藤 金吉 | (要旨)大火後地賃値上げの地主に対し引下げさせる事/高利貸に対し雪中貸借金を制限利子にする事/高利貸に対し貸借上より起る訴訟の悪弊を矯正する事/御用商人と工事請負に対し不義不徳を責むる事/奸商高利貸の為め苦しめられたる良民には無報酬にて救援する事/諸職工及日雇人薄資実業者を圧制虐待する者に対し弾刻運動をなす事/北海道芸娼技賦金廃止を期する事等 | |
| 11・14 | 豊陽館 | 武藤 金吉 | 奸商高利貸と認める者を無記名で投票の結果、一九人を指名。二人の討論演説 | 聴衆前夜にまさる |
助川 貞二郎 |
政談 | 2・26 | 大黒座 | 村田 不二三 | 元勲内閣の運命 | 聴衆六〇〇余人 |
青木 尚徳 | 丸い鶏卵も切り様で四角 | |
荘子 斌 | 失しと見し世ぞ今は恋しき | |
竜野 二郎 | 代言人の本分 | |
斎藤 周世 | 日本策 | |
仁平 豊次 | 万国平和策 | |
| 〔討論〕凶徒嘯集事件につき | |
政談 | 2・27~28 | 大黒座 | 青柳 捨三郎 | 起きよ北海道民殖民鉄道布設案に就て/政府と帝国議会の現状/当区消防夫と総代人と北門新報社に一言す/民党の勝利如何/拓殖振興会上京委員の御手柄を評す | |
助川 貞二郎 |
竹内 荻次郎 |
政談 | 5・26 | 金沢座 | 助川 貞二郎 | 金玉均殺害事件/第六議会党派/内閣諸大臣ノ責任/北海道問題 | |
政談 | 5・27 | 金沢座 | 吉田 多弁居士 | | |
金子 金城孟子 | | |
政談 | 6・2~3 | 金沢座 | 川村 竹次郎 | 山口県石代怪聞 | |
古林 繁越 | | |
政談 | 6・3 | 大黒座 | 富田 実英 | 出席弁士は黒川、井上、助川、根岸、阿由葉、段にて三人は中止命令、二人は拍手に葬られ、満足に演了は阿由葉のみ | 聴衆約二〇人 |
段 清吉 | |
根岸 一郎 | |
村上 祐 | |
黒川 寅象 | |
阿由葉 宗三郎 | |
助川 貞二郎 | |
鬼天神 盛男 | |
井上 利三郎 | |
金子 平吉 | |
| 11・2 | 金沢座 | 鬼天神 盛男 | | |
政談 | 10・28 | 大黒座 | 入山 祐二郎 | 大勲位伊藤博文/外交私議 | |
竜野 二郎 | 北門の警備 | |
村田 不二三 | 東洋の危機 | |
山口 正峻 | 韓山の風雲 | |
武藤 凡夫 | 内治及外交 | |
| 10・30 | 大黒座 | 嶋田 軍吉 | 世界統一論/日本国教論/危機一髪 | |
白水 仙人 | 奮起せよ国民/二百年以上長生の妙術を説く/台湾幻灯の説明 | |
政談 | 1・26~27 | 金沢座 | 嶋田 軍吉 | 世界統一論 | |
緊急問題政談 | 2・15 | 大黒座 | 入山 祐二郎 | 敵はセントペートルスブルグに在り | 降る雪を侵して六時頃までに土間も桟敷も所狭しと詰めかけたり |
竜野 二郎 | 本道人士の覚悟 |
村田 不二三 | 国辱を忘るゝ勿れ |
山口 正峻 | 如此破綻如何 |
荘子 斌 | 露兵朝鮮京城に入る |
吉田 良貞 | 開会の辞/廟堂諸公に決心を促す |
政談 | 2・25 | 末広座 | 若宮 万次郎 | 東洋大経論及北海道将来ノ一大恐慌の予言 | |
