市街の区画
内地から始めて札幌に来て驚かされるのは、井然として一糸乱れざる市街の区画と、道幅の広いのとであらう。表通りは十一間、裏通りは六間、火防線の大通りは実に六十間の広さがある。全国何れの都市に行っても、軍隊が中隊縦隊の儘で縦横に通過し得らるゝ所は、恐らくは我札幌を除いて他に求むる事は出来まい。区の中央なる大通を以て南北を区別し、区内を貫流する創成川を以て町の東西が区分されてある。南は南一条より南七条まで、北は北一条より北十五条まで、町(ママ)は東一丁目より東五丁目まで、西は西一丁目より西二十一丁目まであり、面積は九百三十二町歩、町数三百余、戸数はモウ少しで一万に手の届く処、人口は七万一千余ある。
殷賑なる巷
南一条西一丁目より西四丁目まで、即ち昨年の大火で一甜めに遣られた中心が札幌目抜きの場所で、大厦高楼軒を連ねて櫛比し各種の商店一として欠如する者なく、足一度這巷を履めば何一として整はぬものはない。南二条通は之に亜ぎ、狸小路の俗称ある南二条と南三条間の中通りは飲食店、雑貨店、各種の商店、寄席等あり。夜の札幌を知らんと欲せば、此小路丈は何を措ても真先に観なければならぬ。
名所
▲中島遊園地は市街の南端で這回共進会を開設した所である。瓢形の池水あり、扁舟を浮ぶべく所々に丘陵あり、軟草青氈の如く樹林蒼鬱として、飽くまで雄大而して飽くまで幽邃。昨年八月開設した物産陳列場には、平素本道各種の産物を蒐集して公衆の縦覧に供し、旗亭は西の宮支店、大中支店、其他数件あり。何れも客室の清楚と調理の美で鳴って居る。園に接し岡田花園あり、競馬場あり、四季の眺めに一として佳ならざるはなく、区内唯一の娯楽場で、今は納涼の為め日没時より老若男女の筇を曳く者引きも切らぬ。
▲岡田花園 中島遊園地に隣接した処で園内和漢洋の花卉物一として栽培せられざるなく珍花奇草四時咲き誇って居り庭樹に盆栽に何を求めてもないものはない。園内の清池には緋鯉金魚あり築山茶亭其風流閑雅なる事一度は観て置くが宜い。
▲博物館は区内北三条西八丁目の幽邃の地にあり、農科大学の附属物で、本道産の動植物鉱物其他毛皮類アイヌの製作に係る各種の器具を陳列し、毎年四月より十月まで毎月(週の誤か)二回宛開館して公衆の縦覧に供し、構内には有名なる温室があって、暖国産の植物を培養し、四時珍花の絶ゆる事がない。
▲円山公園 札幌神社の境内にあるので札幌を距る西南方三十余町、桜花を以て名ある処、園に隣接して養樹園があり、御料局札幌支庁の所轄で各種の苗木を培養し、試験林として其名が高い。
▲東皐園は北八条東一丁目にあり、明治十一年の創設に係り、花卉として見るべきものは何でもあり、殊に牡丹と花菖蒲に至っては其名が殊に高い。
▲黒田伯銅像 区内大通西八丁目の中央札幌税務監督署の向ひにある。去る三十三年九月二十三日、伯の訃報一度伝へらるゝや、道民深く伯の本道に於ける功労を追想し、一大銅像を建設して不朽に伝へんとし、翌三十四年五月起工に着手し三十六年六月落成した。札幌観光の人士は一度此英采を仰で、伯の拓殖に関する功労を偲なければならぬ。
官公衙
▲北海道庁 区内北三条西五丁目の突当りにある巍然たる三層楼の建物が道庁である。明治十九年建築、工費十九万両を投じて起工し、二十一年漸く落成したもので、基模宏壮外観の荘厳なるには新来の人士何れも喫驚せない者はない。現代長官は河島醇氏、初代の岩村通俊より永山、渡辺、北垣、原、安場、杉田、園田の各長官を経て現長官河島氏に及んだので、丁度九代目である。札幌区が今日の発達を見るに到った素因を、歴史的に考へて這建物に接したならば、言い知れぬ感興が湧くに相違ない。
