第二期

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大沢(一九六二)の第一期に相当する古岩木火山が形成された時期である。凝灰角岩など火砕岩を主体とする古岩木火山は、図10の赤倉沢における地質断面に示したように、標高約一二〇〇メートルまでは現火山体を構成している。なお、図11には蔵助沢、図13には主要放射谷での地質断面を示した。古岩木火山体を構成する毒蛇沢層火砕岩を主体とするが、赤倉沢の崩落地にみられる呼称「六枚ラバ(13)」(口絵)のように厚い火砕岩の中に薄い輝石安山岩質溶岩流が何層も挿入されている。

図13 主要放射谷での地質断面図

 K-Ar法による年代測定では、赤倉沢の標高一二〇〇メートルの「六枚ラバ」最上部が〇・二四±〇・〇三百万年前であり、また佐々木ほか(一九九六)の測定値によると、〇・二〇±〇・〇五百万年前~〇・二五±〇・〇五百万年前とやや幅広い年代値を示している。おそらく二〇~二五万年前に、先岩木火山に引き続いて、現火山体の位置を中心として古岩木火山火山活動を開始して、最初は火砕岩を主体とした噴火活動であるが、後半には薄い溶岩流を流出するような活動へと変化していったと考えられる。
 そして、標高約一〇〇〇~一二〇〇メートル付近に直径一〇〇〇~一五〇〇メートルの火口を有するほどの噴火活動が起こった(塩原・岩木山団研、一九八〇)。一色・大沢(一九六七)はこの活動を赤倉沢泥流として、佐々木ほか(一九九六)は十腰内岩屑なだれとして取り扱い、特に一色・大沢(一九六七)は一八八八年の磐梯山の水蒸気爆発に匹敵するほどの規模と推定している。おそらく、「磐梯式噴火」の水蒸気爆発古岩木火山の山頂部が大崩壊し、山麓に岩屑なだれが流下し堆積したと考えられる。特に、北麓への流下量が多く鳴沢川の河口付近まで達している。鈴木(一九七二)は、この岩屑なだれ堆積物古岩木火山体の構成層と考え、分布範囲の広さから現岩木火山よりも大型で円錐形の成層火山を想定していたと思われる。なお、写真21は北海道駒ヶ岳であるが、山頂部が大きく崩落している。これは一六四〇年の噴火活動で発生した岩屑なだれによるものであって、これによって南麓の大沼や小沼が形成された(守屋、一九八三)。古岩木山岩屑なだれ発生後はこのような姿であったと思われる。

写真21 北海道駒ヶ岳。岩屑なだれにより山頂部が大きく崩落し,くぼんだ形となっている。

 この岩屑なだれ堆積物は、黄褐色を呈する凝灰質砂を基質(14)とし、亜角~亜円の、径三〇~一〇〇センチメートル大(最大径三〇〇センチメートル大)の安山岩を多量に包含する。全体的に淘汰不良で、局部的に細混じりの粗砂層がブロック状に堆積したり巨が密集したり、また風化が進んでたまねぎの表皮のように剥(は)がれる安山岩や粘土化したを含んだり、岩相(15)は均一ではない。厚さは赤倉沢の標高五〇〇メートル付近で約一〇メートル(口絵)、鯵ヶ沢町湯舟近くの三角点で約一五メートル、西麓の白沢流域で約五メートルを確認している。白沢では岩屑なだれ堆積物直下に、古岩木火山の構成層である赤紫色の凝灰角岩が堆積している。火山麓扇状地外縁にあたる、長前川流域の丘陵でもやはり岩屑なだれ堆積物が確認できる(写真22)。

写真22 長前川流域の丘陵にみられる岩屑なだれ堆積物

 古岩木火山の磐梯式噴火の結果、標高約一〇〇〇~一二〇〇メートル付近には直径一〇〇〇~一五〇〇メートルの北開きの馬蹄形をしたカルデラが形成された(図12)。そのときの岩屑なだれの流下によって、岩木火山の火山原面前縁に分布する岩屑なだれ堆積面や、西麓の松代面、北~北東方の火山麓扇状地外縁の丘陵、南麓の松代面などが形成されることになる。