政談 | 3・1 | 大黒座 | 若宮 万次郎 | 露国を屠るは日本刀と村田銃/東洋の危機吾人頭上に来る/戦後の経営鉄道軍備/神聖なる大日本帝国を侮辱する者は誰そ | |
政談 | 8・7 | 大黒座 | 松田 正久 | 衆口一致自党の効用を吹き立てると共に進歩党を罵倒し、改進党を巾着切とまで極論す | 入場券売捌高八〇〇余枚 |
草刈 親明 |
平田 箴 |
瀬戸 荒熊 |
政談 | 10・7 | 大黒座 | 戸沢 篤次郎 | 開会の辞 | 聴衆五〇〇余人 |
成田 熊太郎 | 立憲治下の民 | |
外川 水哉 | 泣いて区民諸氏に訴ふ | |
田沼 吉三郎 | 区総代人会の決議に就て | |
伊藤 北鳴 | 札幌区民を無視する者は誰ぞ | |
田中 常次 | 嗚呼札幌区 | |
荘子 斌 | 職責論 | |
入山 祐二郎 | 議権濫用の弊 | |
非政談 | 1・20~21 | 丸市亭 | 南場 琢磨 | | |
政談 | 6・21 | 大黒座 | 田沼 吉三郎 | 公道無私問題に関する私見 | |
古田 周久 | 嗚呼斯の天下の大道 | |
村田 不二三 | 行政官の職司を疑ふ | |
竜野 二郎 | 行政官の徳義 | |
戸沢 篤次郎 | 林区長の不信任 | |
荘子 斌 | 人焉ぞ痩さん哉 | |
吉田 重貞 | 敢て林区長に問 | |
遠藤 虎龍太 | 区民に訴ふ | |
三角 茂喜 | 所感 | |
柳内 義之進 | | |
阿由葉 宗三郎 | | |
阿部 宇之八 | | |
政談 | 2・10 | 大黒座 | 瀬戸 荒熊 | 吾人大帝国前途大いに戒むへきものあり/吾北海道の今日甚だ憂ふへきものあり | |
労働問題 | 7・20 | 禁酒倶楽部 | 蠣崎 知二郎 | 開会の辞/カルスト氏の略歴 | 二〇〇余人来会 |
ガルスト | 新経済なる題下に単税論 | |
政談 | 9・18 | 大黒座 (北海道同志倶楽部主催) | 藤田 覚路 | 復旧工事を論ず | |
村田 不二三 | 運用の妙 | |
中西 六三郎 | 地方官の職責 | |
上野 勘助 | 北海道の大革新 | |
村上 祐 | 水害善後策 | |
吉植 庄一郎 | 道民の責任 | |
高山 亀太郎 | 本道経済上に対する吾人の観察 | |
上田 戴憲 | 北海道党の必要 | |
土居 勝郎 | | |
小西 和 | | |
泉 重朝 | | |
香山 昴 | | |
東 武 | | |
田中 清一 | | |
政談 | 9・28 | 丸市亭 | 鬼天神 盛雄 | | |
政談 | 10・24 | 金沢座 | 田尻 稲堂 | 今回ノ水害ニ於テ御勅使冷遇事件ヲ始メ摘要/大ニ道庁ヲ質ス | |
他二人 | |
政談 | 4・1 | 金沢座 | 田尻 稲堂 | 貸座敷移転問題に付き | |
他二人 | | |
社会問題 | 7・24 | 札幌協会 (札幌基督教青年会主催) | 蠣崎 知二郎 | 革新の機運 | |
片山 潜 | 欧米に於ける近世社会問題 | |
政談 | 7・24 | 大黒座 (憲政党札幌支部) | 鈴木 儀左衛門 | 自由党の戦後の経営に係る行動より本道人民の政党加入の必要 | |
立川 雲平 | 北海道の拓殖 | |
菅原 伝 | 財政と軍備につき同党の行動 | |
井上 角五郎 | 国富の開発につき経済的に我国現今の状勢 | |
星 亨 | 自由党の方針 | |