▲札幌郵便局 昨年の大火前は大通西二丁目角にあったが、罹災後未だ建築が出来ず、北一条西二丁目元農学校跡及び電話交換局西隣等に分離して事務を扱って居る。同局は二十二年一等局となり、二十六年官制改正の結果、全道に於ける郵便電信局及び建築事業を管理し居る。
▲札幌支庁 大通西三丁目にあった庁舎矢張り昨年の大火に焼て、目下北一条西五丁目に建築工事中であるが、事務道庁構内北海道会議事堂内で扱って居る。
▲札幌礦山監督署 北六条西五丁目にある。明治二十六年に創設されて一度廃されたが、二十八年再設せられ全道に於ける礦山事務を監督して居る。
▲御料局札幌支庁 北一条西十二丁目高等女学校と相対して屹立した宏大なる建物が御料局札幌支庁である。明治二十三年の創設で、江差、函館、札幌、岩見沢、増毛、上川、川上の七ヶ所に出張所がある。
▲札幌税務監督署 大通西七丁目黒田銅像横にある立派なる建物が夫れである。三十年の創設で、札幌、小樽、岩内、増毛、宗谷、浦河、室蘭、空知の八税務署を監督して居る。
▲札幌地方裁判所 停車場通り北三条西三丁目にある。札幌、小樽、増毛、稚内、浦河の各区裁判所を管轄して居る。
▲札幌区裁判所 札幌地方裁判所の建物内に設けられ、石狩、胆振の二ケ国を管轄して居る。
(中略)
娯楽場
▲大黒座 明治八年の創設に係り、場所は南四条西三丁目、目下志村一座興行中。
▲札幌座 明治三十五年創立したるものにして、場所は南七条西五丁目、目下竹内革新派興行中。
▲札幌亭 狸小路西一丁目にあり、建築新にして設備完し。
▲開進亭 南三条西四丁目にあり、明治十二年開始したるものにして、当時市川亭と称したりしが廿五年の大火に焼失し、再築後恵館又々清明館と改め、後又開進亭とす。
▲南亭 三十年の建築にして、狸小路二丁目。
内地から始めて札幌に来て驚かされるのは、井然として一糸乱れざる市街の区画と、道幅の広いのとであらう。表通りは十一間、裏通りは六間、火防線の大通りは実に六十間の広さがある。全国何れの都市に行っても、軍隊が中隊縦隊の儘で縦横に通過し得らるゝ所は、恐らくは我札幌を除いて他に求むる事は出来まい。区の中央なる大通を以て南北を区別し、区内を貫流する創成川を以て町の東西が区分されてある。南は南一条より南七条まで、北は北一条より北十五条まで、町(ママ)は東一丁目より東五丁目まで、西は西一丁目より西二十一丁目まであり、面積は九百三十二町歩、町数三百余、戸数はモウ少しで一万に手の届く処、人口は七万一千余ある。
殷賑なる巷
南一条西一丁目より西四丁目まで、即ち昨年の大火で一甜めに遣られた中心が札幌目抜きの場所で、大厦高楼軒を連ねて櫛比し各種の商店一として欠如する者なく、足一度這巷を履めば何一として整はぬものはない。南二条通は之に亜ぎ、狸小路の俗称ある南二条と南三条間の中通りは飲食店、雑貨店、各種の商店、寄席等あり。夜の札幌を知らんと欲せば、此小路丈は何を措ても真先に観なければならぬ。
名所
▲中島遊園地は市街の南端で這回共進会を開設した所である。瓢形の池水あり、扁舟を浮ぶべく所々に丘陵あり、軟草青氈の如く樹林蒼鬱として、飽くまで雄大而して飽くまで幽邃。昨年八月開設した物産陳列場には、平素本道各種の産物を蒐集して公衆の縦覧に供し、旗亭は西の宮支店、大中支店、其他数件あり。何れも客室の清楚と調理の美で鳴って居る。園に接し岡田花園あり、競馬場あり、四季の眺めに一として佳ならざるはなく、区内唯一の娯楽場で、今は納涼の為め日没時より老若男女の筇を曳く者引きも切らぬ。
▲岡田花園 中島遊園地に隣接した処で園内和漢洋の花卉物一として栽培せられざるなく珍花奇草四時咲き誇って居り庭樹に盆栽に何を求めてもないものはない。園内の清池には緋鯉金魚あり築山茶亭其風流閑雅なる事一度は観て置くが宜い。
