まず明治三十七年に、札幌農学校生徒で俳人の飯塚露声が『サッポロ文学』を創刊した。これには河合裸石、小田観螢(短歌)、阿岐桃園らが加わったが、短詩型が主体だったようである。しかし当時単独の俳誌、短歌誌に多くみられるような流派性はこの型では持ち得ず、それだけ自主的な運動という面が強かったのではないかと思われる。
ついで三十九年早々に、前述のように山本露滴が『北光』を発刊したが、『北海タイムス』には「北光の発行」の見出しで「山本露滴君の主裁せる北光第一号出づ、満紙色刷りの中々念の入りたるもの、未完の文章多きが此雑誌の特色なるべし」(明39・2・11)とある。山本は歌人であるが、「未完の文章多き」とは、随想、評論、小説のたぐいがいくつか掲載されているとみるのが妥当であり、綜合文芸誌的な性格をおびている可能性が高い。また、同年十一月十九日の同紙では「サッポロ文壇の賑ひ」と題して、札幌における文学雑誌は目下『少日本人』と『光』であるが、今回合同し冨貴堂、札幌堂、原田新聞店が後援し、西堀北水、加藤弦月が編集に当たることなどが記されている。
四十年になると、札幌農学校が東北帝国大学農科大学に昇格し、これまでの予備科(二年)は修学年限三年の予科となり、かつ人員も大幅に増加したことが、文学のみならず札幌の文化万般にかなりの影響を及ぼすこととなった。まず四十年十二月に、予科生藍野祐之、原田三夫によって回覧雑誌『星羊』が発行されたが、翌四十一年春、星羊会会員の原稿は校友会誌『文武会報』に掲載することとなり、同会は解散の形となった。また農大生によって四十一年には『梅暦』、四十二年には『鶏明』、四十四年に『原人』、四十五年四月に『辛夷』(恵廸寮誌)などが発刊された。ついで明治四十五年(大正元年)年号がかわる前後に『北国文壇』が創刊されたが、これには篠原三郎(並木凡平)、河合裸石、辻義一などが参加しており、札幌在住の文学に志す者たちの結集という性格を持っている。
大正六年には出口豊泰を発行人として『巳達』(おれたち)が創刊されたが、これは四年九月小樽に創刊された『白夜』の後継誌といわれる。しかしこの巻の時期で文芸同人誌の発刊が最もさかんとなり、質的にも充実したのは九年以降であった。すなわち同年には『路上』(辻義一ほか)、『君影草』(松宮征夫ら)、『路上』(辻義一、支部沈黙ほか)、『鈴蘭』(横田庄八ほか)、十年には『北大文芸』『青空』(川崎比佐志ほか)、『路傍人』(代田茂樹ほか)、『平原』(稲村順三ほか)、『歩み』(南須原政雄ほか)、『とどろき』(大石実ほか)、『氷河』(服部光平ほか)、『街』などがあげられる。このうち『北大文芸』と『平原』は姉妹誌の関係にあり、『北大文芸』として集めた原稿で『平原』創刊号が作られたため、『北大文芸』には創刊号が欠けている。
写真-3 雑誌『氷河』表紙
これら文芸誌の特徴等について若干付記すれば、まず第一には、文学に社会主義思想が入ってきたことである。その顕著な例は『平原』『氷河』で、『平原』の場合は稲村順三(北大予科生、元社会党代議士)、沢村克人(同、元朝日新聞論説委員)、菅原道太郎(農学部本科二年、元樺太庁農事試験場長)らが、日本国民の大半を占める農民生活の立て直しのための文学をめざしつつも、それが社会主義運動として圧迫をうけるおそれがあるため、まず北方の特異な自然を舞台として文学をめざした。しかし『氷河』は「底力のある、図体の大きい北海道には、また北国の文芸があらねばならぬ(中略)文字の上の遊戯としてではなく、事実の上に於て文芸はブルジョワジイの羈絆から脱却してプロレタリアートの文芸であらねばならぬ」(古沼艸之助)と鮮明にプロレタリア文学への指向をうち出した。
これとは対照的に芸術至上主義的傾向を持っていたものとして『歩み』があげられ、南須原彦一・政雄兄弟、外山卯三郎などが担い手の中心として活動した。さらに内容としては、これまで短詩型文学が主であったのに対し、小説、評論の比重が増してきたことも特色の一つとして指摘できよう。
こうした同人文芸誌のほかにも、いくつかの文芸誌等が刊行された。明治四十一年十二月に「北海の学術文芸を鼓吹」(北タイ 41・10・21)するため北海学芸社が設立され、「寄書家」に農大教授等を依頼して『北海学芸新誌』が創刊された。同誌は和歌、俳句等を題演募集しており、選者には佐々木信綱、内藤鳴雪、其角堂一機など在京の歌人、俳人があたった。翌四十一年一月に北海之青年社より『北海之青年』が創刊された。同誌の予定寄書家には南鷹次郎、松村松年などの農大教官、内田魯庵、巌谷小波などの在京作家、河東碧梧桐などの俳人が挙げられており、学術、文芸と深く関わっていることを示している。その後両誌は合同し、『北溟』と改題して同年三月に発刊することとなった(同前 42・2・25)。おそらく経営等が順調でなかったということであろう。