▲博物館は区内北三条西八丁目の幽邃の地にあり、農科大学の附属物で、本道産の動植物鉱物其他毛皮類アイヌの製作に係る各種の器具を陳列し、毎年四月より十月まで毎月(週の誤か)二回宛開館して公衆の縦覧に供し、構内には有名なる温室があって、暖国産の植物を培養し、四時珍花の絶ゆる事がない。
▲円山公園 札幌神社の境内にあるので札幌を距る西南方三十余町、桜花を以て名ある処、園に隣接して養樹園があり、御料局札幌支庁の所轄で各種の苗木を培養し、試験林として其名が高い。
▲東皐園は北八条東一丁目にあり、明治十一年の創設に係り、花卉として見るべきものは何でもあり、殊に牡丹と花菖蒲に至っては其名が殊に高い。
▲黒田伯銅像 区内大通西八丁目の中央札幌税務監督署の向ひにある。去る三十三年九月二十三日、伯の訃報一度伝へらるゝや、道民深く伯の本道に於ける功労を追想し、一大銅像を建設して不朽に伝へんとし、翌三十四年五月起工に着手し三十六年六月落成した。札幌観光の人士は一度此英采を仰で、伯の拓殖に関する功労を偲なければならぬ。
官公衙
▲北海道庁 区内北三条西五丁目の突当りにある巍然たる三層楼の建物が道庁である。明治十九年建築、工費十九万両を投じて起工し、二十一年漸く落成したもので、基模宏壮外観の荘厳なるには新来の人士何れも喫驚せない者はない。現代長官は河島醇氏、初代の岩村通俊より永山、渡辺、北垣、原、安場、杉田、園田の各長官を経て現長官河島氏に及んだので、丁度九代目である。札幌区が今日の発達を見るに到った素因を、歴史的に考へて這建物に接したならば、言い知れぬ感興が湧くに相違ない。
▲札幌郵便局 昨年の大火前は大通西二丁目角にあったが、罹災後未だ建築が出来ず、北一条西二丁目元農学校跡及び電話交換局西隣等に分離して事務を扱って居る。同局は二十二年一等局となり、二十六年官制改正の結果、全道に於ける郵便電信局及び建築事業を管理し居る。
▲札幌支庁 大通西三丁目にあった庁舎矢張り昨年の大火に焼て、目下北一条西五丁目に建築工事中であるが、事務道庁構内北海道会議事堂内で扱って居る。
▲札幌礦山監督署 北六条西五丁目にある。明治二十六年に創設されて一度廃されたが、二十八年再設せられ全道に於ける礦山事務を監督して居る。
▲御料局札幌支庁 北一条西十二丁目高等女学校と相対して屹立した宏大なる建物が御料局札幌支庁である。明治二十三年の創設で、江差、函館、札幌、岩見沢、増毛、上川、川上の七ヶ所に出張所がある。
▲札幌税務監督署 大通西七丁目黒田銅像横にある立派なる建物が夫れである。三十年の創設で、札幌、小樽、岩内、増毛、宗谷、浦河、室蘭、空知の八税務署を監督して居る。
▲札幌地方裁判所 停車場通り北三条西三丁目にある。札幌、小樽、増毛、稚内、浦河の各区裁判所を管轄して居る。
▲札幌区裁判所 札幌地方裁判所の建物内に設けられ、石狩、胆振の二ケ国を管轄して居る。
(中略)
娯楽場
▲大黒座 明治八年の創設に係り、場所は南四条西三丁目、目下志村一座興行中。
▲札幌座 明治三十五年創立したるものにして、場所は南七条西五丁目、目下竹内革新派興行中。
▲札幌亭 狸小路西一丁目にあり、建築新にして設備完し。
▲開進亭 南三条西四丁目にあり、明治十二年開始したるものにして、当時市川亭と称したりしが廿五年の大火に焼失し、再築後恵館又々清明館と改め、後又開進亭とす。
▲南亭 三十年の建築にして、狸小路二丁目。
案内のうち、学校、神社、寺院、旅館、旗亭、西洋料理屋を割愛せざるをえなかったが、四十二年の『最近之札幌』とともに札幌を訪れる人びとの案内ともなった。